KDDIは、ソラコムと共同開発したサービス「KDDI IoTコネクト Air」を2016年12月より提供開始する。ソラコムがNTTドコモの回線とAWS(Amazon Web Services)上に構築したMVNOサービスSORACOM AirのKDDI版というべき内容だ。ここで注意したいのは、サービス提供主体はソラコムではなくKDDI自身であることだ。
「KDDI IoTコネクト Air」はKDDIとソラコムが共同開発した。ソラコムがクラウド上で構築運用する携帯通信コアネットワーク「SORACOM vConnec Core」を活用する。この「SORACOM vConnec Core」の詳細な内容は開示されていないが、要するに今までソラコムが開発運営してきたサービス基盤である。それをMNOであるKDDIが採用した格好だ。
なぜ、自社の携帯電話ネットワークを保有するKDDIが、自前でサービスを構築するのではなくソラコムのサービスを使ったのか。「急激なIoTニーズの高まりに、早く商用サービスを提供したかった」とKDDIの担当者は話す。
今回発表の「KDDI IoTコネクト Air」は(そしてSORACOM Airも)IoT向けの使い勝手を備えている点が特色だ。AWSでクラウド上にリソースを管理するのと同様の使い勝手でモバイルネットワークを管理できる。IoT分野ではデバイスの数と同じ枚数のSIMを契約、管理する必要があるが、ここで「クラウド的な使い勝手」が大きな意味をもつ。同様の仕組みを新規に作り込むよりも、実績があるソラコムからサービス基盤を買った方が早期に、しかも低コストでサービスを市場に投入できるとの判断をしたということだろう。
「KDDI IoTコネクト Air」の価格体系は、契約事務手数料が1500円/SIM(SIM送料込み)、基本料が10円/日、利用中断中は5円/日、音声通話には非対応、通信料は回線速度32kbpsのとき上り0.2円/MBより。別の表現をすると、通信料はSORACOM Airと同じである。
この1年の安定運用の実績を大手MNOが評価、採用
SORACOMが同社のサービスを開始してから1年が経過した。携帯通信のコアネットワークといえば、従来は高価な通信機器を購入して構築するものであり「そのためには数十億円規模の投資が必要だった」とソラコムCEOの玉川氏は説明する。ソラコムは、この携帯通信のコアネットワークをクラウド上で動くソフトウェアとして構築することにより初期コストを劇的に圧縮したMVNOを立ち上げた。「1年間サービスを提供してきたが、障害はほとんどない」と玉川氏は話す。このソラコムの実績をKDDIが評価して採用したというのが、今回の発表の大事な部分だ。MVNOをディスラプトするスタートアップの技術を、大手MNOが評価して買った──これはスタートアップとして大手柄といえる話じゃないだろうか。
今回の発表ではSORACOM Airに相当するモバイル通信サービスだけだが、ソラコムのサービスにはクラウド上の閉域網(VPC)との接続や、省電力の新たなモバイル通信手段LoRa WANとの接続、さらには120カ国でのグローバル展開と各種サービス群をリリースしてきた(関連記事)。
ソラコムは同社のサービスを活用するスタートアップの事例を多数、公表している。モバイル通信とデバイスを組み合わせることは、IoT系の何かを作る上での基本パターンだ。新規回線の契約も解約もクラウド的な手軽さで実施でき、VPCやKinesisなどAmazonの各種サービスにも密に連携するのがSORACOMサービスの特色だ。
今回、発表資料の中にクラウド上の携帯通信ネットワーク「SORACOM vConnec Core」という固有名詞が表に出てきてたことも想像力を刺激する。他のモバイルキャリアとの間にも、同様の提携があるかもしれない。発表文にはそこまでは書いておらず、発表の当事者も言明を避けているのだが──。