期待されていた通り、今年のWWDCでは音声認識アシスタント「Siri」に注がれた惜しみない愛情を見ることができた。たった今、AppleはSiriの音声認識機能をサードパーティの開発者にも公開すると発表した。これにより、サードパーティが開発したアプリを「Hey Siri…」と話しかけて利用することができる。
Siriを通じたYelpの利用や、Twitterのコンテンツを検索する機能をはじめ、これまでにもSiriとサードパーティ・アプリケーションが統合された事例はあった。しかし、Siriが公開され、サードパーティのアプリケーションと連動することで、その利便性が格段に増す可能性がある。
新しいSiriがもつ可能性を示すため、WWDCのステージではSiriを使って「5分遅れそうだ」というメッセージをWeChatで送信するという例が示された。「これからのiOS 10には強力なAPIが存在します」とAppleの上級副社長であるCraig Federighiは語る。「iOS 10において、Siriはこれまでにない程の働きをするのです」。
iOS 10のユーザーがSiriを通じて利用できる可能性のあるアプリとして、彼はSlackやWhatsAppなど日常でよく使われるアプリを例に挙げた。他にも、Uber、Lyft、Didiを利用した乗車予約や(最近、AppleはDidiの出資者となった)、EyeEmなどを利用した写真の検索、RuntasticやRunkeeperにおいてワークアウトを中断したり再開する機能、Number26やVenmoなどを利用した友人への送金機能、SkypeやViperを利用したVoIP通話機能などもその例だ。
Federighiは「Siriはクルマとの相性も抜群です」と付け加え、ステージ上のデモンストレーションではCarPlayの名前を挙げた。
家庭用スピーカーのAmazon Echoに搭載された、Alexaの音声アシスタント・テクノロジーが外部に公開されてからしばらく経つ。同社は1年前に外部の開発者向けのAPIを発表し、去年の8月には最初のサードパーティー・アプリが公開された。
それ以降、Eコマース界の巨人はAlexaの開発者ツールを構築しつづけてきた。膨大な量のiOSデバイスをもつAppleに比べ、Amazonは自社のハードウェアへの関心を高めるために外部の開発者のチカラが必要だったのだろう(Echoには爆発的な販売実績がまだない)。
とは言うものの、Appleが2011年にSiriを発表して以降、それが持つ音声認識テクノロジーを公開せず、外部アプリとの統合を制限してきたことが、Siriの有益性や用途をも制限してきたことには間違いない。その一方で、AmazonのAlexaを利用したUberの乗車予約はすでに実現されているのだ。
つい先月、Siriの開発者であり、Appleによって自身の会社が買収された1年半後に同社を去ったDag Kittlausは、TechCrunch Disrupt NewYorkで次世代の音声アシスタント・テクノロジー「Viv」を発表した。彼は、将来的にVivをすべてのデバイスやアプリケーションを制御するコントロールパネルにするという野望をもっている。
Googleも同様に、データマイニングとAIを組み合わせることによって同社のバーチャル・アシスタント・テクノロジーの利便性を向上させる努力を続けている。ソーシャル・プラットフォームの巨大企業であるFacebookも、独自のAIアシスタントの開発に心血を注いでいる。Siriを進化させなければならないというプレッシャーがAppleに重くのしかかっていたことは明らかだ。
元アナリストであり、現在はA16zで勤務するBenedict Evansは、今年初めに発行されたEメール・ニュースレターでUberとAlexaの統合について以下のようにコメントした。「ごく普通のWebが、近いうちに復活することはないだろう」。
バーチャル・アシスタントという分野において、他社との差別化のためにAppleが注力していたのが、ユーザーのプライバシー保護だ。昨年のWWDCで、同社はProactiveと呼ばれるSiriのアップデートを発表した。これはGoogle Now風の予測機能であり、連絡先に保存されていない番号から電話がかかってきた時に、それが誰からの電話なのかを予測する機能などがその例だ。それに伴うデータ処理はクラウド上ではなく、ローカルで行われていると思われる。
Siriがサードパーティーの開発者に公開された今、Appleがどのようにユーザーのプライバシーを守っていくのかは、まだ明らかにされていない。
今日のWWDCでは、Apple TVで利用できるSiriの拡張機能も発表された。Siriに話しかけることで、YouTubeの動画を検索し、鑑賞できる機能などがその一例だ。
それに加えて、新しく命名された「macOS」にもSiriが搭載されることが明らかになった。従来の機能に加えて、音声でメッセージを送ったり、ファイルを見つけたりすることが可能だ。
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