【TC Tokyo 2021レポート】ポッドキャストとVCの表裏一体で活躍するハリー・ステビングス氏は世界中の有望企業に目を向ける

先に開催された「TechCrunch Tokyo 2021」。「海外スタートアップトレンド解説」のセッションには、10万人以上のリスナーを持つ世界最大の独立系VCポッドキャスト「The Twenty Minute VC」の創設者でホストのHarry Stebbings(ハリー・ステビングス)氏が登場した。モデレーターは米国を中心にスタートアップやテクノロジー、VCに関する最新トレンドなどを配信する「Off Topic」を運営している宮武徹郎氏が務めた。

冒頭でステビングス氏を「ポッドキャストのホスト」と紹介した。同氏のポッドキャストには多数のVCや起業家がゲストとして出演し、特に起業家に人気がある。しかし同氏にはポッドキャストのホスト以外にもう1つ、「20VC」というマイクロVCを立ち上げた投資家の顔もある。VCポッドキャストのホストとして人脈を広げ情報を集めて発信し、自身も投資をする同氏は「20VCをメディア性のある一流金融機関に育てたい」と言う。このセッションでは、メディアとVCの両面から同氏に話を聞いた。

VCを目指す道のりは50ドルを投じたポッドキャストから始まった

ステビングス氏は、Facebookの創業を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」でファンドのシーンを見て「VCに一目惚れした」という。18歳の時にロンドンでベンチャー投資家を目指してポッドキャストの「The Twenty Minute VC」を開始。つまりポッドキャスト配信者からVCになったのではなく、VCを目指してポッドキャストを始めたのだ。

ポッドキャストを始める際に投じた金額は50ドル(約5600円)。マイクに40ドル(約4500円)、ドメインに10ドル(約1100円)を支払って配信を始めた。その後7年間で、3000回の配信、ダウンロード数は1億8000万回を超え、月間では2500万回のポッドキャストへと成長した。そしてVCとしては、2021年6月にファンド2社で1億4000万ドル(約159億円)の資金を調達した。

ポッドキャストとVCという戦略について、同氏は次のように語った。「投資家が乱立しているため、優れた投資先の獲得にはブランド戦略が欠かせません。VCは上場株取引とは違います。いい株を選ぶだけではなく、取引に勝つ力が必要です。だからブランド力は欠かせないのです。そして取引では人間関係も重要です。ポッドキャストは親密で深い関係性を築けます。だからこそブランド構築と差別化を念頭に置き、番組を立ち上げて熾烈な競走を勝ち抜こうとしたのです」。

ガイ・カワサキ氏出演で弾みがついた

そうは言っても、いきなりブランド力のあるポッドキャストになるはずはない。宮武氏は「あなたは米国IT業界とのつながりは薄かったはずなのに、初回のGuy Kawasaki(ガイ・カワサキ)氏をはじめとする出演許可はどのように取り付けたのですか?」と尋ねた。

これに対しステビングス氏は「コネはありませんでしたね。VCにもIT起業家にも、知人は皆無でした。そこでガイ氏の本を3冊読んでから、依頼のメールを出しました。『287ページにはどんな意味が? 294ページの具体例は?』と。すると、いい着眼点だと返事が来てぜひ話したいと言われたので『では番組でお話を』と。世間に認められるにはそれで充分でした。それ以降の方々にはガイ氏との実績を上げて出演交渉をしました。うまく弾みがつきましたね。こんなふうに初回にガイ氏をお呼びできてとても嬉しかったです」と答えた。その後はガイ氏をはじめとする出演者に次のゲストを推薦してもらい、人脈を築いている。

人気ポッドキャストの秘訣は品質への意識と念入りな準備

宮武氏が番組の人気を高める苦労を質問すると、ステビングス氏は品質への意識を挙げた。出演の売り込み依頼に応じたことは一度しかなく、収録したものの出来が悪くお蔵入りにした回もあるという。「依頼に応じてもそれで質が上がるとは思えない。ポッドキャストは僕の製品です。出演者と僕自身のためにも最高の番組だけを目指しているのです」(ステビングス氏)。

番組の品質のためにはもちろん準備が必要で、「事前に膨大な調査をしています。関係者にも話を聞きますね。この準備が鋭い質問の礎となり、人脈も深まります。だから念入りに調査をするのが大切です。誰よりも入念にね」と同氏は説明する。

「僕は世界の一流起業家と働くためにメディアを使う」

セッションはこの後、ステビングス氏のベンチャー投資家としての意見に話が及んだ。

ラストワンマイルの食品配達市場について同氏は、欧米では顧客獲得費の高騰、運転手の高額な人件費、注文額の低さという重大な課題があるのに対し、新興国市場ではこうした課題はないとした上で、「この分野では現金が企業を守るため、資金力が潤沢なGopuffが米国を、Getirが英国を制するでしょう」と述べた。

新興国市場の話が出たことから「あなたの投資範囲は世界中に及びますが、強く関心を寄せる地域はありますか?」と宮武氏に問われ、同氏は次のように述べた。

「僕は世界中の優れた起業家に投資します。いま注目すべきは、世界中に人材が分散していることです。勢いはコロナ禍で増している。僕は世界の一流起業家と働くためにメディアを使います。メディアは僕の事業の看板なので極力大きくしたい。番組の力で20VCの存在感を高めるのです。だから地理的な好みはありません。Zoomの世界ではそれがいっそう重要です。これまでは地域による優位性がありましたが、今はZoomで誰にでも会える。ラテンアメリカが良い例です。ラテンアメリカでの出資先獲得競争は激しさを増すばかりです。状況は一変しますよ。業界を根底から革新する、世界の一流企業を支援できます。僕は事業の地域性を重視しませんが、他の方はそうではないようです。事業の成長に地域との関連性を見出して『やはり重要だ』と思うとしても、その関連性を証明する明白な証拠はなく、正解の可能性も、思い違いの可能性もあります。だから僕はただ、世界の一流企業を峻別する転換点に立っていたい。必ずパートナーに選ばれるようにね。頼もしい協力者でありたい。それだけが僕には重要です」。

起業家から雑談を持ちかけられると嬉しい

ステビングス氏のポッドキャストでは一問一答で番組を締める。それにならって宮武氏も、このセッションの最後に短い質問をいくつかした。「助言者から得たアドバイスは?」という質問に対し、ステビングス氏は以下の3つを挙げた。

「交渉において公平さに勝る武器はない。公平でいれば後ろめたさと無縁なので、交渉中も強い自分を保てます」

「限界を人に測らせないこと。限界がわかるのは自分だけです。しかも自分自身でさえ実力を侮りがちだ。粘り強く頑張ること」

「最後の大切な教えは、どんな時も状況はさほど悪くないこと。強く前を見て歩きましょう」

そして「投資家になって良かったと思うこと」については「僕はかなり顔の広い人間だと思います。知り合いが多く、人の話に耳を傾ける。だから夜中に起業家から電話があって雑談を頼まれると嬉しいですね。起業家が僕を頼ってくれる。僕は彼らの戦友だ。そうやって彼らを支えます」と、ポッドキャストとVCの両面で活躍する同氏ならではの答えが返ってきた。

TechCrunch Tokyo 2021は、12月31日までアーカイブ視聴が可能だ。現在、15%オフになるプロモーションコードを配布中だが、数量限定なのでお早めに。プロモーションコード、およびチケット購入ページはこちらのイベント特設ページからアクセス可能だ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。