ぶっちゃけスタートアップ業界はバブルなんですか?–国内著名キャピタリストが語る

「そもそもベンチャーキャピタル(VC)の投資は日本の役に立っているんですか?」「結局ITスタートアップってバブルなんですか?」‒‒モデレーターを務めたグリーベンチャーズ パートナーの堤達生氏がぶっちゃけた質問をITセクターの著名キャピタリストに投げかけていたのは、新日本有限責任監査法人が6月10日に開催した「新日本 企業成長サミット2014」のパネルディスカッション「日本経済のさらなる成長のためにVCが果たす役割」でのこと。ここではその様子をご紹介してきたい。

スタートアップの調達金額が大きくなる3つの理由

僕もVCや起業家への取材で尋ねるのだが、「スタートアップの調達額が大くなっている」という話がある。先日はクラウドワークス代表取締役社長 CEOの吉田浩一郎氏が「100億円の資金調達をする」とイベントで語った記事が話題になった。堤氏も「15年前は1億円調達すると『おおー』と思ったが、5億円、10億円とどんどん調達額は大きくなっている」と語る。では果たしてそれはいいことなのか、はたまた悪いことなのか? 登壇するグロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー(GCP) COOの今野穣氏とサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV) 代表取締役社長の田島聡一氏にその是非を尋ねた。

2人とも、スタートアップの調達額が大きくなっていることは事実だと認める。その上で今野氏は3つの理由を紹介した。

まず1つめはスマートフォンの登場だ。実はスマートフォンの登場は、PCが登場したのと同じレベルで市場にインパクトを与えているのだという。次に、そのスマートフォンの普及によって、App StoreやGoogle Playといったアプリストアを通じてグローバルでのビジネスが容易になったことが挙がる。さらに3つめの理由として、そのアプリストアの影響でグローバル競争が以前よりすぐに開始するようになったからとだした。

創業間もなく世界で戦う必要が出てきたスタートアップにとっては、「最初から大きなお金を集めないと勝てない」(今野氏)という構図ができてくる。そこでどれだけ資金を調達するかというのは、「資本市場の出口(イグジット)とのバランス」によるとした。

ただ、何でもかんでも大きな金額の資金を調達すればいいわけではない。前述の吉田氏にしても、国内市場だけを見ているのであれば100億円を調達したところで出口戦略に困ってしまうだろう。だが、グローバルでサービスを展開するとなると話は違ってくるだろう。

田島氏も今野氏に同意した上で、「『日本』と『海外』ではなく、『世界の中の日本』という視座の起業家は少ない。グローバル、グローバルとは言うが、本当にグローバルで戦うイメージができていない」と厳しい指摘をする。

ぶっちゃけ、スタートアップ業界はバブルなんですか?

堤氏はさらに、「スタートアップ業界はバブルなのか」と質問する。これも資金調達額の大きさとあわせて、取材中に話題になることが多いテーマだ。

これについてはフジ・スタートアップ・ベンチャーズ(FSV) 投資検討委員長の種田慶郎氏が、日本でも大型調達が増えてきているが、一方でまだまだ米国や中国と比較してもリスクマネーは業界に流れていないと説明。「心配しながらも張っている(出資している)うちは大丈夫。ここ10年は大丈夫だと言わせて頂く」と語った。

日本ベンチャーキャピタル(NVCC) ベンチャーキャピタリストの照沼大氏は、バブルかどうかという点は「後世の人が評価すればいい」としつつ、前述の大型調達とあわせて、「(投資に)投じる額が大きくなればバリュエーションも上がるが、グローバルで展開して、売上や利益が付いてくるようなチャレンジをしないといけない」とした。また今野氏は「細かいレベルでの価格変動はあるのではないか」と予測するが、それ以前に日本の市場、特にマザーズ市場が外国人投資家に支えられている状況であり、それを変えていくべきなのではないかと語った。

最後に回答した田島氏は、投資家によるバブルの加速について警告する。「現場感で言うとあきらかに投資家の数は増えている。だがきっちりと事業の目利きができてる投資家ばかりかというとそうでもない。ブームに乗っかる投資(が多い)。起業家もソーシャルメディアなどで見せ方、ブランディングをコントロールできる時代。そういう中で事業も見ずに投資する人が出てくるのが、実体が伴わないバブルにつながる。それこそがリスクだ」(田島氏)

VCの役割は何か

国内での年間投融資額をはじめ、投資ファンドの総額や組成数などが、「多少盛り上がっているがリーマンショック前からはほど遠い」状況である今野日本。

上場件数は直近数年で増加しているが、このタイミングで上場すると言うことはつまり、7〜8年前の不況期に立ち上がった企業がほとんどだ。そんな状況は、「本当にベンチャーブームなのか。名だたるVCはスタートアップに貢献し、経済に影響を与えているのか」。堤氏は登壇者に尋ねる。

今野氏がまず語るのは、GCPの投資手法だ。同社は(1)新しいマーケットに新しい生態系のリーダーシップを作る(投資先の例:グリー)、(2)業界を再編するようなサービスを作る(例:ライフネット生命保険)、(3)企業を再編、カーブアウトしたサービスを成長させる(例:みんなのウェディング)‒‒の3パターンだという。

みんなのウェディングは、ディー・エヌ・エー(DeNA)の新規事業としてスタートし、その後スピンオフしたという経緯がある。実はDeNA時代には、事業からの撤退すらも検討されていていたという話だが、スピンオフから3年で売上を10倍に伸ばし、見事上場するまでに至った。これを踏まえて今野氏は、例えば社外(のVCなど投資家)と接することで事業が成長した。そうであれば、それはVCが世の中に貢献できていることではないかと語った。さらに、投資先企業の成長によって雇用を創出していることもVCが経済に貢献している点だと語る。

CAVの田島氏は、「VCはお金だけではなく情報を提供していくべき」と語る。アジアに複数の拠点を持つCAVでは、米国や韓国といったスマートフォン先進国の事例を集めて、それをもとに新たな事業を生み出す「事業創造投資」をやっていきたいとした。

FSVはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)という性質上、投資のリターン以上に自社グループとのシナジーを重要にしている。そこで「出資する企業1社1社が元気になれば日本が元気になる」と期待を寄せる。またその実現に向けて、グループでライセンスを持つ「ガチャピン」「ムック」のようなキャラクターのIPを提供する、テレビ番組と連携するといった試みをしていると語った。

NVCCの照沼氏は、シリコンバレーに長期出張している自社のメンバーの話を紹介。「一定数は日本のテクノロジーに興味ある投資家がいる。自社のグループ会社にM&Aのアドバイザリーをする会社があるが、クロスボーダーのM&Aをやって外貨を得ることにチャレンジしたい」(同氏)


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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。