シリコンバレーに移民がもっと必要なわけ

【編集部注】筆者Henrique Dubugrasはスタートアップにコーポレートクジットを提供する10億ドル企業Brexの創業者だ。

私のスタートアップの本部近くにあるサンフランシスコ入国管理局で「移民はここでは歓迎されている!」と叫ぶ抗議の声を聞いた時、かなり微妙なトピックをなんとシンプルなフレーズで表しているのだろうと感じた。移民起業家である私にはそう思えた。

ブラジルで育ったからか、移民法案に関する米国人の議論のニュアンスについて私はさほど詳しくない。しかし、ここサンフランシスコでは移民が仕事を生み出し、地元経済を刺激しているということは知っている。移民の起業家として、私はあらゆる要件を満たそうと試みたし、実際にこの国での私の存在価値を証明した。

私のテックスタートアップBrexは短期間に多くのことを成し遂げた。中でも偉業は、わずか1年で企業価値10億ドルとなったことだ。しかし、移民によって立ち上げられたスタートアップにも関わらずそのような高成長を達成した、のではなく、移民だったからこそできたことなのだ。グローバルブランド構築に向けた我々の成長や働き方の鍵となっているのが国際色豊かな人材の蓄積であり、これなしには今日の成功はなかっただろう。

Brexの話はこれくらいにして、シリコンバレーで最も成長しているスタートアップの共通点は何だろうか。そうした企業は移民によって運営されているということだ。実際、ベイエリアのSTEMテック労働者の57%が移民であるばかりでなく、米国の企業創業者の25%が移民だ。 SUN MicrosystemsやGoogleの創業者から、シリコンバレーで最も悪名高いツイッターユーザーであるTeslaのElon Muskまで、シリコンバレーでは移民の起業家はあげるときりがない。

移民はシリコンバレーで最初のマイクロチップを作っただけでなく、彼らはそうした企業を今日知られているテック大企業へと育て上げた。結局、10億ドルスタートアップの50%以上が移民によって創業され、そうしたスタートアップの多くがH-1Bビザを保有する移民によるものだ。

反直感的に聞こえるかもしれないが、移民は多くの仕事を作り出し、経済を強いものにした。シンクタンクNational Foundation of American Policy(NFAP)の研究で、移民が立ち上げた10億ドル企業が過去2年間で従業員の数を倍増させたことが明らかになっている。研究によると、「WeWorkは2016年から2018年にかけて従業員数を1200人から6000人にし、Houzzも過去2年間で800人から1800人に増やし、Cloudflareの従業員は225人から715人になった」という。

Brexでも同じような成長がみられた。1年の間に我々は70人を雇用し、雇用創出に600万ドルを投資した。我々のスタートアップだけではない。Inc.が最近報じたが、「[NFAPによる]レポートによると、移民が築いたユニコーンスタートアップ50社の合計企業価値は2480億ドルで、平均1200もの雇用を生み出した」という。

我々の成功の基礎原動力となっているのは国際色豊かな人材だ。主要人材の多くはウルグアイやメキシコといった南米中からきている人たちだ。事実、社員の42%が移民で、6%が移民の子供だ。多くの研究で、人種などのバラエティに富むチームは生産的で、チームワークがいいことがわかっている。しかしそれは、国際色豊かな人材に賭けるべき理由の一部にすぎない。それぞれの国から来ている優秀な人と働くと、それが作用してクリエイティブなアイデアがわき出るようになり、そして協調的になり、快適なゾーンからさらに一歩前に推し出してくれる。よりベストな状態へとあなたを駆り立てるのだ。

移民がこの国にもたらしたポジティブな貢献を考えると、移民政策はさほど制限的ではなかったと考えるかもしれない。しかしながら、そうではない。私が直面している難題の一つは、ペースの速い、競争の激しいマーケットでイノベーションを続けるために経験のある、適切なエンジニアやデザイナーを雇用することだ。

これはテック業界では世界共通の課題だ。過去10年間、ソフトウェアエンジニアは米国において十分に確保するのが最も難しい職業だった。経営者は優秀な人材やエンジニアにはマーケットレートに10〜20%上乗せした額を喜んで払う。しかし、私は2022年までに米国ではエンジニア200万人が不足すると予想している。イノベーションを起こす人材なくしてどうやってイノベーションをリードできるというだろうか。

問題をより深刻にさせているのは、優秀な移民への機会とビザのタイプがかなり少ないことだ。これは雇用の成長、知識の共有、そしてこの国におけるテクノロジーの躍進を妨げている。そして、制限の多いビザの法律を緩やかなものにしなければ優秀な人材を他の国にとられてしまうリスクがある。

今年H1-Bビザの申請が始まったが、このビザは取得が難しくなり、海外の人材を獲得するのは費用がかかるものになった。だからといって今が海外の優秀な人材を見捨てるときというわけではなく、あなたのスタートアップにとって競争面でアドバンテージをもたらすような専門性の高い労働力に投資をするときなのだ。

すでに、エンジニアの人材が急激にカナダに向かっている傾向があり、2017年には40%上昇した。トロント、ベルリン、シンガポールは急速にテックハブとして成長していて、多くの人がそうした都市が成長、人材、最新テクノロジーの開発面ですぐに米国をしのぐようになることを恐れている。

米国拠点のテック企業は2018年に3510億ドル売上げた。米国はこの大きな売上ソースを失うことはできない。ハーバード・ビジネススクールの教授でThe Gift of Global Talent: How Migration Shapes Business, Economy & Societyの著者であるWilliam R. Kerrは、「あなたがいかに経済的に成功するかは、活発な人材を惹きつけ、発展させ、そして取り込むあなたの能力に左右されることを今日のナレッジエコノミーは示している」としている。

移民は、シリコンバレーを今日のような原動力となるものにした。高度な技術を持つ人材の流入を厳しく制限することは誰の益にもならない。移民は、米国が世界でも最良のテックハブを築くのを手伝ってきたーいま、スタートアップは我々のテクノロジーや経済、地域社会が成長し続けられるよう、国際人材に投資するときだ。

イメージクレジット: BRYAN R. SMITH/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。