スタートアップ売却前に知っておくべきこと

あなたは今、自分の会社をイグジット(投資を回収)する手段として売却を検討しているだろうか。売るのは今か、1年後か、それとも5年後か。筆者自身の20年以上にわたる起業家、アドバイザー、投資家としての知見と、1ダース以上の会社を買収した経験から、買収は常に大がかりで複雑な取引になり、100%準備したという状況には絶対にならないとはっきりと言える。実際、仲間から何度も聞かれたのは、契約サインの時に期待していたほどには、買収後にリターンが得られなかったという後悔の言葉だ。

創業者か株主かにかかわらず、スタートアップの売却前に知っておくべきことがたくさんある。筆者は先週、会社売却を真剣に​​検討している友人と話す機会があった。友人の最初のスタートアップと聞いていたので、売却プロセスの概要を説明した。その話に筆者自身の経験を補足したものが本稿だ。

いつ売却すべきか

会社を売却する理由は基本的に4つだ。

  1. 物事がうまく運んでいない:これは明らかに良くない。売却の必要に迫られていなければ、売却しないことを勧める。筆者なら会社立て直しをあらゆる方法で試み、その後再考する
  2. 物事が極めて順調に運んでいる:最高のポジションだが、こういう時は創業者が売却にあまり興味を持たない。このケースで売却するなら最高の条件でなければならない
  3. 外部要因:会社の外部で何かが起こり、売却が魅力的なオプションになった時。筆者は2つの会社を同時に経営していて、小さい方はイグジットして大きい方に集中することにした
  4. できる限りのことはした:ほとんどの場合、創業者が会社売却を選択する主な理由がこれだ。潜在的な買い手の方が会社成長の機会を多く見出し、活用できると判断する時だ

通常、売却は以上の理由の組み合わせによって判断する。

どう売却を決断すべきか

売却には基本的に3つの方法がある。

  1. 大企業に売る: 同業かそれに近い業界の会社が、技術か顧客を買いにくる。最も一般的なオプションだ
  2. プライベートエクイティ(PE):彼らは通常、既存のオーナーと投資家の持ち分をすべて買い取り、経営陣に利益計画を示し、達成するよう働きかける。PEによる買収では通常、数十億ドル(数千億円)といった高いバリュエーションになる
  3. 新しい投資ラウンド:もっとバリュエーションが低い場合、新しい投資家が単独または複数で、PEの場合と同様に、既存のオーナーと投資家の持ち分をすべて買い取る選択肢もある

売却を決断する前にすべきことが2つある。まず、交渉における自身の立場を最も強いものから弱いものまで検討することだ。

現在少なくとも1つの買収提案があるか、最近買収提案を断ったばかりというのが理想的で立場は一番強い。1つの買収提案がより多くの提案を引きつけることがよくあるからだ。

正式な買収提案がない場合、買収の意思を誰かが持っていないか調べる。ヒントや手がかりは、ビジネスパートナー、顧客、競争相手のみならず、投資家やPEとつながりを持つアドバイザーからもたらされることもある。

買い手のめどが立たない場合、会社売却は一段と難しくなるが、不可能ではない。こうなると売却は資金調達と似た様相を帯びてくる。買収提案やその見込みがない場合は、つながりと関係を築く必要がある。基本的には、売り込み資料を携えて飛び込みをかける。忍耐強さが必要で、それがなければ会社の株式価値の相当な部分を諦めることになってしまう。

フィクサーを使うことを考えてもいい。フィクサーは、経験豊富なCEOとして会社に入り、それなりの割合の株式を取得し、外部の関係構築と経営の双方で会社をより良い売却ポジションに導く。極めてまれだが、実際にこのケースを見たことがある。株式価値を高めることを期待して、フィクサーにいくらか株式を渡すわけだ。

最後に、会社を引き継ぎたいという個人が見つかるかもしれない。ただバリュエーションはかなり低くなってしまう。ファイアセール(残りものを極めて安く売ること)と言っていい。

もう1つ、売却を決める前にすべきことは、取締役会、既存株主、経営陣、アドバイザーに相談することだ。全員が議論に参加して方向性を揃える必要があり、適切な期待値を設定した上で合意する必要がある。

会社の売却準備

会社の売却価格を計算するには、基本的に3つの方法がある。

  1. サービスを提供する企業は通常、「年間売上高の1〜2倍」の価値がある。会社に分割可能なプロダクトやスピンオフするかもしれない知的財産がある場合、3倍かそれ以上になる可能性がある
  2. プロダクトを扱う会社は通常、「年間売上高の2〜10倍で評価される。評価は、プロダクトの市場、競争から身を守る独自性のある差別化要因、技術の難易度、成長機会など多くの要因によって変わる
  3. 成長機会とイノベーションの見込みが極端に高い場合、プロダクトを扱う会社は「20〜50倍で売却できる

会社売却のために必要なことが2つある。会社には売却価格に見合う価値があると示すこと、経営の適法性を証明することだ。

会社に1000万ドルの売上があり、バリュエーションがその10倍、つまり1億ドルになった場合、向こう3〜5年の青写真を描いて見せ、確かに1億ドルの価値があると買い手に示す必要がある。客観的に示すほど、よい買収価格を引き出せる可能性が高くなる。

方法はいくつかあるが、買い手に財布を開かせるにはスプレッドシートとホッケースティックチャート(将来急成長する想定の事業計画)だけではおそらく不十分だ。ある案件では、実際に1カ月間実験プロジェクトを実施し、買い手が指定した特定のマイルストーンを達成する必要があった。別の案件では、3カ月間アクセルを床まで踏み込み、3カ月連続で対前月成長率100%を達成した。

会社の適法性を証明するには、デューデリジェンス(投資先の価値やリスクの調査)を実施する必要がある。これは、オファーシート(買収条件を記載した書面)をまとめた後に行う。買い手が買収から撤退する場合は、ペナルティ条項の適用が望まれる。

デューデリジェンス中、会社が組織として誠実かつクリーンであることを明らかにする必要があり、次のようなことを行う。

  • 会社の過去、現在、未来のすべての持分を考慮したクリーンなキャップテーブル(各株主の持株数を要約した表)を開示する
  • 財務数値の調査のため帳簿を開示する
  • 双方の弁護士立ち会いの下、債務とリスクを洗い出し、知的財産が適切に保護されていることを確認する
  • 経営陣にインタビューを実施し、バックグラウンドチェック(犯罪や不正の履歴などの身元調査)にかけ、すべてを明るみに出す。重要な経営者には全員、売却後会社に残ってもらう

買い手が最初に関心を表明した後、デューデリジェンスによる詳細調査までは時間がないため、会社を市場に出す前にすべての準備を整えておく必要がある。

時間軸

おそらくあなたの予測の精度は筆者と同じくらいだから、あなたの最善の予測を2倍にしてちょうどいいくらいだ。筆者がこれまでに経験した買収案件で最速は4カ月、最長は7カ月だった。繰り返しになるが、会社売却は資金調達ラウンドに似ている。時間軸は会社の中身と交渉ポジションの強さによって決まるが、それだけではなく、対処すべき外部要因も常に存在する。

買い手と45日間連絡が取れなくなったことがあった。30日経った頃、筆者らはこの案件は成立しないと諦めつつあった。だが、その案件は成立した。求婚者をそろえるのに1〜2か月、正式な買収提案を得るのに2〜3か月、デューデリジェンスに1〜2か月は想定してほしい。迅速とは言えないが、これ以上長引くことは少ない。上記の筆者の経験談はともかく、通常売り手と買い手双方に迅速に事を進めるインセンティブがある。それでも時間がかかる。

スタートアップ後の生活に備える

筆者が友人と最後に話したことは、友人のスタートアップが買い手の企業グループに組み込まれた後に友人が何をすべきかだった。あらゆる選択肢のうち、素敵な給料がもらえる心地いいVPのポジションを考えていて、実際それを選ぶことは可能だった。問題はいつまで続けるかだった。

筆者の会社が最後に買収された時に、筆者は初めて会社に残り次のマイルストーンを達成するために努力した。結局達成はできなかった。2年経ち、精神的な壁にぶつかり、立ち直ることはなかった。最後の数カ月間、自分自身に真剣に向き合ったにも関わらずだ。筆者自身の心の変化と外部の要因が入り混じったものだったが、何かが終わってしまったような感覚だった。毎朝仕事に行く時に、レンガの袋を引きずっているように感じた。

もう一度同じ状況に置かれれば再び同じように頑張ると思う。筆者はスタートアップからスタートアップに飛び移ることは一度もなかったし、自分自身に何ができるか学ぶためにビジネスの世界に没頭してきた。買い手が通常2年間、経営陣を会社に拘束するのには理由がある。それが売り手と買い手の落としどころなのだ。

買収された後に会社に残ると決めたのは初めてだったため、会社に残ったらどうするかについて事前に計画を立てていなかった。そのツケを後で払うことになった。会社を去ってから自信を取り戻すまでに3カ月かかった。

同じような境遇にいる人々が、回復するのにもっと時間がかかったのを見てきた。何人かは回復の過程でクレイジーなことをした。お金があることをいいことに、やりたいと思っていたばかばかしい会社を始めたが、誰も彼らに意見せず悲惨だった。

会社に残るか悲鳴を上げて逃げるかはともかく、次のステップをを考える時間を確保してほしい。時が来れば何でも好きなことができる。新しいプロジェクトを始めたり、新しい仕事に就くこともできる。スタートアップとはまったく関係がない世界かもしれない。だが可能性はある。起業家は中毒者のようなものだ。いつ止めるべきなのかがわからない。

画像クレジット:Don Mason / Getty Images

【編集部注】筆者のJoe Procopio(ジョー・プロコピオ)は、複数のイグジット、複数の失敗の経験がある起業家。現在Spiffyを立ち上げ中だ。これまでにAutomated InsightとExitEventを売却し、Intrepid Mediaを創業した。

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。