アルコールの新時代、デリバリーアプリがアルコール市場をどう変えるか

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【編集部注】執筆者のMegan Hanney氏は、テック業界を中心に活動する国際法律事務所にてそのキャリアをスタートさせた。その後、WeWorkのロンドン初となるコーワーキングスペースを立ち上げ、さらに起業家向けメディアプラットフォームのRebelhead Entrepreneursの共同設立者となった。

ロンドンの新興テックスタートアップのひとつであるBevyの登場まで、ヨーロッパには深夜のアルコール飲料の配達に特化したアプリは存在しなかった。今後は年中無休を視野にいれつつ、現在朝5時までサービスを提供し、急速な拡大化も可能なビジネスモデルを備えたBevyは、お酒の購入手段を増やすことを通じて、オンデマンドサービスを再定義しようとしている。

Bevyは究極の便利さを目指し、GPS技術を使った配達状況のトラッキングや、最低購入額の撤廃、30分以内の待ち時間を実現させた。ナイトライフを楽しむ人のため、Bevyはアルコール飲料の他に、割り物やタバコ、vape(電子タバコ)関連製品やコンドームの配達も行う。

Bevyのアルコールに特化したマーケット支配力は、「バトラー」に仕立てあげられたドライバーによって強化されている。同社のドライバーは、「バトラー」にふさわしい格好をしているだけでなく、到着時には購入者の年齢確認も行うよう指導されている。さらにBevyは、利用客に対して、お酒が届いたら「バトラー」へのチップも大歓迎だとちゃっかり伝えている。

アメリカ・ヨーロッパ全体をめぐる戦い

JustEatのような既存のプレイヤーや、その後に続いたDeliverooの人気に見られる通り、ヨーロッパ中でオンデマンドフードデリバリーサービスの競争が、長期にわたって激化している。その後、Henchmanなど特にカテゴリーを定めない、生活用品や必需品の宅配サービスの登場をうけて、オンデマンド市場はロンドンでも広まっていった。

SauceyDrizlyMinibarThirstieなど、アメリカはオンデマンドのアルコールデリバリーアプリにおいてヨーロッパに先んじている一方、2015年12月のBevyのローンチまで、ヨーロッパに同様のサービスは存在せず、現在でも直接の競合となるような企業は見当たらない。

Bevyの共同設立者であるMarco Saio氏は、「アメリカでのBevyに似たアプリの成功から、私たちがやっていることは間違ってないと感じています」と言う。「アメリカでは通常、深夜1時以降になると、アルコール飲料をお店で買うのは難しくなります。そこで、Bevyが24時間サービスと共に市場に参入すれば、時間に関係なくお酒が買えるようになり、いつでもお客さんの欲求を即座に満たすことができます」

さらにSaio氏は、「アメリカの消費者は、深夜にお酒を配達してくれる様々なアプリに馴染みがありますが、Bevyは、ドライバーネットワークの徹底管理を行い、販売責任を小売店が担っているという点から、これまでにないビジネスモデルの上に成り立っています。私たちはドライバーに多大なリソースを投入しており、各ドライバーは仕入元となるひとつの小売店に配置されるまで、何ヶ月にも及ぶトレーニングを受けなければいけません」と語る。「つまり、Bevyはそのオペレーション力を活かして、配達時間を他の宅配アプリの半分にまで縮めることができるのです。同時に、各小売店の在庫情報をオンラインで管理することで、酒類販売のライセンスの問題や、配達リスクを回避しています」

ビジネスモデルの成功

今日のデジタル時代において、Bevyのビジネスモデルは、完璧な破壊的イノベーションの例だと言える。Uberが自社の車を保有せずWeWorkが不動産を所有していないように、他の業界のリーダーと同じく、Bevyは自社で在庫を持っていない。その代わりに、Bevyは24時間営業の大手小売店と協働し、注文を受けたドライバーが小売店から商品を購入後、そのまま直接購入者に届けるというモデルを確立した。

ヨーロッパのナイトライフは衰退の道をたどっており、ミレニアル世代は家の中で夜を過ごすようになっている。

通常、HungryHouseなどのフードデリバリーアプリでは、アルコール飲料には料金が上乗せされている一方、高級そうな見た目とは裏腹に、Bevyの料金には通常の小売価格が適用されている。

そのため、Bevyは、メインとなる小売店からの手数料に加え、一律5ポンドの配達料金の一部をその収入源としている。さらなる収益獲得に向けて、Bevyはアプリ上の広告サービスについても検討している。

また、Bevyの配達とテクノロジーを掛けあわせたシステムは、自社開発されたものだ。Siao氏は自社のシステムのことを、会話を交わすふたつのアプリのようだと言う。「一方のアプリが購入者に焦点をあて、一番近くで開いている小売店の在庫情報を引き出してくる間に、もう一方のアプリが、アルゴリズムを使って、入ってきた注文を一番近くにいる『バトラー』へと送信します。Bevyのリリースまで丸一年を開発に費やし、6週間毎の新バージョンのリリースを経て、今のアプリは75個目のバージョンにあたります。私たちは、Benvyのビジネスモデルとテクノロジーを使って、競争の激しい30分デリバリーの業界を制覇することに注力しています」

ビジネスの成長と資金調達

イギリス国内でBevyが最初に力を入れたエリアには、ロンドン自治区内のケンジントンやチェルシーが含まれていた。ローンチ以降、Bevyは、24時間営業の酒屋がなかったウエストミンスターを含む、近くの富裕層があつまる地域へと進出していった。裕福な地域における、夜間のアルコール飲料の供給率が極端に低いことから、Bevyは狙いを定め、周辺の小売店とパートナーを組むことで、その高い需要に応えることができている。

Saio氏は、「私たちは、最初のマーケットとなるロンドンに一極集中し、拡大路線をとる前にロンドンでの地位を確立することを目指しています」と言う。「アルコール飲料の供給状況や、24時間営業を行っている小売店の数から、マンチェスターが次の進出先の候補として考えられるでしょう。主な課題は、店舗でのオペレーションと在庫管理システムの電子化で、照明のスイッチのように、押せば一瞬で店舗の在庫情報を一手に集められるようなシステムの構築にあたっています」

Saio氏によると、Bevyは現在シードラウンドからシリーズAの資金調達段階にあり、目的額のほぼ半分は、既に民間の投資会社を通じて調達済みだ。残りの必要資金については、エンジェル投資家やアクセラレーターから調達予定とのこと。現状のアプリはiOS用に作られているが、イギリスではアンドロイド用の方がマーケットが大きく、より速い成長を遂げる可能性を秘めている。そのため、シリーズAで調達される資金は、Android用アプリとeコマースウェブアプリの開発にあてられる予定だ。

シリーズBはクラウドファンディングを利用して行われる予定で、Bevyのソーシャルな性質を考慮するとぴったりな調達モデルだといえる。さらにBevyは、SeedrsCrowdCubeといったエクイティクラウドファンディングのサービスを利用することにも前向きだ。ヨーロッパ全体への拡大にBevyは意欲的であるものの、もっと先の話だと考えており、将来的にはパリのような主要都市における、厳しくて対応が困難な法律と向き合うことになるだろう。

Bevyのユーザー数は、ひと月あたり平均55%増加しており、売上も毎月平均40%伸びている。

ミレニアル世代とナイトクラブの衰退

ヨーロッパのナイトライフは、アメリカに比べるとゆるやかに衰退の道をたどっており、ミレニアル世代は、家の中で夜を過ごすようになっている。これは、ヨーロッパにおけるオンデマンドのアルコールデリバリーサービスの登場が、比較的遅かったことと関連があるかもしれない。過去10年間にイギリスのナイトクラブの数は45%減っており、オランダでも38%の減少を記録している。

この傾向は、イギリス中へサービスを展開した後に控える、Bevyによるヨーロッパ全体への進出の追い風でしかない。イギリスのアルコール・タバコ市場の規模は約300億ポンドに及ぶ一方、今後Bevyが、大酒飲みで有名な大陸で、どううまくビジネスを展開していくのか見るのが楽しみだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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