「成長に時間がかかっている中でも、事業をしっかり任せてくれていた。それは僕の大好きなディー・エヌ・エー(DeNA)の考え方。だからDeNAを離れても実はやることが劇的に変わる訳ではない。けれども新しい船に乗ってチャレンジしていくというのは、ワクワクした気持ちにあふれている」——スマホ画面共有型ライブ配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」を手がけるエモモ(現在社名をミラティブに変更すべく準備中)代表取締役社長の赤川隼一氏は、自身の心境をこう語る。
エモモは4月2日、グロービス・キャピタル・パートナーズおよび複数のベンチャーキャピタル、個人投資家を引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。金額は非公開だが、今回のラウンドで10億円以上の資金を調達しているという。
赤川氏は2006年に新卒としてDeNAに入社。広告営業やPRなどを担当したのちにヤフーと提携して「Yahoo! モバゲー」の立ち上げを担当。その後はDeNAの韓国支社立ち上げなどを経験し、20代で最年少執行役員となった人物だ。執行役員として海外事業やプラットフォーム戦略などを担当していたが、新規事業のプロデューサーとして現場に戻り、2015年8月にDeNAの新サービスとしてMirrativをローンチした。
そして2018年2月には自身の会社としてエモモ社を新たに設立し、簡易吸収分割によりMirrativの事業を承継することを発表。3月30日には事業の承継が完了した。赤川氏は12年過ごしたDeNAを飛び出して、自らの会社でMirrativの事業をグロースさせることを選んだ。外部投資家の支援を受けつつ、実質的にはMBOをしたかたちだ(本件に伴い、DeNAは8億6000万円を受領するという発表がされている)。
「もともとこうするつもりで始めたわけではないし、決して仲違いしたわけではない。撤退の決断も早いDeNAもこの事業は評価してくれていた。とは言え、どういうアクセルの踏み方をするか、どういうお金の突っ込み方をするかと話している中で決めた。僕が見ているのは、とにかく事業を最大化することだ」(赤川氏)
2月にもグラフが発表されていたが、Mirrativは順調に成長を続けているという。実数は非公開だが、アクティブ配信者(月1回以上の配信を実施)は順調に増加。もともとはAndroid向けにのみアプリを提供していたが、2017年9月にiOSでも画面配信が可能になったことから急速に成長。スマートフォンゲームの配信数および配信者数では日本一(自社調べ。根拠について確認したところ、後述するサービスはウェブの配信が中心であるため、スマホに限定するとMirrativが強いということだった)、アクティブユーザーの平均配信時間および平均視聴時間は1日平均100分、トップの配信者は累計4721時間も配信を行うなど(自社調べ。こちらは2018年2月のログデータから算出)だという。
ゲーム配信というと、最近ではCyberZのOPENREC.tvやAmazon傘下のTwitchといったサービスの名前が挙がるが、赤川氏は「競合らしい競合はいない」と語る。
「今、マーケットで『ゲーム実況』と言えば、(選手や競技、そしてその結果などが注目される)eスポーツ寄り。だがMirrativは完全に(配信者と視聴者の)コミュニケーションにフォーカスしているサービス。例えると、友だちの家で(人気RPGシリーズの)ドラゴンクエストをやっているのを見ているという感じ。この『コミュニケーション』というレイヤーでのアプローチは海外でもあまりない。ゲームがうまくなくていいし、たとえしゃべらなくても、それが許容される。結構ゆるいものになっている。だが平均視聴時間は1日100分という、規模が出てきてもなお『濃い』サービスに育っている」(赤川氏)
調達した資金をもとに、今後は人材面も強化。マネタイズも進めていくという。同社のビジネスは大きく2つ。1つは視聴者が配信者にデジタルアイテムを贈る「ギフティング」の手数料。そしてもう1つは動画配信サービスならではのライブを軸にしたタイアップビジネスだ。
同社によると、6922人の類似ユーザーを横比較したケースで、視聴経験者は未経験者に比べて30日後に約10%高いリテンション率を記録したという実績があるそうだ。つまりリテンションを高めたいゲーム会社にとって、ライブ視聴というのはマーケ施策の1つの選択肢となる。そこでMirrativでは、ゲーム会社を中心とするスポンサーと共同でタイアップのライブ配信を実施。スポンサーの提供するゲームに関する、ライブクイズなどを展開するのだという。最近ではGunosyやLINEなどもライブクイズを展開しているが、実はMirrativでもゲームを題材にしたライブクイズを展開しており、「すでにゲームのリテンションが上がった実績がある」(赤川氏)とのこと。またすでに、複数のゲーム会社からの発注もあるということから、ライブ配信を用いた集客支援を進めていくという。