エンゲートが開発を進めている新サービスEngateは、スポーツチームや選手に「投げ銭」して応援する「投げ銭コミュニティ」サービスだ。概要は次のようになる。運営元のエンゲートが「トークン」(企業ポイントのような概念)を発行し、同時に仮想通貨NEMのブロックチェーンに記録する。ファンはサービス上で日本円による支払でトークンを購入、スポーツチームの試合、練習風景のライブ配信やメッセージ動画などのコンテンツを見ながら、トークンを使って購入したデジタルギフトによる「投げ銭」で応援する。この2018年9月からサービスを開始する予定だ。
このサービスの大きな狙いは、スポーツチームとファンを結ぶコミュニティ上でトークンの流れを作りだし、スポーツチームの収入源となることである。別の言い方をすると、スポーツ×トークンエコノミーによるコミュニティ形成を狙う。「多くのスポーツチームと話をしてきた。話をすると、ほぼ『一緒にやりましょう』になる」とエンゲートCEOの城戸幸一郎氏は話す。トップリーグのスポーツチームはテレビ放映権や広告収入などの収入源があるが、地域リーグのチームは経営に苦しんでいる場合が多い。個人ファンが手軽に「投げ銭」できるサービスは、スポーツチームにとっては新たな収入源となる可能性があるのだ。
投げ銭を受け取ったスポーツチームに対しては、トークンの金額から運営会社エンゲートの手数料、スマートフォンプラットフォーム(App Storeなど)の手数料を差し引いて、PR協力費として支払う形とする。
既存の類似サービスとして、個人が配信する動画を見ながら投げ銭を送れる17 Live(イチナナ)やShowroomがある。動画を見ながら「投げ銭」を送る点では似ている。ただし既存サービスとEngateが大きく違う点は、内部的な仕組みとサービス設計だ。ブロックチェーン技術を用いてトークン発行量を担保する仕組みを採用してトークン交換市場などに発展できる可能性を持たせ、またスポーツチームの応援、支援を目的としたトークンエコノミー形成を狙うサービス設計となっている。
現時点で、8競技20チームの協力を得ている。競技の種類はハンドボール、サッカー、フットサル、野球、格闘技、バスケットボール、バレーボール、ラグビーの各種。また、プレスリリースでは以下のチーム代表が賛同を表明している。
- 徳島インディゴソックス(プロ野球独立リーグ・四国アイランドリーグplus所属) 球団オーナー 荒井健司氏
- レイナ川内レディースサッカークラブ 代表 山口 純氏
- フウガドールすみだ(フットサルクラブ) 代表 安藤弘之氏
- 日本ハンドボール協会 会長 湧永寛仁氏
- 日本ハンドボール協会 事務局長 清水茂樹氏
NEMブロックチェーンでトークンを発行
Engateでは、仮想通貨NEMのパブリック型ブロックチェーンにトークン発行を記録する。ただし、後述するようにEngateのトークンは仮想通貨とは異なる概念である。またICO(イニシャルコインオファリング、新規仮想通貨発行による資金調達)は計画していない。
パブリック型ブロックチェーンには、記録内容の改ざんが非常に困難という特徴がある。そこにトークン発行を記録すると、運営会社がトークン発行量を勝手に水増しすることはできなくなる。つまりトークンの発行数を証明し、希少性を担保できる強力な手段となる。NEMのパブリック型ブロックチェーンを活用する日本発のサービスは、政治×トークンエコノミーのPoliPoli(NEMを活用予定)、日本円連動の決済手段として使えるLCNEMステーブルコインが登場するなど、最近になって事例が増えつつある。NEMブロックチェーンをサービス基盤として利用する場合の主なメリットは、標準機能の範囲内で新トークン(モザイクと呼ぶ)を作りマルチシグの設定ができる点、機能がWeb APIの形で提供されていてWeb開発者にとってアプリケーション開発が容易な点である。
Engateでは、トークンの保管や移動はEngateのサービス内で完結する形とする。この点は他の仮想通貨ベースのトークンとは異なる設計である。「仮想通貨ベースのトークンを引き出して移動するには個人が秘密鍵を管理する必要があるが、ほとんどの人にはおそらく無理。それよりも、サービス内でトークンを扱える方がスポーツファンには親しみやすい」(エンゲート Blockchain PRの藤田綾子氏)。パブリック型ブロックチェーンでトークンの希少性を担保しつつ、サービス内で完結している点は、2017年にサービスを開始して話題になったVALU(Bitcoinのパブリック型ブロックチェーンとOpenAssetプロトコルを利用する)と仕組みが似ている部分があるといえるだろう。
発行するトークンの法的フレーワークは資金決済法が定める「仮想通貨」ではなく、同じ資金決済法で定める「前払式支払手段」とする。これはプリペイドカードや商品券と共通の枠組みである。前払式支払手段を用いるサービスとしては、他にSuicaなどの電子マネー、スマートフォン送金サービスのKyashなどがある。
エンゲートは、将来的には「スポーツ選手と会える権利」などの特典をトークン化し、ユーザー間での交換も可能とすることを考えている。また、若手選手を応援・育成するファンドや、トークン交換市場などのアイデアも温めている。トークンエコノミーという新ジャンルならではのアイデアだ。
エンゲートは2018年、楽天の執行役員を務めた城戸幸一郎氏らが創業した。現在のメンバーはフルタイムが3名、兼業を含めると10人弱とのこと。テックビューロでマーケティングと広報業務、それにプライベートブロックチェーン技術mijinのセミナー講師などを務めてきた藤田綾子氏がBlockchain PRとして参加、また元Orb共同創業者でP2P電力取引プラットフォームTRENDE創設者である妹尾賢俊氏がアドバイザーを務めている。3名のエンジェル投資家が出資しており、近いうちにシリーズA資金調達を予定しているとのことだ。