さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」を展開するスペースマーケットは11月13日、ワタナベエンターテインメントと資本業務提携を締結したことを明らかにした。
スペースシェアとエンタメを組み合わせることでレンタルスペースの利用体験を向上させ、さらなる事業拡大へ繋げていくことが提携の狙い。ワタナベエンターテインメントに所属するタレントとのコラボレーションも進めていく計画だ。
今回の出資額について具体的な金額は明かされていないが、1月にスペースマーケットが発表したシリーズCラウンドの資金調達(8.5億円)に含まれるとのこと。なおワタナベエンターテインメントにとっては初のスタートアップ投資になる。
スペースマーケットによると両社では主に4つの軸で協業を進めていく方針だという。
- ワタナベエンターテインメントが所有するスペースを掲載
- タレントのスペースプロデュース共同事業モデルの開発
- 法人向けのイベント・パーティにおけるタレント派遣・プロデュース
- スペースシェアに関する番組制作
エンタメの力でイベントの体験価値を向上へ
「ワタナベエンターテインメントが所有するスペースを掲載」についてはとてもシンプルだ。スペースマーケットではこれまでも東京建物や東京メトロをはじめとする事業会社と組んで、各社が保有するスペースをプラットフォーム上でシェアしてきた。
今回についてもワタナベエンターテインメントが所有する劇場「表参道GROUND」を掲載。従来は法人や業界関係者の利用が多かったところを、広く一般の人たちが利用できる仕組みを作っていく。午前中や劇場として使われていない時間に新しい用途でスペースを運用できれば、ワタナベエンターテインメントにとってもメリットがあるだろう。
「タレントのスペースプロデュース共同事業モデルの開発」や「法人向けのイベント・パーティにおけるタレント派遣・プロデュース」は幅広いタレントが所属する芸能事務所だからこそ実現できる取り組みであり、この提携のキモとなる部分だ。
スペースマーケット代表取締役CEOの重松大輔氏によると、もともと同社の投資家でもある千葉功太郎氏の紹介でワタナベエンターテインメント代表取締役会長の吉田正樹氏と会ったのが直接的なきっかけになったそうだが「レンタルスペースを通じて行われるイベントの体験価値を高めていく上で、エンタメのプロの会社と組みたい」という思いが以前からあったとのこと。
近年はタレントの活動の場所もテレビを中心とした4マス媒体以外にも幅が広がってきている状況で、その一環としてタレント自身の才能やキャラクターを「スペースのプロデュース」や「イベントコンテンツの企画・出演」などでも発揮してもらいたいという。
スペースのプロデュースにおいてはレイアウトの設計やアート作品の展示などを通じてエンタメ要素を盛り込んだレンタルスペースを展開していく予定。スペースマーケットでは特にパーティー用途での利用が多いそうで、そこに合うような“尖ったスペース”が増えていけば、レンタルスペースの選び方も変わってくるかもしれない。
一例として話にあがったのが地方の遊休スペース。都心から少し離れているなど地理的にネックを抱えているスペースだったとしても、上手くプロデュースできれば「せっかくならここでパーティーやイベントをしたい」というユーザーが増えてくる可能性もある。スペースマーケットとしてはエンタメの力がそのきっかけの1つになれば、という考えも持っているようだ。
法人向けのイベント・パーティにおけるタレント派遣やプロデュースも考え方は近しい。スペースマーケットが展開している法人向けのイベントプロデュース事業のオプションのような形で、各イベントに合うタレント派遣やタレント・放送作家などによるイベントプロデュースをアレンジしていく。
お笑い芸人にイベントに登場してもらうシーンがイメージしやすいかもしれないけれど、それに限らず「クイズタレントに対戦相手として出演してもらったり、クイズ問題をプロデュースしてもらう」「放送作家にイベント企画をサポートしてもらう」といったように、コラボの幅は広い。
ワタナベエンターテインメントにはバラエティ番組などでも活躍している予備校講師の林修氏など文化人も多く所属しているため、そういった面々と対決するなんてこともできるかもしれない。
プロダクトや市場の活性化に向けて自社での番組制作も検討
最後の「スペースシェアに関する番組制作」というのはこれまでの取り組みとは少しベクトルが異なるものだ。
重松氏の話では、こちらについてはあくまで今後検討していく段階とのことではあるが「CMなどではなく(ワタナベエンターテインメントと一緒に)自前でオリジナルのエンタメコンテンツを作りたい」という構想があるという。
「CMという15秒の尺の中でプロダクトの背景や利用シーン、人間模様などを伝えきるのは難しい。まだまだプロダクトやスペースシェアの認知が十分ではない中で、新しいプロモーションのあり方も考えていきたい。自社で面白いエンタメコンテンツを作れれば、(一過性のものではなく)継続的に資産として蓄積していくこともできるし、広く展開していくことも可能。プロダクトや会社自体の存在を際立たせていくために、スタートアップがエンタメのプロとタッグを組む形は今後どんどん増えていくのではないか」(重松氏)
たとえば海外ではAirbnbが「airbnb magazine」という雑誌を手がけているほか、今後同社のプロダクトやマーケット自体をさらに拡大するべく「自社でストリーミングサービスを手がける構想があるという」旨の報道もされている。
Netflixの番組では民泊サービスなどで貸し出されている平凡な物件をプロが大改造するという「日本版劇的ビフォーアフター」的なコンテンツが人気を集めているようだけれど、重松氏はそれにも触れつつ、ワタナベエンターテインメントと組みながら新しい訴求の仕方も模索していければということだった。