HR Techの中でも、人材採用に関するプロダクトの進化が今年に入って活発になっているように感じる。8月に正式公開されたAIヘッドハンティングの「scouty」、採用面接や履歴書不要で働く人とお店などの求人をマッチングする「タイミー」、人の代わりにAIが採用面接する「SHaiN」、求職者になる前のファン層に、ポジションができる前から働きかけるタレントプール型の人材採用サービス「EVERYHUB」など、これまでの採用情報を告知して人材を募集する「媒体型」とは少し違ったアプローチのサービスが、続々とローンチしている。
NOBORDER(ノーボーダー)が8月20日にリリースした「TeamFinder(チームファインダー)」ベータ版も、新しい採用のあり方を提供しようとするサービスだ。TeamFinderが働きたい個人と採用したい企業・チームを結び付けるのに使うのは、チャットボット。個人ユーザーの回答を独自のアルゴリズムで分析し、条件に合う企業とマッチングする。
NOBORDERの創業者で代表取締役の竹田裕哉氏は、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)で9年半、情報システムや法人営業、マネジメント職などに携わっていた。その後、HR関連ビジネスの事業部長やベンチャーの取締役を経験。2015年に1社目を起業した後、2018年1月にNOBORDERを設立した。リクルート時代から一貫して考えていたのは「適材適所をつくっていく」ことだと竹田氏はいう。
優秀なエージェントの「質問力」をプロダクトに反映
竹田氏は、TeamFinderにチャット形式を取り入れた理由について「パフォーマンスの高い人材紹介エージェントは、インタビュー能力が高い。そのインタビューをサービスとして再現しようとした」と説明する。
「給与の金額や条件だけでなく、求職者がどんな仕事にやりがいを感じ、どう働ければ幸せなのか、ということまで引き出せるエージェントこそ、よいマッチングを作ることができる。企業人事に対しても、いきなり『年収いくらぐらいの、どういう経歴の人が欲しいですか?』とか聞いちゃうような人は、あまりパフォーマンスが出ない。これはコンサルタント一般、もしくはお医者さんなどでも同じで、よい質問ができる人は課題を見つけやすく、問題を解決する能力が高いと言えるだろう」(竹田氏)
一方で、そうした能力は属人的でもある、と竹田氏は指摘。「当たる人によって得られるサービスが変わってしまう。そこで一流のエージェントが行うインタビューをチャットに落とし込むことで、どの人にも同じパフォーマンスでサービスが提供できるのではないかと考えた」と述べる。
TeamFinderでは、最初の登録時の質問は、最低限必要なものに5問程度答えるだけでよい。職歴などの登録も任意だ。
竹田氏はその理由をこう語る。「20代で転職が初めて、といったユーザーにとっては、あまり細かい質問に答えていくのは面倒くさいもの。また職務経歴書などのフリーフォーマットでは、人によって伝わる情報に差が出る。例えば同じ『営業』とあっても、対法人なのか個人向けなのか、ルートセールスか飛び込みか、などによって、営業に使う“筋肉”は全然違うはず。だから質問は、それよりも重要な情報だけに絞った方がいい」
竹田氏はまた「人材紹介サイトなどで、有名大学卒で上場企業の職歴で登録すると、それだけでスカウトがいっぱいくる。受け取る企業側にしても、バラバラのフォーマットにたくさんの情報が入っている状態になるので、読み取ること自体が大仕事になってしまう。読まれないものに無駄な工数がかかっている状態」とも述べる。
「TeamFinderでは、基本の質問に加えて、さらに回答していくことができる。例えばスタートアップで仕事がしたいといっても、立ち上げ直後で社員数名のフェーズなのか、数百人のフェーズなのかで、全く仕事の内容は変わってくる。どういうフェーズの会社に行きたいか、組織風土や価値観はどんなところがよいのか。プラスの質問で、基本回答の内容を因数分解していくとともに、定性的なことも尋ねて、レコメンドの精度を上げるようにしている」(竹田氏)
TeamFindeの設問は全部で50問あり、追加の質問では答えたくないものはスキップすることもできる。8割方の質問は選択肢を選ぶだけで回答できるが、いくつか自由回答で答えるものもあるそうだ。竹田氏は「採用の面談の時に、少ない情報だけでは表面的な質問や会話しかできない。TeamFinderでは、企業と個人とで会話を深めるための設問を用意するようにしている。会話のきっかけづくりはUI・UXで実現できると考えている」と話す。
ユーザー登録は新卒・中途採用にかかわらず、誰でも可能。業務委託や兼業・副業での登録もできる。「ユーザーの45%ぐらいが兼業・副業での仕事を探している。そこのセグメントにはこだわらずに使えるようになっている」(竹田氏)
求人する企業側は、レコメンド対象としたい人材を設定することができる。竹田氏は「採用担当者にとって、既存のサービスの問題点は、業務の量が多くなり、効率が悪いこと」という。「採用担当者はよい人材を採るためには『とにかくスカウトしろ』『とにかく人に会え』と量をこなすことが推奨されがちだが、本当は会った人をどれだけ理解できるかが重要。適切な質問をすることで、TeamFinderは採用担当者の業務削減にもつなげられる」(竹田氏)
TeamFinderは、求職者と企業を直接結び付けるわけではなく、アルゴリズムに基づいてレコメンドを出すだけだ。また、恋愛マッチングアプリと同じように、レコメンドされた案件について双方が『気になる』とチェックしないと、連絡が取り合えない仕組みになっている。
採用時の成果報酬は発生せず、月額サブスクリプションモデルでサービスの利用が可能。求人登録を10件まで、人材レコメンドを5件まで、「気になる」アプローチを3件までに制限したフリープランは無料で試すことができる。求人登録数を無制限、レコメンド20件まで、「気になる」アプローチ10件までのエントリープランは月額3万円だ。
「“適材適所”は人材だけでなく、経営資源にも必要」と竹田氏は言う。「資金調達をしたスタートアップが投資する点といえば、マーケティングや採用。でも『採用にお金をかける』といって、現状では求人媒体への掲載料やエージェントへの報酬に費用がかかりやすい。本来なら、プロダクトの開発や、採用した人への給与といったことにお金をかけたいはず」と竹田氏。TeamFinderの価格設定はそうした考えにしたがったものだ。
また求人媒体で起こりがちな課題として「量と質のジレンマ」がある、と竹田氏は述べる。「媒体が大きくなり、閲覧者や求人情報が集まりやすくなればなるほど、見つけたい情報を見つけにくくなる。TeamFinderでは、10万件の案件、100万人のユーザーでもマッチングできるように設計している」(竹田氏)
CtoC、国境を越えたチームビルディングにも展開を予定
8月20日のベータ版ローンチから2週間で約300人がユーザー登録し、マッチングも成立し始めたというTeamFinder。今後、ユーザーインタビューも行いながら、プロダクトの改良を行っていくという。
さらに竹田氏は、起業家などチームビルディングを目指す個人を対象にした個人同士のレコメンドを、TeamFinderで年内にも始めたい、と話している。「個人と法人のマッチングを対象にサービスを開始したが、TeamFinderでは、個人対個人の人脈づくりやチームづくりも実現したかった。サービスを始めてみたら、ユーザーの45%が兼業・副業目的だったことで、CtoCのレコメンドも求められているはず、という仮説が合っていたことを実感した」(竹田氏)
ビジネスでの人脈づくりを目的としたサービスにはyentaなどもあるが、竹田氏は「設問の工夫で、レコメンドの理由も明確になるような形にして、チームづくりができるようなサービスにしたい」と述べている。
NOBORDERは7月にアメリカ・シアトルにも拠点を構えていて、米国法人立ち上げの準備も進めているという。次のステップとして、TeamFinderの海外版ローンチも目指しており、国境を越えたチームづくりができるサービスとしての展開を図っていく。
「アジアや中国へ拠点を作ってオフショアで事業展開する、というこれまでの動きではなく、エストニアで起業をして、セキュリティについてはイスラエル、デザインはサンフランシスコ、開発はウクライナで、といったような、国境を越えて共同で何かを作ることができる仕組みを用意したい」(竹田氏)
NOBORDERでは、2018年3月に複数のエンジェル投資家を引受先として、約3000万円の第三者割当増資を実施。また9月20日には追加の調達を行い、プレシードラウンドとして合計4000万円の資金調達を完了している。