Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は過去21年間「The Best or Nothing.(最善か無か)」というブランドスローガンを掲げ自動車を販売してきた。メルセデス・ベンツは、2021年モデルのS580を「Best」として世に送り出すため、学習によりオーナーのニーズを予測するインフォテインメントシステム、新しいリアステアリング機構、先進運転支援機能のアップグレードなどのテクノロジーをこのフラッグシップセダンに搭載した。
価格は11万850ドル(約1229万円)からと高額だが、現代の運転や生活を豊かにするものすべてを備えた最高級のメルセデス・セダンを求める、非常に裕福なエグゼクティブのためのラグジュアリーカーだ。
Sクラスの伝統を受け継ぎ、このセダンはやはり頼もしいスペックを持つ。ニューモデルでは、全長が1.3インチ(約3.3cm)、全高が0.4インチ(約1cm)増し、乗員と荷物のためのスペースが拡大された。ベースとなる2021年モデルのメルセデス・ベンツS500は、四輪駆動で、429HP(約320kW)の最高出力と384lb・ft(約520N・m)の最高トルクを発揮する新しい直列6気筒エンジンを搭載している。これは先代モデルよりも60HP(約45kW)以上向上している。筆者が試乗したS580も、四輪駆動であり、496HP(約370kW)の最高出力と516lb・ft(約700N・m)の最高トルクを誇る、スムーズでパワフルかつ静かな4.0リッターツインターボV8エンジンが搭載されていた。また、どちらのモデルにも48Vマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。
メルセデスはSクラスにおいて、いつの時代も「人間中心の革新」を謳ってきた。当初同社は、自動車メーカーは技術を駆使して安全性を向上させていた(1950年代には衝突時にドアが突然開かないようにしたり、1960年代には衝撃を吸収するクランプルゾーンを設けたりした)。また、1990年代以降は、運転、駐車、ナビゲーションの操作性を向上させることに注力してきた。例えば、1996年には音声認識パッケージオプションを設定し、音声コマンドでカーフォン(覚えているだろうか)を作動できるようにした。
メルセデスはテクノロジーの限界に挑戦し続けており、最近ではEQSと呼ばれるSクラスの完全電気自動車モデルを発表している。2021年のSクラスは、数々のテクノロジーを搭載し、エグゼクティブを魅了する新世代のモデルを象徴するかもしれないが、完全電気自動車であるEQSを凌駕するほどではない。
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運転支援システム
メルセデスは、1998年に「ディストロニック」と呼ばれるアダプティブ・クルーズ・コントロール機能を発表して以来、先進運転支援システムの分野を長く牽引している。
2021年モデルのSクラスでは、ADAS(先進運転支援システム)がアップグレードされ「ドライブパイロット」と名づけられた。これは、車両全体に配置された22個のセンサーとカメラから送られた情報を基に5つのマルチコアプロセッサーが毎秒1000回の運転状況分析を行い、車両を制御するというものだ。
つまり、この車が道路状況、他のクルマ、道路標識、歩行者や自転車などを「見て」人間のドライバーと同じように対応する、ということだ。
ロサンゼルスからモンテシートまでのドライブ(フリーウェイを利用すれば約130マイル[約209km])では、山や海の曲がりくねった道や、ロサンゼルスの劣悪なコンクリートブロックでできたフリーウェイ405を、停車や発進を繰り返しながら走ったが、ドライブのほとんどの間、S580をアダプティブクルーズに設定していた。システムは期待どおりに機能し、105号線から101号線までの数珠つなぎの渋滞の中を、このSクラスは加速、停止を適切なタイミングで自動的に行なってくれた。それだけではない。目的地に着くのに6時間かかったが、疲れていなかったし、うんざりもしていなかった。
スマートフォンをいじりながら車線変更してきたクルマに追突するのを危うく防いだときも、アダプティブクルーズシステムは制御を保ち続けた。筆者はこの出来事の間、集中して運転していたが、メルセデスは、たとえADAS機能が運転の一部をサポートしたとしても、ドライバーに注意を促すようにシステムを設計している。
車内やハンドルに設置されたタッチセンサーや、視線追跡カメラ、顔認識カメラなどにより、ドライバーの注意力をモニタリングする。ハンドルから手を離すとセンサーがそれを感知し、進路が逸れつつあるという警告が運転席のディスプレイに表示され、数秒後にADASシステムが解除される。
視線検出と顔のモニタリングは、ドライバーの眠気や注意力低下の典型的な兆候を認識するために使用され、ドライバーに休憩を促す警告メッセージを表示する。また、ドライバーディスプレイに内蔵されたカメラでドライバーのまぶたの動きを追跡し、マイクロスリープを警告する機能も新たに搭載された。
メルセデスは、2021年のSクラスが自動運転レベル4に向けて準備されていると主張しているが、2020年9月の新車発表会では、幹部が「レベル3の条件付運転自動化は近い」と述べていた。この車両に搭載されているハードウェアは、その最終目標をサポートするためのものだ。
その22個のセンサーとカメラによって、制限速度の標識や工事現場などの道路上の危険を認識できるようになったが、筆者には少し気になることがあった。ADASが作動しているときに制限速度が時速55マイル(時速約89km)に下がった区間に入ると、Sクラスが急に制限速度に合わせて減速することがあった。周りの車が時速70マイル(時速113km)以上で走っていなければいいのだが、速い流れの中では不安になる。
また、新型Sクラスには、ADASシステムを解除することなく、ドライバーの安全な車線変更をサポートするレーンチェンジングアシストが搭載されている。クルーズコントロールを作動させているとき(視線は前に向け、手はハンドルから離さずに)ウィンカーを点滅させると、Sクラスは、周囲に問題がなければドライバーがほとんど何もしなくても、車を隣の車線の中央に移動させることを安全にやってのける。
ADASの進化に加えて、メルセデスはパーキングアシストもアップグレードした。Sクラスにインテリジェントパークパイロットと呼ばれるオプションを装備すると、AVP(自動バレーパーキング)と呼ばれる立体駐車場において、人間が乗らなくても自動で駐車することができるようになる。ただし、メルセデスの説明によると、適切な設備を備えた駐車場でのみ利用可能であり「各国の法律でそういった運用が認められている場合」に限られるという。
新型Sクラスは非常に大きくなったため(車体全体では、現在市販されているほとんどの中型SUVと同じくらいの長さ)、メルセデスは新しいリア・アクスルステアリングを装備した。このステアリングは、後輪を両方向に最大10度までステアすることができ、これにより回転半径が7フィート(約2.1m)近く小さくなった。
また、メルセデスは、このステアリングと先進のエアサスペンションシステムを組み合わせることで、乗り心地を和らげ、悪路でも車内が安定するように適応させると同時に、クルマの周囲に設置されたセンサーやカメラを使って、安全性を高めている。側面衝突が迫っている場合、このシステムはコンマ数秒で車体を最大約3インチ(80mm)持ち上げ、乗員を保護する。
AIアシスタント
同僚のTamara Warren(タマラ・ウォーレン)氏が乗ったEQSとは異なり、筆者が乗った14万8000ドル(約1640万円)を上回るS580には56インチ(約142cm)のハイパースクリーンはなかった。その代わりに、ダッシュボードからアームレストまで伸びる12.8インチ(約32.5cm)の有機ELスクリーンがセンタースタックに設置されており、クルマのコントロールハブとなっている。このスクリーンでは、グローブボックス内のディフューザーから発せられる香りのコントロールから、メルセデスのウェルネス機能へのアクセスまで、あらゆることが可能だ。真昼の太陽の下でも明るくクリアで、映り込みもなく、夜になってもまったく邪魔にならない。
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しかし、新型Sクラスで最も印象に残った機能の1つは、フロントガラスに投影され、クリアで非常に印象的な3Dの拡張現実を映し出すヘッドアップディスプレイだ。頭を動かしても、運転席のどの角度からでも表示を見ることができる。助手席からもある程度見える。インフォテインメントシステム(Mercedes Benz User Experienceの略でMBUXと呼ばれている)を使って目的地までナビゲートすると、出口車線や曲がり角、そして最終目的地に近づいたときにHUDに青い拡張現実の矢印が現れ、センタースタックにある道路前方のビデオフィードの上には、どの車線にいるべきか、どこで曲がるべきか、探している住所がどこにあるかが正確に示される。また、ハンドルのタッチボタンを使って、この機能をオフにしたり、運転席の計器類の表示が気になる場合は、変更することもできる。
メルセデスによると、MBUXの演算能力は先代モデルのシステムと比較して50%向上しており、メモリ帯域幅はNVIDIA Xavier(エヌビディア・ザビエル)を搭載して4万1790 MB/sとなっている(先代ではTegra 3[テグラ・スリー]を搭載)。そのため、システム上でカクツキ、遅延、混乱などが発生することはほとんどない。
加えて、非常に優れた自然言語による音声認識システムもほぼ完璧に動作する。ハンドルのタッチボタンを使って音声アシスタントを起動したり「ハイ、メルセデス」というキーフレーズを口にするだけで音声コマンドを起動することができる。システムに何かを調べさせたり(ネット接続機能がある場合)、温度を変えたり、メルセデスがあらかじめ組み込んだウェルネスプログラム(照明、温度、マッサージの設定の変更)を実行したり、両親に電話をかけたり、新しい場所へナビゲートさせたりと、何を頼んでも、システムはほとんど失敗することはなかった。唯一困ったのは、音声コントロールを使って4つ以上の数字が入った住所に目的地を設定しようとしたときだ(例えば、12345 West Elm Street[ウエスト・エルム・ストリート])。何度か試した後、センタースタックの非常に直感的で使いやすいタッチスクリーンに頼ることにした。
新型Sクラスが持つより高度なAI機能を試すには時間が足りなかったが、メルセデスによると、MBUXは、システムにコネクテッドホームを統合することから、お気に入りのスポットへのナビゲートまで、EQSに搭載されているものと同様に、あらゆることが可能とのことだ。理論的には、自宅の照明をつけるようにシステムに依頼したり、家に向かって運転している間にエスプレッソマシンを起動するタイミングを学習したりすることができる。また通常のルートを運転して、電話をかけるなどのタスクをシステムに依頼したり、毎日特定の場所にナビゲートしたりすると、AIはオーナーの習慣を学習する。システムは最終的に、特定の時間にオフィスに電話をかけたいか、お気に入りのレストランへのルートを設定したいかを尋ねるだけになるだろう。
運転をより快適に、よりストレスなく行うための機能やテクノロジー、アメニティをふんだんに盛り込んだSクラスが、ワールド・ラグジュアリー・カー・オブ・ザ・イヤーをはじめとする数々の賞を受賞しているのも不思議ではない(情報開示:筆者はワールドカーアワードの審査員を務めている)。ラグジュアリーとは、目に見えないシームレスなテクノロジーによって、長時間のドライブをスパのように楽しめることだとすれば、メルセデス・ベンツSクラスの2021年モデルには確かにそれが備わっているといえるだろう。
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カテゴリー:モビリティ
タグ:メルセデス・ベンツ、レビュー
画像クレジット:Mercedes-Benz
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(文:Abigail Bassett、翻訳:Dragonfly)