Amazon Web Services(AWS)がこれから提供するオプションにより、AWSのユーザなら誰でも、自分の仮想プライベートクラウド(virtual private cloud, VPC)を持てる。VPCは、ユーザが利用するEC2のインスタンスの一つのタイプになる。これまでVPCは、別サービスとして提供されていた。
VPCを使って顧客ができることは、AWSの言葉によると、“論理的に隔離されたEC2のインスタンス群の仮想ネットワークで、それに顧客自身のデータセンターからVPNで接続することも可能”、というものだ。これは、物理的なセンター群を仮想化して自前のエラスティックなインフラを作る、データセンター中心型の方式の再検討を顧客に迫る。自前主義は、ソフトウェアのライセンス、ハードウェアの費用、システムを管理するITスタッフ、といったコストの問題に帰着する。VMwareなどはこういう、‘仮想化はユーザ各社がやれ’という主義を広めてきた。仮想化技術が売りだから、当然だが。
AWSのやり方は、違う。顧客に、AWSの低コストと柔軟性というアドバンテージを与えつつ、今顧客が使っているインフラをそのまま使えるようにするのだ(下図)。
顧客が使うEC2インスタンスは、”EC2-VPC”プラットホームと呼ぶものの中へローンチする。この機能はリージョンごとに展開され、最初はアジア太平洋(シドニー)と南アメリカ(サンパウロ)だ。展開は数週間後に始まる。
その処理は自動化されるので、顧客自身がVPCを前もって作るという作業はない。むしろAWSによれば、顧客はこれまで(EC2-Classic)と同じく、単純にEC2のインスタンスを立ち上げ、Elastic Load BalancersやRDSデータベース、ElastiCacheのクラスターなどを配備(プロビジョン)するだけだ。するとVPCが、特別の課金を伴わずに作られる。
ここから顧客は、一つのインスタンスに複数のIPアドレスを割り当てる、セキュリティグループの帰属関係を平常稼働を妨げずに行う、セキュリティグループに外部フィルタを加えるなど、仮想化特有の機能を利用できるようになる。
AWSによると、VPCでは既存のシェルスクリプトをそのまま使え、CloudFormationのテンプレート、AWSのElastic Beanstalkアプリケーション、Auto Scalingによる構成なども、従来どおりに使える。
VPC機能が使えるのは、AWSの新規顧客と、既存の顧客だがそのリージョンでインスタンスをローンチするのは初めて、という顧客だ。
“エンタプライズ市場は過去12〜18か月で様変わりし、CIOたちはクラウドコンピューティングを受容するようになった”、SXSWのステージでそう語るのは、NEA VenturesのゼネラルパートナーScott Sandellだ。それは何を意味するのか? 彼によると、データセンターに関するこれまでのエンタプライズ技術がすべて陳腐化する、というのだ。AWSの今回の動きも、このような市場のシフトに対応するものであり、それは、インフラに自前で高価な投資をすることに比べて、クラウドを有効利用するサービスのほうが価値が高い、と暗に示唆している。