がんと闘うドリームチームを結成したArsenalBioがシードマネー約92億円を調達

ArsenalBio(アーセナルバイオ)の物語はSean Parker(ショーン・パーカー)氏のがん免疫療法研究所から始まった。2016年に設立された同研究所は各分野の一流のがん研究者が協力や交流をする場となった。正式な会議や非公式な場など、さまざまな機会に最新の知見について情報交換している。

きっかけは非公式な場だった。集まったのは、ブロード研究所の病理学教授で研究者でもあるBradley Bernstein(ブラッドリー・バーンスタイン)博士、メルク研究所腫瘍発見学担当副社長のW. Nicholas Haining(W.ニコラス・ヘイニング)氏、カリフォルニア大学サンフランシスコ校免疫学准教授のAlexander Mason(アレクサンダー・メイソン)博士、ペンシルベニア大学システム免疫学教授のE. John Wherry(E.ジョン・ウェリー)氏。彼らはがんの診断と治療の最新技術や、がんを治す可能性のある細胞療法を推進する技術について話し始めた。

パーカー氏は次のように提案した。個々の研究者が自身の技術をスピンアウトして会社を設立し、それぞれの会社が個別にイノベーションを起こして固形腫瘍の細胞療法を確立するのは効率的ではない。治療法の発見と開発に向けて力をあわせて研究し、成果を蓄積すべきだ。

Westlake Village BioPartners(ウェストレイク・ヴィレッジ・バイオパートナーズ)の創業者であり、自身もArsenalBioへ投資しているBeth Seidenberg(ベス・サイデンベルグ)氏は「これは学者の力を結集するという力技だ。通常、学者は個々に会社を作る。その力を合わせ、さらに経営のドリームチームも結成した」と述べた。

実際、経営チームはプロジェクトを支える研究者と同様に印象的だ。Kleiner Perkinsの設立パートナーであるBrooke Byers(ブルック・バイヤーズ)氏はKen Drazan(ケン・ドラザン)博士をArsenalBioのコンサルタントとして送り込んだ。現在同社のCEOであるドラザン博士は、がんの研究・診断のスタートアップであるGrailの前社長であり、多くのヘルスケアスタートアップおよび大企業の経営幹部や創業者の役割を果たしてきた。

ArsenalBioのCEOであるケン・ドラザン氏

ドラザン氏を確保した後、会社はすぐに残りの経営チームメンバーも採用した。Genentechのプリンシパルサイエンティストで適応腫瘍および細胞療法を担当したJane Grogan(ジェーン・グローガン)氏、Janssen Oncology(ヤンセン・オンコロジー)の免疫腫瘍学および細胞療法担当の副社長だったMichael Kalos(マイケル・カロス)氏、10x Genomicsでバイオロジー(生物学)担当副社長だったTarjei Mikkelsen(タルジェイ・ミケルセン)氏だ。

ArsenalBioは当初、投資家からシードマネーを調達する受け皿会社として2018年に設立された。その後、技術チームと経営チームを加えた。

強力な経営陣とサイエンティストの下、ArsenalBioは8500万ドル(約92億円)を集めた。投資家には、Westlake Village、PICI、Kleiner Perkins、University of California San Francisco Foundation Investment Company、Euclidean Capital、Osage University Partnersが名を連ねる。

ArsenalBioの構想はT細胞療法の効果を上げて広範囲のがんと戦えるようにするというものだ。T細胞療法は特定のがんに対してすでに驚くべき効果を上げているが、致命的な症状に至る固形腫瘍に対しては効いていない。

肉腫、がん腫、リンパ腫などの固形腫瘍と闘うには、医師がまず腫瘍の周囲に、次に腫瘍が広がる組織にT細胞を送り込む方法を考えなければならない。複数のバイオマーカーを使う必要があるが、まだ発見されていないバイオマーカーが多い。

「がん微小環境で細胞に働いてもらう必要がある」とサイデンベルグ氏は言う。

T細胞は人体が感染症や病気と闘うために備えた仕組みだ。がんは免疫細胞に対し、自分は攻撃対象ではなく無視すべきものであるというシグナルを送り自然免疫反応を回避する。

「我々の目標は細胞をプログラムすることだ。がんからの指示を無視するようT細胞に命令するため、追加の指示をT細胞に送り、がんからのシグナルを無視させる」とドラザン氏は説明する。

ArsenalBioは最初のプロダクトの戦略を練っている、とドラザン氏は述べた。だが、同社は異なる2種類のテクノロジーを世に出す予定だ。1つ目は特定のがんを治療する医薬品そのもの。2つ目は遺伝子のシーケンス(塩基配列)解析で、T細胞の正常な機能を妨げるがんからのシグナルを打ち消したり書き換えが可能なシーケンスを特定する。

ドラザン氏は、解析したシーケンスをGitHubのプログラムと比較し、他の研究者、臨床医、企業が独自の治療法を開発するために利用できるようにした。

「ArsenalBioのテクノロジーによって、膨大な長さのコードを書き直してT細胞に劇的に新しい機能を持たせ、がんや広範にわたる疾患をより効果的に殺すことができる」とPICIの創設者兼会長でありArsenalBioのディレクターを務めるパーカー氏は声明で述べた。「PICIの調査員の尽力によって生まれたArsenalBioを目にして報われたと感じている。テクノロジーの基盤となるサイエンスの部分について、彼らが研究センター、病院、大学と協力した。ArsenalBioの存在自体が、協力に重きを置き患者第一を貫くことによって、ベンチからベッドサイドに至るまでの治療をどれだけ迅速かつ優れたものにすることができるかを示している」。

画像クレジット:BSIP / Universal Images Group / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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