VRコンテンツの制作・配信・分析プラットフォーム「InstaVR」を提供するInstaVR。同社は6月4日、YJキャピタルなど日米のVC複数社を引受先とした第三者割当増資により総額5.2億円を調達したことを明らかにした。
今回のラウンドに参加した投資家陣は以下の通り。
- YJキャピタル(リード投資家)
- 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
- みずほキャピタル
- グリーベンチャーズ
- コロプラネクスト(Colopl VR Fund)
- The Venture Reality Fund
上記VCより、グリーベンチャーズのジェネラルパートナーである堤達生氏、YJキャピタル取締役副社長の戸祭陽介氏がInstaVRの社外取締役に就任する。
同社では調達した資金をもとに開発体制および事業体制を強化し、人材育成VRプラットフォームを中心にさまざまな事業用途に特化したプラットフォームの開発を進める方針。また機械学習や人工知能の研究開発を推進し、蓄積してきた視聴データの活用にも力を入れていく予定だ。
InstaVRは2015年11月の設立。2016年8月にもグリーベンチャーズとColopl VR Fundから約2億円を調達している。
世界で3万社が利用、海外売上比率が9割
InstaVRはビジネスの現場でVRコンテンツを活用したい事業者向けのプラットフォームだ。プログラミングなど専門知識は不要で、ブラウザ上からVRアプリをスピーディーに作成できる。
さまざまな種類のVR動画、画像フォーマットに対応するVR再生プレイヤーを自社で開発。コンテンツは幅広いVRデバイスへ出力可能で、配信方式もアプリへの埋め込み、クラウドやイントラネットからのダウンロード、ストリーミングなど柔軟性に優れる。
世界最大のサーフィンリーグであるワールド・サーフ・リーグ (WSL)では1名の担当者がInstaVRを活用。2週間でiOS、Android、Daydream、Gear VR、Oculus Riftなどの主要なVRヘッドセットに、自社VRアプリを配信した事例もあるそうだ。
現在までに世界140ヶ国、3万社で導入。トヨタやサンリオ、エルメスを始めとした大企業のほか、少し変わったところではアメリカ合衆国農務省やアメリカ合衆国海軍、スタンフォード大学、イギリス政府、国連なども含まれる。海外での利用が多く、売上の約90%が海外企業によるものだ。
当初は不動産の内見や観光案内などの目的で使われることが多かったそうだが、現在は配信されたコンテンツも約20万本となり、利用用途も広がってきた。特にInstaVR代表取締役の芳賀洋行氏も意外だったというのが「90%がマーケットプレイスを利用せず、社内配布している」こと。
中でも直近では人材育成や人材採用用途での利用が増えてきているという。
人材育成に特化したプラットフォームの提供を開始
そのような背景も受けて、InstaVRでは人材育成VRプラットフォーム「InstaVRセントラル」の提供を始めた。これは簡単にいうと「OJTや職場体験をVR化」するようなイメージだ。
最大の特徴は専門知識や、実際に撮影した時間の10倍〜20倍の時間が必要となる「VR撮影後の現像工程」を不要にしたこと。InstaVRの独自再生プレイヤーを機能拡張することによって、ユーザーが360度カメラで撮影したデータをアップロードしさえすれば、自動でVRコンテンツが生成されるようになった。
「(以前から提供していたInstaVR本体でも)プログラミングスキルは不要で、ドラッグアンドドロップなどで直感的に作れるようにしていた。そのため十分簡単だとは思っていたが、それでもITになじみのない人からすれば難しいと言われたこともある。その作業を自動化し、ボタンをカチカチ押すだけでVRコンテンツができるようになった」(芳賀氏)
僕も実際にデモを見せてもらったのだけど、承認ボタンを押すような感覚で、順を追ってボタンをただ押すだけ。UIもエディタという感じはなく、かなりシンプル。Googleのトップページのようなイメージに近く、中央にボタンのみが設置されているような設計だった。
従来コストがかかっていた編集作業の自動化に加えて、InstaVRでは導入企業の担当者が自身で撮影できるように機材のマニュアルや講習を提供。専門のスタッフを派遣せずに済むようなフローを構築している。
これらによって「専門の制作会社に頼むと数百万円かかっていたようなVRコンテンツを、月額30万円から定額で作れるようになる」(芳賀氏)という
とはいえ、そもそもVRコンテンツにする必要性があるのか疑問に思う読者もいるはずだ。
芳賀氏自身も当初はEラーニングで十分ではないかと思っていたそうだが「VRは没入感がすごく、自身が現場を体験しているような感覚になれるのが大きい。業務が完全にマニュアル化されていない複雑な業務や、実地訓練を必要とするものに向いている。熟練従業員の技術を実際に体験するといった使い方もできる」という。
InstaVRセントラルは2017年より一部の企業向けに先行して導入済み。アメリカ合衆国農務省では、食肉加工工場のライン作業の訓練をすべてVR化したところ、訓練時間が1/3に短縮。年間研修費用が1/5に削減されるほか、離職率も10%以上低下できたそうだ。
すでに国内においても大手企業から中小ベンチャーまで導入実績があるが、今後は調達した資金も活用して組織体制を強化し、InstaVRセントラルを本格的に広げる計画。
またInstaVRではこれまで約1億再生分の視線データ、視野内の物体を人口知能によって認識した100億個超のタグデータを蓄積している。これらのデータを事業に活用するべく、人工知能の研究開発にも力を入れる方針だ。