モバイルにフォーカスしたライブ配信コミュニティの「ツイキャス」(英語表記ではTwitCasting)が今日、ユーザー数400万人を突破したことを発表した。サービスを運営するモイによれば、410万を超えたユーザーの内訳は圧倒的に若者が多いという。約133万人の大学生が利用しているといい、これは全国の大学生の数の約半分というから、かなりの浸透度だ。ユーザーの半分が24歳以下。女性が6割、配信するユーザーも女性が多いという。MAU(月間アクティブユーザー数)は登録ユーザー数の半分程度だそうだ。
ツイキャスは、2009年12月に、それまで非公開だったiPhoneのカメラAPIをアップルが一般アプリからも利用可能にしたのをキッカケにいくつか登場した「モバイル端末からストリーム配信する」というアプリの1つ。2010年2月に登場してから3年以上が経過しているが、ようやく時代が追いついてきたのかもしれない。初年度25万ユーザーだったものが翌年50万、その次に100万、その次に200万と倍々で伸びてきた。2013年5月にはユーザー急増に対応するためにEast Venturesと個人投資家2名を引受先とする6480万円の増資も実施している。
ツイキャス創設者でモイ代表取締役の赤松洋介氏は、「ここまで丸3年かかっている。よく続きましたねと言われますが、もうそれはヒトコト、『忍耐』です。こうしたものは、パッと広まるようになるまで3年ぐらいかかると思ってやってきました。当初は女子高生が配信するようになるなんて全然思ってませんでしたけどね」と振り返る。
赤松氏自身「なぜ広まったのか分からないところもある」と苦笑いするような多面的なユーザー層への広がりを見せている。ツイキャスは日本のユーザーが8割、ブラジルが13%程度と、特に2つの地域で受け入れられているが、それぞれかなり違う利用のされ方をしているようだ。
平日の昼間に日本向けページからツイキャスをのぞいてみると、女子高生など若い女性が化粧をしながら日常の雑感を話しているのが人気のライブコンテンツとしてランキング上位を占めている。ライブを見ている人数は200〜500人ほど。夜には3000人とか4000人の同時視聴者を集める人気ユーザーも増えていて、ツイキャスがキッカケでTwitterのフォロワーが200人から2万3000人に急増してモデルデビューした女子高生ユーザーもいるのだとか。ツイキャスには、Twitterでいうフォロワーに相当する「サポーター」というユーザーがいる。サポーターは、ライブ主に投げ銭的に仮想通貨や仮想プレゼントを送ることもできる。ツイッター上で、クラスターができるのと同様に、ツイキャス上にも多数のクラスターが形成されていて、Twitterの延長のように使われているという。ツイキャスは今のところマネタイズにはフォーカスしていないというが、この仮想通貨による売上と広告が収益の柱だという。
基本的に配信している人が思いつくままにしゃべり、それを見ている人はライブ主に質問を投げたり挨拶をしたりして、ゆるいコミュニケーションを楽しむといった感じだ。日々のニュースを語るラジオのパーソナリティ風のおじさんもいるが、多いのは若い女性だ。化粧のテクニックの話しをしたり、容姿を褒めたり、歌をリクエストしてそれを歌う……、まあ昔から良くあるチャットルームという感じだが、ツイキャスが新しいのは、配信するほうも見る方もスマフォ1台でだけで完結する点と、利用が圧倒的に簡単で、動作が軽快なことだ。PCと異なり、カメラとネットワークが常に利用可能というスマフォの強みが生きてくる。ツイキャスを見ていると、「学校なう」というライブもあれば、雨の降る中、タクシーで移動中というライブ主もいる。試聴するクライアント側はスマフォが78%を占め、PCで見ている人は21%に過ぎない。
ツイキャスの強みは動作の軽快さだ。「モバイルの電波さえ入っていれば、配信も視聴も可能」(赤松氏)というのは、実はほかの動画共有・ライブ配信サービスが、なかなか実現できていない特徴だという。
もともとツイキャスは320☓180ピクセルという小さい画面で数fps〜10fpsという画質。3G回線の場合は180kbps前後で視聴することになるが、64kbps、32kbpsと十分な帯域が確保できないケースでも途切れない配信サービスなのだという。利用可能な帯域によっては画質を落とすが、「実は高画質のストリーミングをシェアしたいというニーズはあまりない」といい、むしろ回線品質が悪くても配信が途切れない方向でチューニングしていて、「最低帯域でどれだけ安定しているかが大事」と赤松氏は話す。これはPC時代に出てきた動画共有サービスと、モバイルファーストで成長してきたサービスの違いと言えそうだ。使ってみれば分かるが、視聴開始時にもYouTubeのような待ち時間がないし、映像が途切れることもほとんどない。東京から名古屋まで自転車で移動する4時間の間、ずっとツイキャスで配信を続け、一度も切れずに山の中ですら配信ができたという事例もあるそうだ。
帯域の変化に柔軟に対応するには、早め早めに帯域の変化を察知したり、圧縮率を上げすぎないことがポイントという。細い帯域だと圧縮率を上げたほうが良さそうに思えるが、そうではない。動画の場合は一定間隔でキーフレームを送り、その静止画を基準に再生を行う。キーフレームの数を少なくすると圧縮率は上がるが、急な速度低下があった場合に再生が途切れがちになるという問題がある。この辺の最適化がツイキャスの強み。サーバサイドの圧縮・配信サーバは独自にCで書いたソフトウェアを利用しているといい、「サーバ代はびっくりするぐらい安い」(赤松氏)とか。安いとはいえ、6万円のサーバを70台社内に並べていて真冬でも冷房が必要だったとか、1Gbpsの回線を8本引き込んでいたものの全然足りず、しかも近くのNTTの局舎の帯域を使いきってしまったためにデータセンターへ移行したという逸話があるというから、「トラフィックに比して安い」というだけだろうけれども。
さて、ツイキャスの全ユーザーのうち13%はブラジル人だ。日本の利用層と異なり、ブラジルのユーザーらはイベント中継だとか、抗議デモを伝える市民ジャーナリズムのような利用だったり、政治家が使うということが多いという。野外で中継に使うのは、人が集まる場所で帯域が逼迫しているようなケースでもツイキャスなら配信が可能だからという。ブラジルではないが、2010年のアラブの春のときにはバーレーンでツイキャスが使われたといい、「音声も落として画質が悪くても数千人が同時に見る」ような状態だったという。
ツイキャスは12月中にシリコンバレーに拠点を構えて、すでに一定のユーザーがいるブラジルやスペイン語圏の中南米以外への海外市場への進出も始めるという。動画サービスといえば、最近はVineやInstagram Videoという非同期の短時間動画のシェアサービスが話題だけれど、「モバイルネイティブ+ライブ配信」という日本発の動画サービスが、どこまで北米ユーザーに受け入れられるか楽しみだね。