まだ誰も知らないデジタル治療の効果をElektra Labsのツールが教えてくれる

どの調査を信頼するかにもよるが、ウェアラブル健康管理端末とデジタルヘルスの市場価値は、今後6年間で300億ドル(約3兆3000億円)から900億ドル(約9兆9000億円)の範囲にまで高まるとされている。市場規模を示す数値が定まらないのであれば、投入される数百億ドルの背後にある製品の正当性や効率性を測る方法を考えるべきだろう。

Elektra Labs(エレクトラ・ラブス)の共同創設者Andy Coravos(アンディー・コラボース)氏は、そう考えた。歯科医と専業看護師を両親に持つコラボース氏は、長年、医療について考えてきた。株式非公開企業に勤めたり、コンサルティング業を行った後、コーディングのブートキャンプに参加し、世間に復帰してからデジタル治療の企業であるAkili Interactive(アキリ・インタラクティブ)のインターンシップで修行を積んだ。

コラボース氏は、ずっと医療分野で働きたいと思ってきたのだが、ひとつだけ問題があった。彼女はこう話す。「血がまったくダメなんです」デジタル治療を選んだ理由が納得できる。Akili Interactiveでの経験から、彼女は米国食品医薬品局の駐在起業家のポジションを得た。それが、およそ2年後のElektra Labs設立につながった。

現在、同社は、消費者向け健康市場に溢れている生体情報モニター技術のカタログ化を目指してAtlas(アトラス)を立ち上げようとしている。

そうした生体情報モニター技術と、その上に構築されたアプリケーション層は、消費者の健康に多大な影響をもたらすものでありながら、それぞれの有用性、つまりそのツールが何に使えるかという提案がどれほど本当なのかを総合的に測れる場所がない。AtlasとElektra Labsは、その状況を変える。

食品医薬品局は、Apple Watchの心房細動検知アルゴリズムや、アクチグラフの生活活動モニターといったソフトウェア駆動による製品の認可を加速させている。ロシュファイザーノバルティスなどの大手製薬会社は、デジタルバイオマーカーを収集して臨床試験の向上に役立てようと、そうした技術への投資を続けている。

コネクテッドテクノロジーはよりよい医療を実現するが、テクノロジーにはどうしてもリスクが伴う。とくに、データの正確性や、誤ったデータセットを使用したことで生じる偏向の問題を考えると、まだ解決しなければならない見落とし箇所が数多くあることがわかる。そして消費者と製薬会社は、その業界に関するデータを簡単にアクセスできる形で提供してくれる場所が必要になる。

「テクノロジーへの膨大な投資とセットになった食品医薬品局のデジタル医療製品の認可拡大により、臨床試験でも日常の治療でも、コネクテッドツールの導入が加速されました。しかし、そこに反論がないわけではありません」とコラボース氏は声明の中で述べている。「食品医薬品局デジタルヘルス部門に駐在起業家として務めていた間に、私の中で明らかになったのは、創薬が評価、準備、医薬品成分の調剤を行っているように、私たちの医療システムにも、評価、準備、コネクテッド・テクノロジーの成分の調合を行うためのインフラが必要だということでした」。

Elektra Labsでは、治療法の評価は行うが準備と調合は行わないため、創薬とぴったり重ねることはできない。しかし、アトラスが、患者数が多く、最も費用のかかる慢性疾患(糖尿病など)の治療法となる画期的な薬の登場に期待を寄せるデジタル治療業界の最初の柱になることは明らかだ。

画像提供:Andrea Coravos/Elektra Labs

コラボース氏とそのチームは、デジタル医療で必要となるすべてのデータが一箇所で手に入る場所を求めている製薬会社や医療関係者に向けたAtlasツールキットを構築する際に、300名以上の専門家の意見を聞いている。薬のラベルや栄養素のラベルのように、Atlasは、使いやすさ、有効性、実用性、セキュリティー、データガバナンスのラベルを製品ごとに発行する。

今年の初めにクオーツに掲載された記事でコラボース氏は、Elektra Labsを売り込むとともに、芽生えたばかりのデジタル治療業界のためにモニターするデータのタイプについて述べている。また、情報源を一箇所にすることで報告しやすくするという、デジタル治療に伴う好ましくない出来事への対処能力、製品の機能に関する消費者向けの基本的な説明、デジタル製品ごとに特定のユーザーにどれだけ有効かを調べた結果に基づく、デジタル治療を受けるべき人の審査、デジタル治療の原点と開発の歴史、製品に伴う潜在的リスクのデータベース、製品のセキュリティーとプライバシー保護機能の記録などについても語っている。

市場規模の予測が示すとおり、問題点が縮小することはない。先日の、GoogleによるFitbit(フィットビット)の買収提案や、より多くの患者のデータ収集とデジタル化を目的とした米大手医療機関アセンションとのプロジェクト・ナイチンゲールでの提携の報道からは、テクノロジーと医療の交差点が、ハイテク企業にとっては巨大な好機になっていることが見て取れる。

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「Googleはさらに投資します。Appleはさらに投資します。それらのデバイスは次々と食品医薬品局の認可を得て、単なる健康管理ツールではなく、医療ツールとなるのです」と、医療と健康への潜在的なメリットを宣伝するように、デジタルデバイスの爆発的増加についてコラボース氏は話した。

Elektra Labsは、名前は明かしていないが、ある製薬会社と共同で、デジタル治療環境の図式化と、臨床試験でのパートナーとしてふさわしい、またはデジアル市場で買収目標となる企業の特定をすでに進めている。「食品医薬品局もそうしたデジタル・テクノロジーについて考えていますが、そこには大変なギャップがあります」とコラボース氏。そしてギャップこそ、Elektra Labsは埋めようとしているものだ。

その中心になるものとして同社は、現代のセンサー技術でトラッキング可能なデジタルバイオマーカーのカタログを開発している。それは、その測定結果を、どの製品がどれだけ効率的に提供するかを示すものだ。同社はまた、さまざまなデジタル製品の有効性に関する、同業者が審査し発行した研究論文や、あらゆる臨床試験データに目を光らせている。

コラボース氏と彼女のデジタル製薬の未来の夢を支えているのは、Maverick Ventures(マーベリック・ベンチャーズ)、Arkitekt Ventures(アーキテクト・ベンチャーズ)、Boost VC(ブースト・ブイシー)、Founder Collective(ファウンダー・コレクティブ)、Lux Capital(ラックス・キャピタル)、SV Angel(エスブイ・エンジェル)、Village Global(ビレッジ・グローバル)の各ベンチャー投資会社だ。

エンジェル投資会社の他にも、PillPack(ピルパック)、Flatiron Health(フラットアイアン・ヘルス)、National Vision(ナショナル・ビジョン)、Shippo(シッポ)、Revel(レベル)、 Verge Genomics(バージ・ジェノミクス)といった企業の創設者や最高幹部のベンチャー投資家が、コラボース氏のこの最新のベンチャーに290万ドル(約3億1500万円)を投じている。

「Elektra Labsが構築しようとしているものの、タイミングは正しいように見えます」と、ラックス・キャピタルの投資家Brandon Reeves(ブランドン・リーブズ)氏は話していた。彼は、同社の最初の機関投資家の一人だ。「私たちは、携帯電話での個人データ利用の周囲に時代精神を見てきました。そして今、公共の場で、私たちのもっともセンシティブなデータ(健康)の話がされるようになりました」

もし妥当性の検証がアトラス・プラットフォームの主要理念ならば、セキュリティーは同社のデジタル治療審査におけるもうひとつの重点だ。実際、コラボース氏は、その2つは協調関係にあると信じている。プライバシーの問題は、インターネット全体に広まっている。同じ問題が、人の最も慎重に扱われるべき情報、つまり個人の医療記録をモニターするインターネットに接続されたデバイスでも、加速度的に増加するとコラボース氏は見ている。

ワイヤードに掲載された記事の中で、コラボース氏は以下のように述べていた。

今の医療システムには、血液やゲノムデータといった患者の生体試料を守る強力な保護体制がありますが、私たちのデジタル試料はどうでしょう? 私たちの顔、歩き方、話し方、行動パターンを認識できるデジタルツールによる生体観察が増加すれば、データの権利やガバナンスが非常に重要になります。サービス規約にサインをしてもらい、一度だけユーザーの同意を得るという方法では不十分です。製品自体にインフォームドコンセントを埋め込むといった、また時とともにユーザーの考えが変わったときに対応できるような、より高度な社会契約が必要になります。

この業界には、しっかりとした倫理的基盤を築かなければなりません。それがあって、モニターツールや観察ツールはメインストリームになれます。患者主体の医療を提供するという有名な誓約であるヒポクラテスの誓いにならい、数多くのセキュリティー研究者が、コネクテッド医療機器のための誓いの新バージョンを起草しました。

有効な規制を設け、商業活動を増加させ、強力なガバナンスを持つことで、ソフトウェア駆動の医療製品は医療の提供方法に変革をもたらします。この調子でいけば、私たちが考えているよりももっと早く、アプリとアルゴリズムが医師を支援し、医薬品を補完する、あるいは置き換えることになるでしょう。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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