シリコンバレーはユニコーン企業ではなくゼブラ企業に報いるべきだ

シリコンバレーにはユニコーン問題がある。

高企業価値のスタートアップが消えていくのを望む人などいないが、本来ならもっと少なくあるべきだ。少なくとも若きファウンダーたちが10億ドル(1000億円)超えの非上場企業の努力と苦労を見たあとの結論はそうなる。

ユニコーンは神話上の動物なので、投資家は魔法のような結果を期待する。電光石火の成長、独占に近い市場そして100倍、1000倍のリターンを得られる記録的IPO。ゼブラ(シマウマ)は特定のニッチを埋めることで繁栄するべく進化してきた実在の動物だ。ユニコーン企業と異なり、ゼブラは細身で効率的で一貫している。

往々にして、実際の製品や現実的なビジネス展望ではなく、企業の名前や外見的な名声がユニコーンの売り物になっていく。ごく最近の、この傾向のおそらく最も顕著な事例といえば、WeWork(ウィワーク)だろう。

同社の2019年のIPO失敗は、10年に一度の大混乱だった。Enron(エンロン)以来、ここまで早く転落した企業はほとんどない。市場がこのユニコーンを試す機会を得た時、それが一芸しかもたないダンボールの角をはやしたポニーだったことに投資家たちは気がついた。Adam Neumann(アダム・ニューマン)氏は、実際の価値ではなく、純資産のために自分の会社を造り、彼の社員や支援者たちが代償を払った。そしてもしこのIPOが成功していたら、2020年3月に新型コロナウイルス感染症が蔓延した時、どれほどの企業価値が霧散していたか、想像してほしい。

現在の経済では、ほとんどのテックイノベーションがベンチャー資金を必要としているが、時としてユニコーンは、度が過ぎた場合のケーススタディになることがある。ラウンドに次ぐラウンドによる資金調達は、WeWorkの場合のように、崩れそうな基盤とあやふやなビジネスプランを隠蔽する。

2020年12月、モバイルビデオのユニコーンであるQuibi(CNBC記事)が創業から1年経たずに廃業した。映画・テレビの評論家は驚かなかったし、この会社の名を聞いたことのあるわずかな消費者もそうだった。

4月初めのタイミングの悪いスタートのずっと前から、まずいアイデアであることをほとんどの傍観者はわかっていた。それならなぜ、Quibiはそんなに多くの資金を受け取ったのか?会社とつながりのあったビッグネーム、たとえばDreamworksの共同ファウンダーであるJeffrey Katzenberg(ジェフリー・カッツェンバーグ)氏やHPの元CEOのMeg Whitman(メグ・ホイットマン)氏に惹きつけられた投資家たちは、この製品が名前から値付けにいたるまであらゆる点で間違っていたことになぜか気づいていなかった。

ユニコーンが何を提供するかは、それがユニコーンであるという事実と比べて重要ではない。ユニコーン企業の対極にあるのが、ゼブラ企業だと私は考える。少々変わっていて、一面の見出しを飾ることも息を呑むニュースになることもないが、存続し、何かをするために作られた会社だ。

ユニコーンは、終わりのないベンチャーラウンドという魔法の森の中にいるかぎりは繁栄し続けるが、ゼブラは自由市場のサバンナを戦い抜く。ゼブラ企業は次のFacebook(フェイスブック)やAmazon(アマゾン)のような巨人にはならないが、次のQuibiやWeWorkになることもない。

ゼブラ企業、たとえばHandshake(ハンドシェイク)やTuro(トゥーロ)や、ある面ではBen and Jerry’s(ベン&ジェリーズ)やPatagonia(パタゴニア)などの出現は、私たちのビジネスと経済に対する理解の幅広い変化を物語っている。新型コロナウイルスが世界の大部分を封鎖する前から、終わりのない成長の魅力はどんどんなくなりつつあった。

経済からこれまで以上の価値を引きだすことに熱中するのではなく、Patreon(パトリオン)のような会社は、同じ1ドルが経済全体をめぐることによって何倍もの価値を生むことに気がついた。価値の一方向な抽出は、価値の循環的流れに取って代わられる。指数関数的な成長は、企業経営のベストな方法でも唯一の方法でもない。

ほとんどの人たちにとって新年は、2020年がようやく終わるという意味でやすらぎの時だ。しかし、過去を振り返り新たしい年がもたらす未来に向けて計画を立てるチャンスを逃してはならない。WeWorkとQuibiの失敗は、容易に繰り返される。現在もシリコンバレーのどこかで、運の尽きた会社に、ベンチャーキャピタルが大金を渡している可能性は高い。私たちはユニコーンに注意を向けすぎてきた。今こそゼブラに、彼らにふさわしい注意を向ける時だ。

【編集部注】著者のRebecca Honeyman(レベッカ・ハニーマン)氏は、SourceCode Communicationsの共同設立者であり、マネージングパートナーでもある。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:ユニコーン企業

画像クレジット:Julien Fourniol/Baloulumix / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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