ウォールストリートの有力な弁護士、ジェイ・クレイトン( Walter “Jay” Clayton)はまだSEC〔証券取引委員会〕委員長への就任を正式に承認されていない。しかし共和党が多数を占めるアメリカ議会の勢力バランスを考えれば、クレイトンが承認されることはほぼ間違いない。
これはスタートアップのファウンダー、その投資家にとって歓迎されるニュースだ。最近のSECの動向に関心を強めていた人々はクレイトンの任命で証券市場においてかなりのフリーハンドを得られることになりそうだ。
クレイトンについて念のためにおさらいしておくと、彼は「インサイダー中のインサイダー」だ。今月初め、ドナルド・トランプ次期大統領(当時)がクレイトンをSEC委員長候補に選んだときのDealbookの記事によれば、「取引をまとめる達人」だという。 ワシントンの有力法律事務所、 Sullivan & Cromwellでクレイトンは長年にわたり公開、非公開企業のM&Aを担当してきた(ゴールドマン・サックスに対する助言を含む)。 また新規上場の専門家でもある(Alibabaの2014年の上場を担当)。2008年の危機〔リーマン・ショック〕の際には、サブプライム抵当に関連してクライアントと司法当局の和解を処理した。
企業の政治戦略と投資の専門家、ブラッドリーー・タスクは「こうした背景がシリコンバレーに対して持つ意味は大きく分けて2つある」と言う。タスクはUberを含め多数のスタートアップが当局の規制と戦うのを助けてきた。タスクによれば「クレイトンはテクノロジー企業についてある程度の経験がある。これはシリコンバレーで歓迎される資産だ」という。
タスクは「AlibabaのIPOを担当したというのはもちろんウィルソン・ソンシーニで日頃から取引をまとめていたのとは違う」と言う。ウィルソン・ソンシーニはスタートアップを担当する法律事務所としてシリコンバレーで長年トップの地位を占めてきた。「しかしそれでも〔Alibabaの上場は〕このビジネスに経験があることを意味する。経済全体に与える影響にも理解があるだろう」。
タスクによればさらに重要な点は「クレイトンは特定の政治信条を追求する活動家ではないという点だ。つまり証券取引の規制は強化されるべきだという信念の持ち主ではない」。
この点は退任したメアリー・ジョー・ホワイト前委員長と鋭い対照となる。ホワイトは1年近く前にシリコンバレーを訪問し、ファウンダー、投資家に対して、非公開企業の評価金額が急騰していることにSECは「懸念を抱いている」と警告した。
昨年10月にわれわれも書いたとおり、SECは血液検査のスタートアップ、Theranosの不正を機にシリコンバレーのエコシステムにに介入を強めようとしていた。クレイトンはこれに対し、SECを効果的に運営することに専念し、アクティビストとしてSECの権限拡大を追求することには消極的とみられる。投資家とファウンダーの関係は相互の信頼に任されることになるだろう。
市場外取引のマーケットプレイス、EquityZenのファウンダー、シュリラム・バシャムは「クレイトンのSECは『シリコンバレーのことはシリコンバレーに任せる』という立場を取るだろう。ただし現在進行中の事件にどう影響するかはわからない」と述べた。昨年SECが調査を開始したと報道されたケースには、菜食主義者向け食料品のHampton Creek、オンライン小口金融のLendingClub、マイクロ・ベンチャーファンドのRothenberg Venturesなどがある(SECは進行中の調査に関してはコメントしないのが常だ)。「しかし将来を考えると、投資家は自分自身でリスクを判断せよ、という方向になりそうだ」とバシャムは見ている。
最近のSECは問題あるスタートアップの調査に力を入れ過ぎているという批判があった。クレイトンはこうした権限拡張の方向を是正するだけでなく、同時に、資本の調達、形成をバックアップするような規則を作ることも期待されている。最近のSECでは資本形成を助ける適切なルールづくりがなおざりにされているというのが共和党の主張だった。
バシャムはクレイトンのSEC委員長就任でクラウドファンディング・プラットフォームも含めてM&Aのペースは加速する可能性が高いと考えている。クラウドファンディングでは現在、企業が調達できる金額の上限は1年あたり100万ドルとされているが、SECは500万ドルにアップすることを準備している。
バシャムはさらに適格投資家(accredited investor)の定義もさほど遠くない将来、変更されると予想する。現在の定義は「純資産100万ドル以上(自宅不動産を除く)あるいは年間収入20万ドル以上」となっているが、バシャムは「適格投資家の範囲を拡大する方向で改正が行われるだろう」という。
結局問題になるのは誰が何のためにどういった改正を望むのかだ。
この点に関してタスクは「クラウドファンディング・プラットフォームは『さらに規制緩和を』と要求するだろう。しかし彼らには政治力が欠けている。テクノロジー業界も全体としてあまり関心がない。本格的なベンチャーキャピタリストや起業家はクラウドファンディングには興味を示さない。小口投資家はまだしばらく待つことになるだろう」と考えている。
画像: Bryce Durbin/TechCrunch
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)