アメリカ、国際宇宙ステーションの民営化を検討――シャトルの引退後NASAによる運営困難に

Washington Postによれば、トランプ政権は2024年に国際宇宙ステーション(ISS)を退役させる代わりに、民営化する方策を検討しているという。

Washington Postが入手した文書によれば、アメリカ政府はISSを単に洋上に落下させるのではなく、民間企業に運営を任せる方法を模索している。これに伴いNASAは「地球低軌道における人類の活動を継続するために、向こう7年の間にパートナーシップを国際的にも商業的にも拡大していく」ことになるという。

WPの記事によれば、トランプ政権は2019会計年度のNASAの予算中に、ISSの商業的運営が成功するよう方策を講じるための予算として1億5000万ドルを要求するという。これは後継運営者がISSの全体または一部を必要に応じて利用できるよう整備するためだという。

アメリカ政府はこれまでに概算で1000億ドルの予算をISSの開発と運営のために投じてきた。ISSはアメリカの他に、欧州宇宙機関(European Space Agency)、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ロシア宇宙機関(ロスコスモス)などが主要メンバーとなって運営されている。

宇宙飛行士、 Cady ColemanがISSの窓際から地球を見下ろす(画像:NASA)

しかしNASAのエンジニアがQuoraで説明したように、NASAは「すべてのプログラムを実行するための予算がない」ため、ISSの運営を停止さざるをエなくなっていた。

NASAの衛星組み立てと日常運営部門の責任者、Robert Frostはこう書いている。

…残念ながら〔NASAは〕すべての巨大プログラムを同時に望むように実行するリソースを欠いている。ISSの建設にあたってはスペースシャトル・プログラムが必須の要素だった。しかしISSの〔基本部分の〕組み立てが終わった後、次の有人宇宙計画(Constellation)が実現する前にスペースシャトルが退役を余儀なくされた。

NASAの使命は宇宙というフロンティアの開拓にある。地球低軌道における〔有人衛星の〕経験は十分に得た以上、 NASAはこの分野を民間企業に引き継ぐことが可能だろう。【略】

将来のISSの運用にあたっては政府と民間企業による第三セクター方式が考えられるだろう。NASAが運営を停止した後のISSを大洋の墓場に落下させて葬るよりいいはずだ。

NASAでISSの運用に10年携わったエンジニア、Michael T. Suffrediniが創立したAxiom Spaceは宇宙ステーションの商業的運営を行うビジネスを目的としており、シード資金として300万ドルを調達している。エキセントリックな言動で知られるラスベガスの大富豪、Robert BigelowのBigelow SpaceもISSに新たな居住・実験区域を追加するプロジェクトを進めている。

ISSを商業的に運営することが可能かどうかについては議論があるものの、NASAがシャトルの運営を停止したときからISSの運営をこのまま続けるのは不可能だというのは動かしがたい結論だった。

ISSの運命は長年宇宙関係者の懸念することがらとなっていたが、先週、元宇宙飛行士のMark KellyはNewyork TimesのコラムでISSの運用継続を訴えている。【略】

ISSの民営化にあたっては、商業的に成立させる方策を探ることも重要だが、国際協力の枠組みを再交渉するという大きなハードルも存在する。ことにISSの建設当初に比べてアメリカとロシアの関係が冷え込んでいることが影響するおそれがある。

またアメリカがISSから手を引けば、大いに歓迎する国がすくなくとも一つある。近年、中国政府は宇宙計画に数十億ドルを注ぎ込んでおり、宇宙における役割の拡大に努力している。

Kellyは、New York Timesのコラムで「アメリカが手を引けば、その空白を他国が埋めることになるのは疑いない。それはおそらくロシアと中国だろう。われわれが重大なライバルと見ているこの両国が主導権を握れば…宇宙における活動がアメリカが信じる価値や利害に反する方向に動かされる危険性がある」と警告している。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。