会社勤めの方なら経験があるはずだ。年1回のセクシャルハラスメントと無意識の偏見に関するトレーニングの時期が来たことを告げる電子メールを受け取る。メールには「この日付までにトレーニングを終えることができれば大変素晴らしい」とある。
典型的なプログラムの内容はいかにも映画「Office Space」(邦題:リストラ・マン)に出てきそうだ。ハーバード大学を出たコンピューターサイエンティストのAnne Solmssen(アン・ソルムセン)氏が最近電話した友人の反応は驚くにあたらない。勤務する会社が指示したオンライントレーニングプログラムを受けた友人は「野球をしているときのほうが面白い」とつぶやいたそうだ。
ソルムセン氏には、セクシャルハラスメントのトレーニングをもっと面白く、うんざりさせない内容にするアイデアがある。同氏は最近、同じくハーバードの卒業生であるRoxanne Petraeus(ロクサーヌ・ペトレイアス)氏と力を合わせてEthena(エシーナ)というSaaSのスタートアップを立ち上げた。同社はカスタマイズ可能なセクシャルハラスメントのトレーニングプログラムを提供する。一コマが「ひと口サイズ」になっていて、職場のセクシャルハラスメントに関する個々人の理解度に応じたプログラムを提供する。来年の第1四半期に大々的にリリースされる頃には、ソフトウェアは業種の特性を加味した内容になる予定だ。
ペトレイアス氏がリードするかたちで2人はこの夏に活動を始めた。同氏はアイビーリーグの学費捻出のため米予備役将校教育課程に入り、民事担当官を含めて米軍で7年間過ごした。その後オンラインの食品向けマーケットプレイスを共同で創業した。マッキンゼーでも1年間過ごし、会社経営について学んだ。
ペトレイアス氏は、これまでのキャリア、特に陸軍で素晴らしいリーダーに出会ってきたという。「良いリーダーは自身の仕事上の成長目標と私生活について深く考えるし、他人に劣等感や疎外感を感じさせずに、むしろ強みを引き出す」。
ペトレイアス氏は、ほとんどのハラスメント研修が十分に練られておらず、本社を置く州の法令を順守するための単なるチェックリストになっていると感じていた。同氏が驚いたのは、多くの会社で従業員が受けているプログラムが「1980年代の法律事務所向けに作られた」ようなものだったからだ。
一方ソルムセン氏は、ベンチャーキャピタルが支援する公共安全ソフトウェア会社であるMark43で働いていた。同氏の仕事は順調だったが、2人のエンジニアリングの才能とビジョンから何かが生まれると友人が予感して、2人を引き合わせた時、予感が的中したことがわかった。「ビジネスを始めることに特に興味はなかったが、ロクサーヌとともにこのアイデアに恋をした」とソルムセン氏は語った。
Ethenaが開発しているものと、世の中に出回っているものはどう違うのか?多くの点で明らかに異なる。Ethenaが望むのは、毎年最後に従業員に受けさせる1、2時間のトレーニングで「一気に片付けてしまう」方法ではない。そうではなく、特定のテーマに関するケーススタディや質問を毎月従業員に届ける材料を用意している。後日、全従業員会議であるテーマに言及して、目標の達成に役立てることができる。
Ethenaは反復性があり、回答次第で変化するコンテンツや質問に力を入れている。新入社員は、女性を部下に持つ役職者とはまったく異なる回答をするかもしれない。すべての従業員が通常提示される白黒ハッキリしたシナリオ(例えば「『ジュディとブライアンが仕事の後にバーに行く』状況を考えてください」といったシナリオ)とは対照的なアプローチだ。
ペトレイアス氏は次のように語った「年々問題が微妙になっているため、伝統的なトレーニングでは、仕事以外で異性が一緒に時間を過ごすことはメンターシップにとってよくないと暗に従業員に伝えている。だから次のような質問が出る。『出張中に女性とUberに同乗することはできますか?』」。異性の同僚が居合わせるあらゆる機会を地雷原に変えることは「私たちが伝えるべきメッセージではない」。
だが従業員はそう理解している。LeanIn.OrgとSurveyMonkeyが今年始めに実施した調査によると、男性マネージャーの60%は、1対1での女性とのメンタリング、協働、交流を嫌がる。この割合は1年前から32%上昇した。同じ調査で、これが上層部の男性になると、後輩の女性との1対1のミーティングを12倍、一緒に出張することを2倍、ビジネスディナーを一緒に取ることを6倍嫌がる。
米雇用機会均等委員会(EEOC)でさえ、セクシャルハラスメント訓練はどこか間違っていると考えている。単に法的責任を回避すればいいと考えているため、予防ツールとして機能していないと指摘する。実際、EEOCの委託を受けた職場のハラスメントを研究するタスクフォースは数年前、最終的に「効果的なトレーニングは真空の中では実施できない。トップが率先して会社全体に非ハラスメント文化を浸透させる活動の一部でなければならない」と結論づけた。「すべてのケースに有効な解決策があるわけではない。トレーニングは従業員や職場ごとに内容を変えるのが最も効果的だ」とも述べている。
カスタマイズできることだけではなく、もちろんコンプライアンスにも配慮し、Ethenaは配信するコンテンツの刷新を進めている。テーマは職場恋愛(間違いなく起こる)、妊娠中の同僚を排除しないこと(密かに疎外されている)、トランスジェンダーの同僚(よくあるセクシャルハラスメントのトレーニング資料では誤解されているか見落とされている)。
アナリティクスにも重きを置いている。たとえば、従業員の60%が職場恋愛に関する社内規程を知らない場合や、会社のコアバリューに関してマーケティング部門の従業員の理解度が他の部門より低い場合、Ethenaがフラグを立てて会社のマネージャーに予防措置を促す。ソルムセン氏は次のような例を挙げた。「LAのオフィスでは従業員の回答が一貫していないとする。そこへ新しいマネージャーが入社したら、そのマネージャーに早く追いついてもらうよう追加のトレーニングを提供する」。
引退した将軍で元CIAのディレクターであるDavid Petraeus(デイビッド・ペトレイアス)氏の義理の娘であるロクサーヌ・ペトレイアス氏にとって最も重要な目標は、従来のお決まりのトレーニングをなくすことだ。大抵のトレーニングで従業員が学ぶ重要な基準は「間違ったことを言ったら刑務所行きになるか?」といったものだ。
Ethenaの成功の可能性を判断するにはまだ早い。現時点ではパイロットトレーニングプログラムの半分しか形になっていない。だがソルムセン氏とペトレイアス氏は売り込みがうまい。同社のソフトウェアは来年の第1四半期から、従業員1人4ドルで利用可能になるという。他のeラーニングプログラムと同水準だ。
同社は投資家からすでに得ている85万ドル(約9300万円)を新規採用に使う予定だ。 投資家には、シリアルアントレプレナーのAli Partovi(アリ・パルトヴィ)氏が昨年始めたベンチャーファンドのNeo、Village Global、女性経営者のスタートアップに特化するファンドのJane VCが名を連ねる。
エンジェル投資家もEthenaに小切手を切っている。Girls Who Codeの創設者であるReshma Saujani(レシュマ・ソジャニ)氏や退役軍人も何人か投資している。
ペトレイアス氏は「退役軍人は通常スタートアップに投資するとは考えられていない。だがリーダーシップや、多様なチームを同じ目標に向かわせるという点で、非常に相性がいい」と語った。
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(翻訳:Mizoguchi)