ストックホルムの成熟したスタートアップエコシステムについて8人の投資家に聞く(後編)

日本版編集部注:本稿は日本と同じようにコロナ禍で揺れるギリシャで投資を行うVCへのインタビューとその回答を掲載するシリーズ記事だ。前半はこちらで読める。

後半では、以下の投資家のインタビュー回答を掲載する。

Ted Persson(テッド・ペルソン)氏、EQT Ventures(EQTベンチャーズ)、パートナー

TC:通常、どのようなトレンドに投資するときが、一番ワクワクしますか。

一番好きなのは、本物の問題を本物のテクノロジーで解決しようとする野心のあるチームを支援することです。ですから、かなりディープテックになることもあります。「ほとんど同じ問題をほとんど同じ方法で解決しようとする、二番煎じのB2B SaaS企業」とは正反対です。少数の恵まれた人々にしか提供されてこなかったものを優れたユーザーエクスペリエンスによって民主化して誰でも使えるようにする、製品およびデザイン中心型のチームにも興味があります。今は、創造的な産業、マーケティング、製品設計の未来について考え、研究することに多くの時間を費やしています。

TC:最近、一番エキサイティングだと感じた投資はどの案件ですか。

この春にリードまたは参加した投資案件は、量子コンピューティング、グループコラボレーション分野の4案件、デザインおよび開発ツール分野の2案件ですが、いずれも未発表です。直近に発表した案件はSonantic(ソナンティック)とFrontify(フロンティファイ)の2つです。どちらもすばらしい企業です。

TC:特定の業界で「こんなスタートアップがあったらいいのに」と考えることはありますか。現在、見過ごされていると感じるチャンスはありますか。

EdTech分野は見過ごされていると思います。

TC:次の投資を判断する際に、通常、どのようなことを検討しますか。

投資家は通常から外れた考えを持つ人たちを探しているため、一般化するのは難しいのですが。いくつかAPIを組み合わせただけの誰でもできるようなことではなく、もっと難しい問題を解決しようとしている企業には大きな期待を寄せています。

TC:御社の投資全体の中で、地元のエコシステムへの投資が占める割合は、他のスタートアップハブ(または他の場所)への投資と比べて、50%を超えていますか。それとも、50%未満ですか。

個人的には、地理的に特定の地域を重視しているということはなく、欧州および世界中にいる当社のチームと仕事を楽しんでいます。とはいえ、私はスウェーデンに住んでいますから、スウェーデン国内のほうがネットワークが若干強いのも事実です。当社独自のAIプラットフォームMotherbrainによって、地元のエコシステムとネットワークの外に存在する急成長中のスタートアップや認知度の低いスタートアップも確実に見つけられるようになっています。

TC:御社が本拠とする都市やその周辺地域で、長期的な繁栄に適していると思われる業界、または適していないと思われる業界は何ですか。御社のポートフォリオに含まれているかどうかに関わらず、どの企業に期待していますか。有望だと思う創業者は誰ですか。

北欧地域はゲーム、エンターテインメント、ミュージック、フィンテック分野で優良な企業を輩出しています。また、欧州の他の地域と比べて、優れたデザイナーを見つけやすい地域だと思います。

TC:今後、大都市以外の地域で起業する創業者が急増し、パンデミックや先行きへの不安、リモートワークが持つ魅力のために、スタートアップハブから人が流出する可能性があると思いますか。

はい、そう思います。まだ具体的にはお話しできないのですが、当社のポートフォリオ企業の中にも、物理的なオフィスを廃止した企業がいくつかありますし、多くのスタートアップの社員たちが国内各地からリモートで働いています。これにより、スタートアップの国際化が進むことになると思います。

TC:御社の投資先のうち、コロナ禍による消費者やビジネス慣行の潜在的な変化への対応に苦慮すると予想される業界セグメントはありますか。また、そのような変化の影響を他より強く受けると思われる業界セグメントはどこですか。このような未曾有の時代にスタートアップが活用できるチャンスとは何でしょうか。

この点についてすでにさまざまな記事が書かれていますが、当社は、他の投資会社と同様、この春にかなりの時間を費やして詳しく分析しました。全体的に見て、テック業界は前途有望です。

TC:新型コロナウイルス感染症は投資戦略にどのような影響を与えましたか。投資先のスタートアップ創業者はどんな点を最も懸念していますか。御社のポートフォリオに含まれるスタートアップにはどのようにアドバイスしますか。

当社の戦略に変わりはありません。パンデミック発生初期の頃は当然いくらか混乱もありましたが、短い休暇を取り、ポートフォリオ企業がこの難局を切り抜けられる良い状態にあることを確認しました。今は正常な状態に回復し、投資先のチームと対面で会うことができない中で、いくつかの企業への新規投資を決めました。

TC:御社の投資先のうちパンデミックに適応してきた企業では、収益の成長や維持、その他の機運に関して「回復の兆し」が見えてきたでしょうか。

はい。食品配達、ゲーム、リモートワーク、リモートコラボレーションなどの領域では、回復の兆しが見られます。

TC:この1カ月ほどの間に希望を感じた瞬間はありましたか。仕事上のことでも、個人的なことでも、あるいはその両方が関係していることでも構いません。

私自身の周りの人たち、両親や高齢の親戚たちが、デジタルツールや、自分でできる範囲を最大限に高めるさまざまな方法を突如として受け入れるようになったことには希望を感じました。

Sofia Dolfe(ソフィア・ドルフェ)氏、Index Ventures(インデックス・ベンチャーズ)、プリンシパル

TC:通常、どのようなトレンドに投資するときが、一番ワクワクしますか。

強いコミュニティ帰属感、共通した意識を持つ人たちのグループに所属している感覚、そしてその成功に投資している感覚を人に与える製品が好きです。ユーザーは、そのような製品には夢中になります。そのため、そのブランドがだんだん成長してくると、友人や好きな人に勧めるのをやめることができないのです。こうしたタイプのビジネスを探していると、多くの場合、消費者ビジネス、顧客中心型でコミュニティを1つにまとめるマーケットプレイスに行き着きます。

TC:特定の業界で「こんなスタートアップがあったらいいのに」と考えることはありますか。現在、見過ごされていると感じるチャンスはありますか。

従来の学習方法を再考することへの抵抗感が以前よりも弱くなるであろうコロナ後の世界で、教育に関するどのような新しい試みが出てくるのか興味があります。

TC:次の投資を判断する際に、通常、どのようなことを検討しますか。

私はいつも、人を惹きつけるストーリーを語ることができる創業者を探しています。ビジネスを創り上げるという作業の大部分は、新規入社の上級管理職から、若くてまだ実績のないビジネスに賭けてみる顧客、創業者と野望を共有し、創業者を信じて思い切る投資家まで、あらゆる人たちにどんどん組織に関わってもらうということです。優れた語り部であり、最初から目標を高く持って飽くなき向上心を抱き、謙虚な姿勢で知識を蓄積していく創業者こそ、大成功する可能性が最も高い創業者だと思います。

TC:御社が本拠とする都市やその周辺地域で、長期的な繁栄に適していると思われる業界、または適していないと思われる業界は何ですか。御社のポートフォリオに含まれているかどうかに関わらず、どの企業に期待していますか。有望だと思う創業者は誰ですか。

ストックホルムはこれまで、フィンテック業界とゲーム業界の最前線に立ってきました。これらの分野は繁栄に適していると思います。金融サービスでは引き続き変革が続くでしょうし、北欧地域の近代的なバンキングインフラストラクチャーのおかげで、この地域はフィンテックビジネスを起業するのに魅力的な場所となっています。ゲーム分野でも、北欧地域は確固たる実績を持ち、スタジオと開発者のどちらのプールも集中しているため、彗星のごとく出現した企業が大成功を収めるのに格好の土壌が整っています。最近、北欧地域で注目を集めているテーマは「意識ある消費」です。環境への優しさという点で、ストックホルムには長い歴史があります。また、CSR(企業の社会的責任)、レスポンシブルショッピング、グリーントラベル、植物由来の代替食品などの領域における長年の実績も、これらの分野の企業が急成長するのを後押しするでしょう。こうした試みについて深く考えている創業者に会いたいですね。

TC:他の都市の投資家は、御社が拠点とする都市の投資環境と投資機会全体についてどのように考えるべきでしょうか。

ストックホルムは強力なテックハブであることを自ら証明してきましたし、継続的に成功するのに必要な要素をたくさん備えています。例えば創業者たちは起業当初から大きくグローバルに考えています。スウェーデンの人口は1000万人程度ですから、新しいカテゴリを規定するような企業を立ち上げる創業者たちは、優位に立つには他国の市場に参入する必要があることを理解しています。King(キング)、Spotify(スポティファイ)、iZettle(アイゼットル)といった企業の規模を見れば成功は手の届く範囲にあるとわかりますし、こうした成功例が意欲的な企業家たちに勇気を与えています。世界はスウェーデン人を過小評価するリスクを冒すことがあります。これはスウェーデン人の自己評価が低いからですが、実際には、その実績が示すとおり、スウェーデン人はすでに十分以上の結果を出しています。

TC:この1カ月ほどの間に希望を感じた瞬間はありましたか。仕事上のことでも、個人的なことでも、あるいはその両方が関係していることでも構いません。

数週間前、ストックホルムのアパートの入り口に手書きのメモが貼ってあるのを見つけました。住人の1人が、アパート内の具合が悪い人や妊娠の可能性がある人に、食料品や薬やその他の必需品などの買い物を代行すると申し出ていたのです。大変な時期にこそ、地元のコミュニティと他者への配慮の大切さや、ちょっとした親切が関係性の構築にどれほど有益であるかを再確認できたことに希望を感じました。

Staffan Helgesson(スタファン・ヘルガソン)氏、Creandum(クリーンダム)、パートナー

TC:通常、どのようなトレンドに投資するときが、一番ワクワクしますか。

輸送、建築、不動産といった古くからある大規模な産業に変革をもたらす案件にはワクワクしますね。デジタルヘルスもそうです。現在の健康産業には変革が必要です。

TC:最近、一番エキサイティングだと感じた投資はどの案件ですか。

Mavenoid(メイヴノイド)。テックサポートの自動化をグローバルに行っている企業です。創業者は元Palantir(パランティア)の社員です。

TC:特定の業界で「こんなスタートアップがあったらいいのに」と考えることはありますか。現在、見過ごされていると感じるチャンスはありますか。

フィンテック業界全般で見られるようなスタートアップの波が、保険市場にはまだ訪れていません。

TC:次の投資を判断する際に、通常、どのようなことを検討しますか。

グローバルな市場でディスラプションを起こそうとしている、無謀なくらいの野望を持っている起業家であるかどうかを見ます。

TC:新しいスタートアップにとって、現時点で飽和状態にある分野、あるいは競争が難しい分野は何ですか。投資を検討する際に慎重になる、または懸念材料がある製品やサービスはありますか。

多くの消費者業界は、テック大手と関連企業の寡占状態で、参入は難しくなっています。それでも、このようなことをいうたびに、新しい驚異的な企業が登場します。例えば当社のポートフォリオ企業であるKahoot(カフート)は、オスロ株式市場に上場し、時価総額は15億ドル(約1610億円)に達しました。

TC:御社の投資全体の中で、地元のエコシステムへの投資が占める割合は、他のスタートアップハブ(または他の場所)への投資と比べて、50%を超えていますか。それとも、50%未満ですか。

当社はEU諸国全般を投資対象としています。特定の地域を重視することいったことはありません。優れた起業家を見つけたいだけです。

TC:御社が本拠とする都市やその周辺地域で、長期的な繁栄に適していると思われる業界、または適していないと思われる業界は何ですか。御社のポートフォリオに含まれているかどうかに関わらず、どの企業に期待していますか。有望だと思う創業者は誰ですか。

当社が期待している産業を1つ選ぶとすれば、デジタルヘルスでしょうか。ストックホルムに本拠地を置くFirstvet(ファーストヴェット)やKry/Livi(クライ/リヴィ)といった企業ですね。どちらも人またはペット所有者向けの遠隔治療サービスを提供する企業です。

TC:他の都市の投資家は、御社が拠点とする都市の投資環境と投資機会全体についてどのように考えるべきでしょうか。

ストックホルムと北欧地域には洗練されたエコシステムがあり、世界的に成功した企業を定期的に生み出し続けています。

TC:今後、大都市以外の地域で起業する創業者が急増し、パンデミックや先行きへの不安、リモートワークが持つ魅力のために、スタートアップハブから人が流出する可能性があると思いますか。

優れた企業はどこでも増え続けるでしょう。投資業界はそれに対応していく必要があります。適切かつ迅速に対応するベンチャー企業がいずれは勝者となるでしょう。個人的には、70年代のようなグリーンウェーブの第二波がやってきて、人々が都会から離れる、あるいは、都会と田舎の二重生活をするようになると予想しています。

TC:御社の投資先のうち、コロナ禍による消費者やビジネス慣行の潜在的な変化への対応に苦慮すると予想される業界セグメントはありますか。また、そのような変化の影響を他より強く受けると思われる業界セグメントはどこですか。このような未曾有の時代にスタートアップが活用できるチャンスとは何でしょうか。

観光とエンターテインメントはいうまでもなく対応に苦慮するでしょう。ただし、これらの業界でも、(例えばチケットやイベントなどの)デジタル化の波に乗ることができれば、将来的には勝者となる企業も出てくると思います。

TC:新型コロナウイルス感染症は投資戦略にどのような影響を与えましたか。投資先のスタートアップ創業者はどんな点を最も懸念していますか。御社のポートフォリオに含まれるスタートアップにはどのようにアドバイスしますか。

重要なのは長期資本が利用できて実績を上げられるかどうかです。当社の戦略はまったく変わっていません。

TC:御社の投資先のうちパンデミックに適応してきた企業では、収益の成長や維持、その他の機運に関して「回復の兆し」が見えてきたでしょうか。

はい、特にデジタルヘルス業界で回復の兆しが見えます。

TC:この1カ月ほどの間に希望を感じた瞬間はありましたか。仕事上のことでも、個人的なことでも、あるいはその両方が関係していることでも構いません。

完全にリモートで投資案件をクローズさせたことでしょうか。Meditopia(メディトピア)という会社です。しかも、メディトピアはなんと、トルコの会社なんですよ。

Tanya Horowitz(タニヤ・ホロヴィッツ)氏、Butterfly Ventures(バタフライ・ベンチャーズ)、パートナー

TC:通常、どのようなトレンドに投資するときが、一番ワクワクしますか。

ディープテック、AI、機械学習、ヘルスケア / メドテック、産業IoTと関連クラウドサービスおよび通信ソリューション、エネルギー保存、高エネルギー効率発電、ロボティクス、知的生産、付加製造技術などです。

TC:最近、一番エキサイティングだと感じた投資はどの案件ですか。

Uute Scientific(ウート・サイエンティフィック)は特殊な微生物混合体を含む自然製品を開発しました。これは、さまざまな消費者向け製品に応用できます。これらの製品は、ぜんそくや1型糖尿病などの免疫介在性疾患を発症する可能性を低下させ、結果として、クオリティ・オブ・ライフを改善します。

TC:特定の業界で「こんなスタートアップがあったらいいのに」と考えることはありますか。現在、見過ごされていると感じるチャンスはありますか。

北欧では、エネルギー保存、発電、エネルギー / 二酸化炭素削減テクノロジーをもっと見てみたいと思います。食品テックとアグリテックは、世界の人口増加を考えると、注目すべき分野ですね。EdTechもコロナ危機のせいで関心が高まっています。

TC:次の投資を判断する際に、通常、どのようなことを検討しますか。

世界の市場を目指す独自のテクノロジーを持つ、強固なチームを探しています。

TC:新しいスタートアップにとって、現時点で飽和状態にある分野、あるいは競争が難しい分野は何ですか。投資を検討する際に慎重になる、または懸念材料がある製品やサービスはありますか。

本当に独自の技術を持っているケースを除き、メディアとアドテックは飽和状態だと思います。健康 / フィットネス関連アプリなども飽和状態ですね。

TC:御社の投資全体の中で、地元のエコシステムへの投資が占める割合は、他のスタートアップハブ(または他の場所)への投資と比べて、50%を超えていますか。それとも、50%未満ですか。

フィンランドが40~50%、スウェーデンが30%強、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、バルト海諸国が残り20%です。

TC:御社が本拠とする都市やその周辺地域で、長期的な繁栄に適していると思われる業界、または適していないと思われる業界は何ですか。御社のポートフォリオに含まれているかどうかに関わらず、どの企業に期待していますか。有望だと思う創業者は誰ですか。

業界、ヘルス / メディカル。

TC:他の都市の投資家は、御社が拠点とする都市の投資環境と投資機会全体についてどのように考えるべきでしょうか。

フィンランドおよび北欧全体では、グローバルな市場を持つ輝かしいチームとテクノロジーに投資する機会が十二分にあります。人材プールとスタートアップエコシステムの支援も最高レベルです。

TC:今後、大都市以外の地域で起業する創業者が急増し、パンデミックや先行きへの不安、リモートワークが持つ魅力のために、スタートアップハブから人が流出する可能性があると思いますか。

北欧地域でスタートアップハブが人手不足に陥いることはないと思います。ただ、大都市以外の地域で起業する創業者が出ていることは増えていることは確かです。

TC:御社の投資先のうち、コロナ禍による消費者やビジネス慣行の潜在的な変化への対応に苦慮すると予想される業界セグメントはありますか。また、そのような変化の影響を他より強く受けると思われる業界セグメントはどこですか。このような未曾有の時代にスタートアップが活用できるチャンスとは何でしょうか。

小売、レストラン、サービス業界は明らかに対応に苦慮しています。教育(EdTech)は大いにチャンスがあると思います。オンラインエンターテインメント(OTT)や物流(食品、商品配達)などもそうです。

TC:新型コロナウイルス感染症は投資戦略にどのような影響を与えましたか。投資先のスタートアップ創業者はどんな点を最も懸念していますか。御社のポートフォリオに含まれるスタートアップにはどのようにアドバイスしますか。

当社は新型コロナウイルス感染症の影響をほとんど受けていません。投資期間がほぼ終了する時期にあたっていたこと、当社のポートフォリオ企業が現在のファンドビンテージに設定されていたことが幸運でした。当社は北欧地域でトップクラスのシードステージのディープテック投資家であるため、当社のほとんどのポートフォリオ企業は問題なく経営を続けています。

TC:御社の投資先のうちパンデミックに適応してきた企業では、収益の成長や維持、その他の機運に関して「回復の兆し」が見えてきたでしょうか。

はい、当社のポートフォリオの中にもパンデミックが追い風となった企業があります。他の企業も、パンデミック発生当初は苦戦しましたが、現在は回復しているようです。

TC:この1カ月ほどの間に希望を感じた瞬間はありましたか。仕事上のことでも、個人的なことでも、あるいはその両方が関係していることでも構いません。

現在、Butterfly Ventures Fund IVの資金調達を行っています。このファンドは、パンデミック発生前に始動しました。そのため、ビジネスは若干低調になりましたが、当社のアンカー投資家とLPは動揺することなく、チームとしてできるだけ早く最初の調達をクローズさせることに専念し、その調達資金で2021年前半に企業への投資を実現させるつもりです。パンデミックで大きな被害を受けた方々にはお気の毒に思いますが、私個人は幸運にもパンデミックによる直接的な被害は受けずに済みました。私の息子も幸せで健康に過ごしており、それだけでも毎日希望を感じることができています。

TC:TechCrunchの読者のみなさんに何か伝えたいことはありますか。

グローバルなLPたちは欧州をもっと開拓するべきです。特に北欧地域を!

Sanna Westman(サンナ・ウェストマン)氏、Creandum(クリーンダム)、プリンシパル

TC:通常、どのようなトレンドに投資するときが、一番ワクワクしますか。

そうですね、トレンドに乗って投資したのではもう遅いとよく言われますが、ワクワクするようなマクロ的な動きはもちろんありますし、そうした動きは当社でも注意深く観察しています。個人的に、デジタルヘルスはそうした分野の1つだと思います。目新しくはありませんが、常に成長を続けてきた分野であり、2020年は当然、急成長しました。

もう1つ本当に興味深いのは、より良いリーダー / マネージャー / 企業になるための支援をする製品です。こうしたサービスを製品化する方法についてはよくわかりませんが、リーダーシップの強化については大きなビジネスチャンスがあります。個人ユーザーに高い能力を与えるツール(ノーコードツール、生産性ツールなど)を提供する企業が何社か成功していますが、自分自身またはチームの成長を支援してくれるサービスはあまり見かけません。リモートワークには多くの利点がありますが、その分、マネージャーは新しい課題を背負うことになります。また、さまざまな方法で気候変動と戦う優良企業がもっと出てくると思います。

TC:最近、一番エキサイティングだと感じた投資はどの案件ですか。

SafetyWing(セイフティウィング)ですね。ソーシャルセキュリティとリモートワークが重なる部分にあたる分野です。

TC:特定の業界で「こんなスタートアップがあったらいいのに」と考えることはありますか。現在、見過ごされていると感じるチャンスはありますか。

B2Bコマースの世界でもまだまだ足りない領域はたくさんあります。マーケットプレイス、eコマースイネーブラー、新しいファイナンシングなどです。もちろん、そのような領域にも企業は存在しますが、数の点でも質の点でも、十分というには程遠いと思います。

TC:次の投資を判断する際に、通常、どのようなことを検討しますか。

すぐに「これはすごい」と思えるかどうかですね。ユーザーに即座に価値を与えることができ、その製品を使えば使うほど価値が累積され続けていくようなソリューションかどうかという点を見ます。

TC:新しいスタートアップにとって、現時点で飽和状態にある分野、あるいは競争が難しい分野は何ですか。投資を検討する際に慎重になる、または懸念材料がある製品やサービスはありますか。

モビリティとデリバリ分野は全般に飽和状態です。オープンバンキング決済ソリューションにも多数のスタートアップが集中しています。

TC:御社の投資全体の中で、地元のエコシステムへの投資が占める割合は、他のスタートアップハブ(または他の場所)への投資と比べて、50%を超えていますか。それとも、50%未満ですか。

北欧地域は、DACH(ドイツ、オーストリア、スイス)とともに、当社の主要なマーケットの1つですが、特定の地域に一定の割合を投資するといったことはありません。場所に関係なく優良な企業を支援するようにしています。

TC:御社が本拠とする都市やその周辺地域で、長期的な繁栄に適していると思われる業界、または適していないと思われる業界は何ですか。御社のポートフォリオに含まれているかどうかに関わらず、どの企業に期待していますか。有望だと思う創業者は誰ですか。

他のハブと比較して、一般に製品へのフォーカスが非常に高く、スウェーデンの市場規模が小さいこともあって、最初から海外市場に進出するという考え方を持っています。これは、業種によっては大きな違いになります。有望だと思う企業としては、Kive(カイブ)とDepict(ディピクト)は本当に初期のステージから注目に値すると思います。より成熟したスタートアップとしては、Kry(クライ)とFirstvet(ファーストヴェット)はデジタルヘルス分野の初期イネーブラーとしてすばらしい実績を上げています。

TC:他の都市の投資家は、御社が拠点とする都市の投資環境と投資機会全体についてどのように考えるべきでしょうか。

競争は激化していますが、多くの優れた人材もいます。

TC:今後、大都市以外の地域で起業する創業者が急増し、パンデミックや先行きへの不安、リモートワークが持つ魅力のために、スタートアップハブから人が流出する可能性があると思いますか。

パンデミック発生前も、ストックホルムのスタートアップの労働力が1つの場所に集中しているということはありませんでした。大都市以外のさまざまな地域も合わせた混合型の雇用市場がこれまでも一般的でしたし、それは今後も変わらないと思います。

TC:御社の投資先のうち、コロナ禍による消費者やビジネス慣行の潜在的な変化への対応に苦慮すると予想される業界セグメントはありますか。また、そのような変化の影響を他より強く受けると思われる業界セグメントはどこですか。このような未曾有の時代にスタートアップが活用できるチャンスとは何でしょうか。

ファンドは10年以上の長期的な視野で投資するため、短期的な影響は主要な関心事ではありませんが、とはいえ、たとえば出張旅行などへの長期的な影響については考えます。ただし、マイナス面よりもビジネスチャンスのほうを探すことが多いです。パンデミックで大きな損害を被った業界にも起業のチャンスが出てくるでしょう。むしろディスラプトには良いタイミングになるかもしれません。

TC:新型コロナウイルス感染症は投資戦略にどのような影響を与えましたか。投資先のスタートアップ創業者はどんな点を最も懸念していますか。御社のポートフォリオに含まれるスタートアップにはどのようにアドバイスしますか。

当初はランウェイが尽きることを警戒し、ポートフォリオ企業と密接に連携して、収益が低下して資金調達できなくなっても長期間生き残れるように対策を講じました。しかし、2020年を振り返ってみると、多くの企業が例年を上回る業績を残し、多数のラウンドで資金調達できています。どのような時期でも優れた企業は創られるものです。我々も最高のシード企業およびシリーズA企業の発掘に尽力しました。

TC:御社の投資先のうちパンデミックに適応してきた企業では、収益の成長や維持、その他の機運に関して「回復の兆し」が見えてきたでしょうか。

はい、確実に回復しています。業績がV字回復している企業もあります。収益もコロナ前のレベル以上に回復し、その勢いを維持しています。

TC:この1カ月ほどの間に希望を感じた瞬間はありましたか。仕事上のことでも、個人的なことでも、あるいはその両方が関係していることでも構いません。

起業家たちのやる気と楽観主義には希望を感じますし「不可能なことなどない」という姿勢には本当に元気づけられます。

TC:地元で成功していると思われるスタートアップ業界の重要人物を挙げていただけますか。

Kry CTOのJoachim Hedenius(ジョアキム・ヘデニアス)氏やJohan Crona(ジョアン・クローナ)氏など、新世代を支援している「表立った活動はしないが」アクティブなエンジェル投資家やメンターたちを挙げたいと思います。また、Susanna Campbell(スザンナ・キャンベル)氏やCristina Stenbeck(クリスティーナ・ステンベック)氏も極めて活発に共同出資を行っており、VCが見逃してしまうような投資機会をたくさん見いだしています。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:インタビュースウェーデン

画像クレジット:Everste / Getty Images

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

 

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。