ソフトバンクは6月3日、センチメートル級測位サービスを発表した。2019年7月に実証実験を開始し、11月末に全国サービスを開始する。同サービスで使えるGNSS受信機もしくは位置情報を測位できるスマホ(タブレット端末、ウェアラブル端末を含む)とソフトバンク独自の基準点が、測位衛星(GNSS衛星)から受け取った情報を基により正確な現在位置を特定できる技術。
スマホなどでGPSなどの測位システムを使った場合、電磁層などのゆがみなどにより場所によっては数mの誤差が出てしまう。同サービスは、受信機やスマホが測位衛星から得られるおおまか位置情報のほかに、基準点からもう1つのかなり正確な位置情報を得ることで、衛星との三角測位によって正確な位置を求められるというわけだ。用途としては、農業に使う農機や建設現場で使う建機、自動車やバス、ドローンなどの正確な位置情報の捕捉に使えるという。
同サービスには、エッジRTKとクラウドRTKの2種類の測位方法がある。エッジRTKは、主にリアルタイム性が要求されるケースで利用される。対象となる建機や農機などにGNSS受信機を設置することで実現。この受信機には、受信、通信、演算などのボードが組み込まれており、測位コアシステムへおおまかな位置情報を送信→測位コアシステムが測位に利用すべき基準点の情報をGNSS受信機に送信→GNSS受信機が正確な位置情報を演算という流れになる。
クラウドRTKは、ウェアラブル端末やスマホ、IoT機器など、内蔵するプロセッサーの性能では高度な演算が不向きなデバイス向けの測位方法。エッジRTKと異なるのは、測位に利用すべき基準点を基に正確な位置情報を割り出す処理までをクラウドが担当し、計算結果をデバイスに返すという仕組みだ。そのため、手元で演算するエッジRTKに比べると正確な位置を捕捉できるまでの時間は長くなる。なお受信機やスマホと測位コアシステムの通信には、ソフトバンクのLTE回線が使われる。
ソフトバンクによると、エッジRTKを利用した場合は平均3.4秒で誤差数cmの位置情報を得られるという。国土地理院の基準点を利用する同様のサービスでは平均13.4秒ほどかかるため、時間的なアドバンテージがあるとのこと。また、正確な位置を一度捕捉すれば、あとはハンドオーバーの技術を利用して対象物の位置を捕捉し続けられるとのこと。担当者によると、この3.4秒をさらに短縮する方法としては、受信機やクラウド側での演算処理能力の向上だけでなく、低遅延が特徴の5Gが有望とのこと。
同社独自の基準点は、国内に3万5000カ所以上ある同社のLTE基地局に併設するかたちとなり、そのうちの3300カ所に設置される予定だ。前述のように基準点は三角測位に使うものなので、基地局とは異なり都市部に集中させるわけではなく全国にまんべんなく設置するとのこと。東京湾や瀬戸内海などの内海での測位も可能だが、ソフトバンク回線が届かない外海などでは使えない。
同社では、まずは7月から自動車メーカーとの実証実験を進めて、11月ごろに法人向けの商用サービスを開始する。関係者によると、ソフトバンクと関係性の深い自動車メーカーと実証実験を進めるということなので、トヨタ系の企業と組むと考えられる。料金プランなどは決まっていないが、既存サービスでは最低でも50万円以上かかるコストを10分の1程度にできるとのこと。
価格は未定だが、GNSS受信機も安価に提供するとのこと。この受信機は2周波の受信に対応しているほか、加速度、ジャイロ、気圧、高度の各センサーも搭載しているのが特徴だ。
また同社は、今回のサービス提供に向けて、測位計算を担う子会社としてALES(アレス)を設立。衛星測位サービスなどを提供しているイネーブラとの共同出資会社だが、ソフトバンクが80%を出資する。
余談だが、同サービスは準天頂衛星システムのみちびきに大きな恩恵を受けているとのこと。みちびきは4機の測位衛星で運用されているが、アジア・オセアニア地域では常にその3機を捕捉できるほか、位置測位に必要な補正情報なども発信されるので、同サービスでの正確な位置情報に役立つとのこと。また、実際には分解してみないとわからないが、ソフトバンク製のGNSS受信機にファーウェイの部品は使っていないそうだ。