人々のお財布をデジタル化するというApple(アップル)の計画は、徐々に形になってきている。最初は飛行機の搭乗券や会場のチケットだったものが、後にクレジットカードや地下鉄の乗車券、学生証などに広がった。同社が次にデジタル化することを目指しているのは運転免許証や州発行の身分証明書で、年内に予定されているiOS 15のアップデートでサポートする予定だ。
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しかし、そのためには州政府の協力が必要だ。というのも、米国で運転免許証やその他の身分証明書を発行しているのは州政府であり、州ごとに身分証明書の発行方法は異なるからだ。Appleは米国時間9月1日、デジタル運転免許証や州発行の身分証明書を導入するために、これまでにアリゾナ州とジョージア州の2つの州との提携を確保したと発表した。
コネチカット州、アイオワ州、ケンタッキー州、メリーランド州、オクラホマ州、ユタ州がこれに続く見込みだが、展開のスケジュールは明かされていない。
Appleは2021年6月に、デジタル免許証とデジタルIDのサポートを開始すると発表した。また、米国内を飛行機で移動する際に必要なのは州発行のIDのみであることから、運輸保安局(TSA)はいくつかの空港でiPhoneからのデジタル免許証の受付を開始する最初の機関となる、とも述べた。TSAのチェックポイントでは、デジタルウォレットをIDリーダーにタップして提示することができるようになる。Appleによれば、この機能は安全で、携帯電話を係員に渡したりロックを解除する必要はないという。
デジタル免許証とIDのデータはiPhoneに保存されるが、運転免許証は参加州による照合が必要だ。何百万人ものドライバーや旅行者をサポートしつつ、偽IDの混入を防ぐためには、それが大規模かつ迅速に行われなければならない。
免許証や身分証明書のデジタル化の目的は、特定の問題を解決することではなく、利便性だ。しかし、この動きはプライバシー専門家からは信頼を得られていない。彼らは、Appleがこの技術をどのように構築し、それにより最終的に何を得るのかについて、透明性に欠けていると嘆いている。
Appleは、デジタルID技術がどのように機能するのか、また、iPhoneにデジタル免許証を登録するプロセスの一環として州政府がどのようなデータを取得するのかについて、まだ多くを語っていない。また、同社は自撮り写真を撮影してユーザーを認証するという、未発表の新しいセキュリティ認証機能にも取り組んでいるが、これは他人が勝手に免許証を使用するのを防ぐためらしい。これらのシステムに本質的な問題や欠陥があるというわけではないが、Appleが今後答えるべき、プライバシーに関する疑問が多くある。
しかし、米国内のデジタル免許証やIDの断片的な状況は、Appleの参入をもってしても、一夜にして見通しが良くなるということはないだろう。MuckRockによる最近の公文書開示請求では、Appleは2019年の時点で、カリフォルニア州やイリノイ州を含むいくつかの州とiPhoneにデジタル免許証やIDを導入することについて接触していたことがわかったが、現在はどちらの州もAppleから発表されていない。
ウィスコンシン州、サウスカロライナ州、ロードアイランド州は、WWDCで発表されたまさにその日にAppleのデジタル免許証計画を知ったため、導入はさらに遅れると思われる。
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画像クレジット:Apple / supplied
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(文:Zack Whittaker、翻訳:Aya Nakazato