ソフトバンクを日本の通信会社と呼ぶのがますます難しくなってきた。それは確かに彼らの中核となるビジネスを表しているが、この企業は自社の専門分野以外にも巨額の投資を多数行っている。投資先は多種多様な企業に及ぶが、その多くはコマース関連であると言える。
ソフトバンクがUberのライバル企業に対し、アジアで3つの投資を行ったことは以前にも書いた。投資先は、インドのOla、東南アジアで展開するGrabTaxiと中国のDidi Dacheだ。しかし、今週行った韓国のEコマースを牽引するCoupangへの10億ドルの巨額の投資は、彼らがアジアで有力なオンラインコマースのポートフォリオを充実させようとする動きを明示するものだ。
今回の投資を受け、Coupangの評価額は50億ドルとなった。ソフトバンクにとって今までで最大の投資額で、特に注目すべき出来事だ。
「今回の取引で多くの人が目を覚ます」とアメリカに拠点を置くGoodwater Capitalの共同ファウンダーであるEric Kimは話した。彼らは、Coupangや韓国のKakaoに早い段階から投資していた。KimはTechCrunchのインタビューに対し「今年行われた投資案件の最高額で、時代の流れが変わり、イノベーションは本質的にグローバルになったことを示しています」と話した。
資本を多く必要とするEコマースの会社が10億ドルの資金調達を行ったとなれば、Coupangを事業を推し進めるために多額の資金を湯水のように使っていると推測するのは簡単だ。しかし、CoupangのCEOで共同ファウンダーのBom Kimは、TechCrunchのインタビューに対し、まだ銀行には昨年Sequioaから調達した4億ドルと、その後にBlackrockから調達した資金が、十分残っていると話した。
長期的な投資
来月中には投資が完了する予定の9桁にも及ぶ資金調達を行ったのは、将来の計画を立てるためだとKimは言う。彼らの収益の75%はモバイルから発生し、Coupangのアプリは2500万ダウンロードを突破し、同日や3時間以内の配送サービスを2014年の早い段階から提供しているにも関わらず、まだ改善の余地があると話す。
具体的な計画については開示されなかったが、Kimは、物流と自社のフルフィルメントネットワーク(受注から梱包、発送までの一連の流れ)の開発の全般において投資を行うと言う。またモバイルアプリの開発とソウル、上海、シアトルとサンフランシスコの4箇所に置く研究開発センターにリソースを充てるという。国外のセンターについては、人材採用と市場のトレンドの分析用に設けていて、海外進出のための拠点ではないとKimは説明した。
「次世代を代表する企業を作る機会が私たちには与えられました。それも大企業をです」とCoupangのCEO、Kimは話した。「私たちはトレンドという意味で、様々な分野で世界を先導しています。他の企業も私たちが解決してきたことから学ぶことができるでしょう。多くの人が将来モバイルの時代が来ると気が付く前から、私たちはモバイルでの問題解決に取り組みました。そして韓国で固定観念を刷新するような事業を他のどこよりも推し進めることができます」。
近年、ソフトバンクから資金調達を行った企業に共通するテーマでもある。もちろんどの企業も将来の計画のために資金を調達するが、ソフトバンクの投資ラウンドはチェスの勝負のように、直近の未来ではなく、4手5手先を狙っているようだ。
驚くべきことだが、メディアの強い監視を掻い潜り、ソフトバンクは自社のポートフォリオを充実させるためにおよそ20億ドルもの資金を静かに使っていた。今後、さらに投資を行うことは間違いないだろう。
直近でソフトバンクがアジアで行った投資案件
- Olaの2億1000万ドルのラウンドを牽引 (インド)
- Snapdealの6億2700万ドルのラウンドを牽引 (インド)
- Tokopediaの1億ドルのラウンドを牽引 (インドネシア)
- GrabTaxiに2億5000万ドルを投資 (東南アジア)
- Kuaidi Dacheの6億ドルのラウンドを牽引 (中国)
- Housing.comに9000万ドルを投資 (インド)
- (Supercellの他の投資家が持っていた株式を買収。Supercellは、アジアで順調な成長を見せている。)
- Coupangに10億ドルを投資 (韓国)
グローバル展開へのポテンシャル
将来に向けた壮大なビジョンと10億ドルの資金を新しく調達したCoupangだが、当面の間は韓国市場に注力する予定だという。
グローバル展開に関して、この企業が何を計画しているかはまだはっきりとは分からない。成熟したアメリカ市場への全面的な参入は考えづらい。より実践的な動きは他のアジア諸国への展開が考えられる。Eコマースが発展し始めている市場で、地域の状況がCoupangの基軸とするモバイルファーストのアプローチ(韓国ではとても上手く行った)を許し、インターネットの環境が課題となる市場でも、Coupangが品質の高いEコマース体験を届けるためのテクノロジーが揃えば、進出の見込みがある。
例えば、東南アジア市場は数年内にターゲット市場となるかもしれない。これらの地域では、韓国ほど俊敏なワイヤレス・インターネット環境や高品質の端末は普及していないが、いくつかの理由でモバイルがインターネットを加速させている市場でもある。Coupangが自社のビジネスモデルをこれらの市場に合わせることができれば、サービスを新市場に急速に普及させることができるだろう。また、ソフトバンクのポートフォリオ内の他の企業の助けを得られることも予想できる。
ソフトバンクの投資は、韓国の話だけに留まらない。潔い10億ドルで、ソフトバンクは今のアジアにおける投資戦略の中核を担う企業を手に入れた。資金を大量に消化するAmazonのライバル企業が資金を充填しただけだとこれを気に留めない人は、ソフトバンクの投資家としての才覚、そしてアメリカ国外の市場のポテンシャルを大きく見誤っている。
「ソフトバンクはテクノロジー業界で最も卓越した投資家の内の一社です」とEric Kimは言う。「ソフトウェアが世界を制圧するということについて彼らも同意するでしょうが、地域別の覇者が誕生するでしょう。(だから彼らは探求に出て、投資をしているのです。)」
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