例年11月に実施される、スタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo」。通算9回目となる今年も11月14日(木)、15日(金)に東京・渋谷ヒカリエでの開催が決定している。そのTC Tokyoで毎年最大の目玉となる催しは、設立3年未満のスタートアップ企業が競うピッチイベント「スタートアップバトル」だ。
連載「スタートアップバトルへの道」では、2016年、2017年のスタートアップバトル最優秀賞受賞者と昨年の決勝に勝ち残ったスタートアップ計8社に取材。バトル出場までの道のりや出場してからの変化について、登壇者に話を聞く。
初回に登場するのは、TC Tokyo 2016 スタートアップバトルで最優秀賞を獲得したKids Public(キッズパブリック)代表の橋本直也氏。2回に分けてお送りするインタビューの前半では、出場までの経緯や準備、登壇時の感想などについて聞いた。
出場のきっかけ
Kids Publicは2015年12月に小児科医の橋本氏が創業した、遠隔医療相談サービスを提供するスタートアップだ。現在は小児科に特化したオンライン医療相談の「小児科オンライン」や、産婦人科医・助産師にスマホで相談できる「産婦人科オンライン」などのサービスを提供している。
Kids Publicはデジタルガレージが主催するアクセラレータープログラム「Open Network Lab」(以下、Onlab)の第12期に参加しており、「プログラム終了後にスタートアップバトルへの出場を勧められたことが、応募のきっかけだった」と橋本氏が振り返る。
Onlabには、2015年のバトル勝者となったSmartHRが第10期に参加していた経緯もあり、「Onlabから、TC Tokyoへという流れがあった」とのこと。橋本氏も「ぜひチャレンジしたい」と応募を決めた。
また橋本氏が現役の小児科医で、エンジニアや経営者と普段接点がなかったことも、出場のひとつの理由になったという。「医師同士のネットワークはあり、医師仲間はいるが、開発やビジネス面でのネットワークはゼロから構築しなければならない。TechCrunchはそういう人たちに見られているメディアだ。出場によって事業チャンスや人とのつながりがつくれると考えたことも、応募への大きな動機となった」(橋本氏)。
資料づくりにはプロの力も借りて
橋本氏は「出場準備には時間をかけた」と話している。「全体としては2週間ぐらいのことだったが、その間、かなりの時間を資料づくりや練習に費やした。Onlabの人にも見てもらいながら、準備を進めた」(橋本氏)。
当時Kids Publicが提供していたプロダクトは、リリースから約半年の小児科オンライン。バトルの審査員やTC Tokyoの来場者のほとんどは、小児科の現場の実態を知らない人たちだ。橋本氏は「プレゼンでは、小児科医療の世界を知らない人の目線に合わせて、話の最初の方で聞き手の心をつかめるよう心がけた」と述べている。
スタートアップバトルでは、イベント初日に書類選考を経て選ばれた20社のファイナリストたちが、それぞれ3分の持ち時間でプレゼンを行い、2日目にはその中から選ばれた6社が、5分間のピッチで競い合う。
「持ち時間が長くなる決勝では、より詳しく伝えられるように準備はしていた。また、初日はちょっと早口で詰め込み気味にしゃべってしまったので、2日目はハッキリゆっくりしゃべるように心がけた」(橋本氏)。
資料については、1スライド1メッセージで、煩雑になりすぎず、かといって削りすぎず、スライドの中でどの数字が一番訴えたいかを考えて構成するなど、「当たり前と言えば当たり前のことをやった」という橋本氏。最後の仕上げには「プロの力を借りた」と明かす。「同級生にデザイナーがいて、休みの日に手伝ってもらった。ビジュアルの統一感や視覚的な分かりやすさは、それをどうすれば実現できるか分かるプロにお願いしてよかった」(橋本氏)
エンジニア採用や商談で優勝の効果を実感
「下見やリハーサルの時点で大きな会場だと感じた。バトル当日はそれに加えて『結構人が入っているんだな』と思った」というのが登壇した際の橋本氏の感想だ。聴衆が多いことで「やりがいがあった」とのことで、緊張したというよりは「どうせなら多くの人に訴えたいという思いが強くて、楽しかった」という。共に出場するスタートアップについても「周りも本気で出場しているな、と感じ、大変刺激になった」と話している。
当日会場には、会社から1人だけ橋本氏の登壇を見に来たそうだ。「当時は4人ほどの組織だったので、ほかのメンバーは淡々と仕事をしていた」とのことで、社内的にはバトル出場・入賞でそれほど大きな変化はなかったと思う、と橋本氏はいう。ただ「投資家を含む審査員や来場者に、優勝というかたちで評価されたことは、チームにとっても良かったのではないか」と振り返っている。
一方で社外・対外的には大きな変化があり、「バトルで優勝したことの効果を実感した」という。特にエンジニアについては、面談すると「TCで見ました」と言われるようになり、テック領域での知名度の向上を実感したそうだ。出場してから商談が進み、導入に至ったところもあるということで、事業面でも「メリットをすごく感じた」という橋本氏。「TC Tokyoでの優勝がステータス、評価になった」と語る。
インタビュー後半では、出場後の事業のアップデートやKids Publicが見据える今後の展望、そしてこれからバトル出場を目指す起業家へのメッセージを橋本氏に聞く。