ここ数年、メカニカルキーボードの市場は活況を呈していが、パンデミックの影響で、多くの人がさらに自宅の設備増強を行っている(補助金の使い道の1つだ)。現在は、AliExpress(アリエクスプレス)の20ドル(約2300円)の特売品から600ドル(約6万9000円)のカルトキーボードまで、キートップやスイッチなどがついていない状態のものも選べる。そんな中に登場したのが、Angry Miao(アングリー・ミャオ)のAm Hatsu(アム・ハツ)だ。アルミニウム製のボディを持つワイヤレスの格子配列式分離型エルゴキーボードとなる。価格は1600ドル(約18万3000円)(なおスイッチとキートップは付いている)。ワイヤレス充電が可能で、同社のCybermat(サイバーマット)を買えば、充電のことを考える必要はなくなる。そのためには、さらに380ドル(約4万4000円)が必要だが。
つまり、2000ドル(約23万円)でまったく新しいタイピング体験と、キツイ学習曲線が得られるわけだが、なかなか慣れるのは難しいだろう。Angry Miaoによると、今のところAm Hatsuの再生産の予定はないとのことなので、二次市場での価格は当初の小売価格よりもかなり高いものになるだろう。
さて、最初にこれだけは言っておきたいことがある。これにお金を払う価値があるかどうかは、自分自身で判断するしかない。この価格では初めから却下するか、賢い暗号資産投資をした自分へのご褒美に衝動買いするかのどちらかだと思う。その中間に購買層があるのかどうかはわからない。
画像クレジット:TechCrunch
メカニカルキーボードが初めてで、自分でカスタマイズしたいのなら、250ドル(約2万9000円)以下ですばらしい体験を得られる。例えばGMMK Pro、Keychron Q2(または次世代のQ3)、Cannonkeys Bakeneko65(キャノンキーズ・バケネコ65)などだ。あるいは、カスタマイズもいらないという人は、Leopold(レオポルド)やDucky(ダッキー)を買って済ませれば良い。しかし、分離型エルゴキーボードを購入しようとすると、選択肢は少なくなってしう。それでも似通ったErgodox EZ(エロゴドックスEZ)やZSA Moonlander(ZSAムーンランダー)がはるかに安価に提供されているし、さらに優れた点もいくつか持っている。また一体型ではあるが、Kinesis Advantage 2(キネシス・アドバンテージ2)が同じような凹型格子配列式を採用している。また、ただ格子配列式キーボードに触れてみたいだけなら、Drop Planck(ドロップ・プランク)やPreonic(プレオニック)が入門用としては最適だろう。
あまり聞いたことがないかもしれないが、Angry Miaoはメカニカルキーボードの市場ではまったく新しい存在というわけではない。背面に大型のLEDパネルを搭載したCyberboard(サイバーボード)は、カルト的な人気を博し、好評のうちに3回の生産分を完売した。2022年3月には映画「マトリックス」をテーマにした新しいCyberboardが発売されるそうだ。
Angry MiaoのCyberboard(画像クレジット:Angry Miao)
Am Hastuは、Cyberboardとは異なる市場向けであり、万人に適しているわけではない。この新しいレイアウトを使いこなせるようになるだけでも大変なことだ。左右に別れた従来型の千鳥格子式キーボードに比べて、直線状に配置されたキーのおかげで、肩の筋肉の緊張を緩めることが可能で、手首をほとんど動かさずに済むというメリットがある。しかし、右手の親指でスペースやCTRL(コントロールキー)を押したり、左手の親指でバックスペースやエンターキーを押したりすることを、再学習することを考えてみて欲しい。またその次には、数字を入力するためのレイヤリングシステムを学ぶ必要がある。なぜならAm HatsuにはF(ファンクション)キーや矢印キーはもちろん、数字キー列も無いからだ。メカニカルキーボードのコミュニティで「65%キーボード」が人気なのには理由がある。65%キーボードは(Fキーは除くが)矢印キーや数字キー、そしてページアップ、ダウンのキーもコンパクトに収納している。
私は現在、Am Hatsuを1週間使ったところで、レビューをタイプしているところだ。しかしこの内容は気の弱い人向けではない。私の普段のタイピング速度は、1分間に80~90語程度で、特別なものではない。それが使い始めには15語近くまで下がり、1週間後には徐々に30語へと戻った。良いとは言えないが、Am Hatsuを非難したいわけでもない。それは慣れの問題なのだ。
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だが、思い切って購入してみると、ハード自体は本当に美しいのだ。Angry Miaoは、Am Hatsの特徴的なアルミボディが5軸CNCマシンでどのように加工されたかについて、饒舌に語っている。それは簡単なプロセスではないことを示している。このビルドクオリティは別格だ。これに匹敵する分離型エルゴキーボードは見つからないと思う。Angry Miaoによると、このデザインはHBOのSFドラマWestworld(ウェストワールド)にインスパイアされたものだという。白と黒の配色や全体的なデザイン言語がそれを物語っているような気がするが、大事なのはそれだけではない。Angry MiaoのNFT(非代替性トークン)スキームについてはあまり語らない方がいいと思うが(これはすべてのNFTに言えることだ)、このキーボードを手に入れるためには、基本的にOpenSea(オープンシー)でNFTを購入し、それを物理的なボードと交換する必要がある。
デザインは、各半分の内側にあるオンオフを示す内側の小さなLEDの帯によってアクセントがつけられている。このLEDはそれぞれの充電状態も示している。特に邪魔にならず、キーボードに彩りを添えてくれる存在だ。
バッテリーはフル充電から約2週間の日常使用が可能とされている。Cybermatを使う場合は、そこから充電が行われるので充電状態を気にする必要はなくなる。それ以外の手段としては、両サイドの下部にUSB-Cポートがある。それはあまり便利とはいえない場所だ。これは、Cybermatsをより多く販売するための手段なのか、それとも機能よりもデザインを優先させた結果なのか。デザインチームは明らかにポートやネジを隠そうとしており、充電ポートがあるのは底面だけになっている。Appleの悪名高いMagic Mouse 2(マジックマウス2)を見習ったのかと思ってしまうほどだ。
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しかし、Bluetooth接続は非常によく機能し、遅れを感じることはなかった。なお予想通り、パソコンに有線で接続してもキーボードは使えない。Bluetooth専用なのだ。
理解はできるが気に入らないデザイン上の決定は、1600ドル(約18万3000円)もするのに、Angry MiaoのIcy Silver(アイシーシルバー)というスイッチしか使えないということだ。これはリニアスイッチだ(Cherry Brown[チェリーブラウン]スイッチのような触覚的な切り替わりはない。Cherry Brownが客観的に見て最悪のスイッチであるというジョークを思い起こすことにしよう)。私はリニアスイッチが好きなので、これはこれでいいのだが、このボードはいわゆる「ホットスワップ」ではないので、スイッチを自分の好みに近いものに変更することはできない。
ちなみに、TTC製の「Icy Silver」スイッチには、2段式の長いスプリングが採用されており、作動には45グラムの初期力が必要だ。これは、作動力50グラムの人気スイッチGateron Yellow(ゲートロンイエロー)よりも少し軽く、Angry MiaoのスイッチのベースとなったTTC Icy Speed(TTCアイシースピード)よりも若干重い。キーボードオタクにとって最も重要なことは、このスイッチが本当にスムーズで、いまのところ引っかかりや雑音をまったく感じないということだ(もしそれがピンとこない場合には、ただ良いことだと思っていて欲しい)。
キートップは、あまり好きではない。これは、Angry MiaoのシースルータイプGlacier(グレイシャー)キートップのバリエーションで、私の好みからすると、少々薄すぎて滑らかすぎる。見た目はすばらしいが、PBT(ポリブチレンテレフタレート)セットと交換したいと考えている。しかしこの変わったレイアウトに適したキートップのセットを見つけるのは難しいだろう。
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メカニカルキーボードにこだわりのある人ならこう訊ねるだろう「でも、良い打鍵音(thocc)はするの?」と。「Thocc」とはキーボードの音を形容する表現で、多くの人が好むという太く深い打鍵音を意味しているが、実際には皆の合意がとれているようなものではない。Am Hatsuにはあの深い音はない。どちらかというと高めの音だが、決して不快なものではない。
ほとんどのマニアックなキーボードでは、簡単にサウンドプロファイルを変更することができる。ハイエンドのキーボードは、デザインの変更が可能なDIYキットとしての提供が一般的だ。だがAm Hatsuはそうではない。これは、あれこれいじくり回す人(ティンカラー)のためのキーボードというわけではないのだ。実際、キーボードを開けるためのネジの場所すら簡単にはわからない。残念ながら、それはソフトウェアにも言える。すべてのキーの機能を変更することはできるが。使用できるデフォルトのレイヤーは2つだけだ。今のところ、レイヤーを追加することはできないが、これは特に小型の格子配列式キーボードの世界では、ごく標準的なことだ。
さて、Cybermatの話もさせて欲しい。900×340mmのアルミニウムの1枚板を使用しているため、標準的な900×400mmのデスクマットよりも少し薄いものの、重量は9ポンド(約4.1キログラム)強というヘビー級ハードウェアだ。
私が試用したのは第2弾で、Am Hatsuと同様別格の存在感を放っている。基本的にこれは、90WのGaNの充電器を使い合計12個の充電コイルを備えた巨大なワイヤレス充電ステーションだ。端にある2つは主に携帯電話を充電するためのもので、残りは2つのキーボードユニットを充電するために使われる。
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その上に敷くデスクマットが付属しているので、コイルの位置を正確に知ることができる。Angry Miaoによると、このマットはTesla(テスラ)のCybertruck(サイバートラック)にインスパイアされたものだそうだが、その片鱗はマットの角や底にあるハードなエッジからも見て取れる。
左後ろの角には小さな切り込みがあり、4つの充電ゾーンに対応したインジケーターとUSB-Cプラグの差込口がある。
同社によれば、このマットは過電流保護、過電圧保護、低電圧保護、過熱保護、短絡保護などのあらゆるセキュリティ機能と、異物検出機能を備えているという。私はキーボードにコーヒーを何度かこぼした前科があるので、コーヒーカップをこのマットの上に置くことには少々抵抗がある。
ハードウェアとしてはしっかりしている(セットアップ中に誤って一度だけ踏んでしまったが、ビクとびくともしなかった)。価格も大変なものだが、キーボード自身も同様だ。試しに買ってみて、自分に合うかどうかを試してみるようなガジェットではない。
Am HatsuとCybermatの両方に対して、Angry Miaoは、商品を受け取ってから72時間以内であれば、未使用の場合に限り、返品が可能であると明言している。基本的に販売は終了している。価格を考えると手を出しにくいものだろう。
このキットは、簡単に購入を勧めることができるものではない。もし自分がまさに求めているものであり、懐具合にも問題がないのら、どうぞご自由に。もしも迷っているようなら、まずは手頃な価格のものを試してみることをお勧めしたい。Am Hatsuの品質と目を引くデザインは他では見られないが、その分、価格も目が跳び出るほどになる。
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(文:Frederic Lardinois、翻訳:sako)