カメラを搭載したスマートフォンの世帯保有率が70%を超える今、報道機関ではない僕たち一般人が、事件、事故、災害の第一報を伝えることができる世の中になった。そんな中、報道機関もSNS上にアップされた画像や動画をニュース番組などに利用するケースが増えている。
そこで活躍するのが、Specteeが展開するSNS速報サービスの「Spectee(スペクティ)」だ。同社は9月25日、YJキャピタル、共同通信イメージズ、みずほキャピタル、アルコパートナーズ、クオラス、および元マイクロソフト社長の成毛眞氏などから総額2.7億円を調達したと発表した。
Specteeは、SNS上にアップロードされた事故や災害の画像、動画、テキストをAIが自動収集し、報道機関向けにいち早く配信するサービスだ。同社の画像解析技術は高く、画像に写る炎が「火事」なのか、それとも単なる「焚き火」なのかを見分けることもできる。周りにいる人々が炎からどれほど離れているか、そして、その人たちがどのような表情をしているのかなどを総合的に分析して判断するのだ。
同社は1つの事象ごとに複数の画像・動画をまとめ、それを報道機関向けに提供するダッシュボード上にリアルタイムでアップロードする。報道機関がそれをニュースにすると判断した場合、SNSユーザーに画像や動画の使用許諾を取るという流れだ。
Specteeはこれまでに、テレビ局と新聞社あわせて100社以上を顧客として獲得している。Spectee代表取締役の村上健治郎氏は、「独立系の地方テレビ局などをのぞけば、日本のテレビ局はほぼカバーできている」と語る。
画像解析の優位性
日本にはSpecteeと同様のサービスを提供する企業は他にもある。データセクションやJX通信社などがその例だ。
それらの競合サービスとの違いについて、村上氏は「情報を提供するスピードは、正直どこも似たようなもの。しかし、Specteeの精度は他サービスよりも優れていると考える。他サービスはテキスト解析をベースにしたものが多いが、それでは事故や災害とは関係のない情報も流れてきてしまう」と話す。
それでは、ちょっと簡単な検証をしてみよう。Twitterの検索窓で「火事」と入力してみると以下のような結果になった。
検索結果のなかには本物の火事を映した画像もあるが、まったく関係のない画像も表示されていることが分かる。もちろん、他社サービスのテキスト解析が単なる文字検索と同等の精度だとは思わないけれど、テキスト解析では関係のない情報も流れてきてしまうという村上氏の主張には納得できる。
「たとえば、辛いラーメンを食べて『口のなかが火事』というようなツイートが表示される可能性もある。ユーザーが火事の現場を目撃して画像をツイートするとき、実際には『火事だ!』ではなく『やばい!』とだけコメントする人も多い」(村上氏)
品詞分解して見出しを自動生成
画像解析技術と並び、Specteeの肝となる技術がもう1つある。複数のテキストを品詞分解することでニュースの見出しを自動的に生成する技術だ。
Specteeのダッシュボードには、ユーザーがSNS上にアップロードした画像・動画に加えて、そのニュースを要約した“見出し”が表示される。複数のテキストを品詞分解し、その中から関連度の高い文字ピックアップして組み合わせることで、「北海道のコンビニで火事」などの見出しを自動的に付けているのだ。そして、Specteeはその見出しを音声で読み上げる機能も搭載している。
「ニュース記者もSpecteeのダッシュボードにずっと張り付いている訳にはいかない。音声で見出しを読み上げれば、記者は他の仕事をしながらでも情報をフォローできるので、この機能には定評がある。しかし、そもそも見出しを生成できなければ読み上げることもできない。だから、見出しを生成する技術はSpecteeにとってコア技術の1つでもあるのです」(村上氏)
チーム運営機能の追加と海外展開
今回の資金調達で2.7億円を手にしたSpecteeは、ダッシュボードへの機能追加と海外展開を目指す。
現在のダッシュボードは、SNS上の情報を収集して報道機関に配信するという機能のみが搭載されている。しかし、報道機関は1つのニュースに複数の担当者がつくことも多く、こなすべきタスクも多い。素材の使用許諾を取らなければならないし、取材もしなければならない。
そこで、Specteeはダッシュボート上の画像や動画にコメントを追加できる機能や、ステータスを管理(「使用許諾を取得中」など)する機能などを追加することで、チームでの運営がより簡単になる仕組みを取り入れる予定だ。
また、Specteeは海外展開にも意欲的だ。特定の業界だけをターゲットにする以上、限られたパイを取り尽くせばおのずと海外に出て行く必要がある。また、画像解析をベースとするSpecteeは、テキスト解析ベースのサービスと違って言語の壁がなく、海外展開もしやすい。
Specteeは海外展開の第1弾として、2017年6月にAP通信との業務提携を発表。これにより、SpecteeはAP通信が展開する映像配信サービス「AP Video Hub」を通じて、収集した映像を海外の報道機関に販売することが可能になった。
映像の販売は売り切り方式で、単価の相場は約300ドル。Specteeの取り分はその60%だという。AP Video Hubに日本企業が参加するのはこれが初めてのことだ。
「昨年の終わりから今年はじめにかけて、海外の報道機関にダッシュボードを直接販売しようとしていた時期もあった。しかし、それには現地での営業やサポートに人員が必要で、今のSpecteeの体力では難しいことが分かった。それならば、当面は海外のプラットフォーマーに乗っかってしまうのが得策だと考えた」と村上氏は話す。
2014年2月に創業のSpecteeは、これまでにフジテレビなどから推定1億円前後の資金調達を実施している。
そうそう、同社は昨年のTechCrunch Tokyoで開催されたスタートアップバトルの参加企業でもある。もちろん今年のTechCrunch Tokyoでもスタートアップバトルを開催するので、創業3年未満のスタートアップ諸君はぜひ参加してもらいたい。