11月16日、17日の2日間で開催したスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2017」は大盛況のうちに幕を閉じた。海外からの有名スピーカーも多く登壇するなか、初日にはTrello CEOのMichael Pryor氏がステージ上に現れた。TechCrunch Tokyoに集まった日本の投資家や起業家たちの前で彼は、日本市場のポテンシャルやTrelloが世界中の人々に受け入れられた理由について語ってくれた。
2011年にFog Creek Softwareの社内プロジェクトとして始まったタスク管理アプリ「Trello」は、2011年9月に開催された米国TechCrunchのスタートアップイベントDisruptで正式ローンチ。その後も順調にユーザーを集め、2017年1月にAtlassianに4億2500万ドルで買収されている。
Trelloが多くのユーザーを惹きつけたのは、コンセプトがシンプルであること、そして何より操作が楽しいことが要因だとMichael氏は語る。
「付箋を使ったことがあるユーザーであれば、Trelloのことをすぐに理解できる。Trelloは、付箋にメモを残すという行為をデジタル化したものです。操作は楽しく、人間味があります。付箋を貼るというコンセプトは、誰にとっても理解しやすいものなのです」(Michael氏)。
デジタル化した付箋メモというコンセプトのシンプルさゆえに、その使い道もユーザーによってさまざまだ。僕たちTechCrunch Japanでは、取材案件の担当者決めと進捗管理にTrelloを使っているけれど、ユーザーのなかにはTrelloをアンケートアプリとして使ったり、家庭でのタスク管理に使っているという人たちもいるという。
Trelloは今やグローバルで使われるタスク管理アプリへと成長したが、国によってもその使い方に違いがあるようだ。例えば、ブラジルでは家庭で使われることが多い一方で、ドイツでは主に仕事場で使われている。使用用途を選ばないTrelloの柔軟性こそがその人気の秘密なのかもしれない。
「IRC(インターネット・リレー・チャット)やSlack、その他のチャットアプリのようなツールから良いところを取り出し、誰もが使えるようなツールを作るというのがTrelloのアイデアでした」(Michael氏)
“翻訳”と“ローカライゼーション”の違い
2016年4月に行ったサービスの多言語化により、現在Trelloは日本語でも使用することができる。日本市場の可能性ついてMichael氏は、「現状、Trelloは日本向けにローカライズしたというよりも、単に翻訳したに過ぎません。それでも、日本のユーザー数は非英語圏のなかでは最も多い。日本市場には大きなポテンシャルを感じています」と語る。
しかし、その一方でMichael氏は、サービス内の文言をその国の言語に翻訳するだけでなく、その国の特徴にあわせてローカライズすることの重要性についても強調した。
「Trelloの多言語化で私たちが学んだのは、単なる翻訳とローカライゼーションの間には大きなギャップが存在するということです。Trelloはブラジルとスペインの両国に進出しています。しかし、それぞれの国におけるローカライズ度合いは大きく異なります。ブラジルではアプリを現地の言葉に翻訳するだけでなく、現地で人を雇い、ブラジル人ユーザーと対話することを心がけました。その一方で、スペインではアプリを翻訳するだけでした。ローカライズ度合いの差が、その後の成長速度にどんな影響を及ぼすのかを観察したかったのです。結果、ブラジル市場での成長速度はスペインのそれを大きく上回りました」(Michael氏)
アプリのグローバル展開とローカライゼーションについてのMichael氏の意見を紹介したが、これを聞いて「グローバル展開か。自分にとっては数年後の話かな」と思った起業家諸君。そんなことはない。この記事の最後に、起業家に向けたMichael氏のアドバイスを紹介しておこう。
「今の時代にアプリを作るのであれば、最初からグローバル展開を視野にいれて作るべきだと思います。翻訳すれば世界中の人々に使ってもらえるような仕組みのものを作るべきなのです。今ではサービスの翻訳がとても簡単にできるようになりました。最初からグローバル展開を視野に入れてアプリを開発するのは簡単なことですが、後からそれを行うのは非常に難しいことなのです」(Michael氏)