【編集部注】この記事の執筆者、June Sugiyama氏はVodafone Americas FoundationのDirectorを務めている。
私は20年以上をテック業界で過ごし、現在はシリコンバレーで新たなイノベーションを促進すべく、ある財団法人に所属している。これまでの活動の中で、多くの起業家との協業や社会的貢献を目指すいくつものスタートアップの成長促進をサポートする機会があったが、女性として今もテック業界で働いていること、更には指導的立場にいることの意味が、私にはよくわかる。
今では、紅一点であることに慣れてさえきた。そして、設立間もないスタートアップや、巨大なハイテク企業に入った際に、受付の女性を見て、彼女がオフィスで唯一の女性であると気付ことにも違和感を抱かなくなった。これまで訪れた交流会やネットワーキングイベントのいくつかは、志を同じくする技術者の集まりというよりも、男子学生の社交クラブのように感じた事もある。誤解しないで頂きたいのは、優秀なスタートアップは存在し、製品やサービスはマーケットの要望に応え、世界をより良いものにしているという意味で、成すべきことは成されている。ただ、もっと業界を良くすることができるのではないだろうか。
何がシリコンバレーから、またテック業界全体から女性を遠ざけているのだろうか?男性優位の環境に、有能な女性が威圧されてしまっているのか?米国における大学卒業生のうち、半数以上を女性が占めているにも関わらず、大手テック企業における女性社員の割合は30%でしかない。
広く報道されている、雇用をめぐった「タレント争奪戦争」や、法的措置につながってしまうような採用プロセスが蔓延する業界において、この事実は警告として捉えられるべきだ。一方で、大手テック企業が女性求職者を締出したり、無視したりしているという訴訟さえ起きているなど、かなりの二極化が見られる。
この問題は複雑で、答えが一つにまとまらないのは目に見えているが、テック業界で働く女性の数を増やすためには、短期・長期の両時間軸から問題をみつめ、制度的に女性の締出しを生じさせている壁を打破する必要がある。
テック業界における問題
最初のステップは、問題があるという事実を認めることだ。シリコンバレーの大企業の一部は、雇用における多様性の欠如の責任を負うべき立場にありながらも、そのうちの多くは、未だに採用方針は公平で、労働環境も女性にとって問題ないものであると考えている。しかし、驚くべきスピードで女性の流出が起きている事が数字からわかる。実際にハーバード・ビジネス・レビューよれば、STEM分野(理数工系分野)で働く女性の50%が、将来的には不利な労働環境を理由に職場を去ることとなる。
ほとんどの女性が、性別によるあからさまな差別を受けることはないものの、その代わりに、表面には現れない女性軽視への直面から孤独を感じることがある。全てのテック企業にとって、この問題を認め、真正面から取り組む時が来たのだ。女性に対してオープンな文化を作り、彼女たちのキャリア形成のサポートができるような採用方針を、男性も一緒になって実施していくべきだ。
これまで訪れた交流会やネットワーキングイベントのいくつかは、志を同じくする技術者の集まりというよりも、男子学生の社交クラブのように感じた事もある。
仕事への柔軟な復帰ができるような、画期的な産休制度を提供することで、優秀な女性を社内に留めることができる。また、これによって産休からの復帰後や、キャリアか子供かの選択に迫られた女性たちのバーンアウトを抑制することもできる。更に、より女性に優しい環境づくりに向けて、意識的に女性を指導的立場に置くという努力も必要だ。様々な人がその設計に関わってこそ、全ての人にとってより良いテクノロジーが生まれるというのは言うまでもない。(テック企業の皆さん、マーケットの半分は女性ですよ!)。
VCサイクル改革の必要性
女性起業家にとって、ベンチャーキャピタルからの資金調達は頭痛の種となっており、このままでは女性が次世代のテック企業を率いていくのは難しい。ベンチャーキャピタルのパートナーのうち、わずか9.7%が女性で構成されていることを考えると、2014年に設立されたベンチャーキャピタルが出資する米国のハイテクベンチャーのうち、わずか8.3%にしか女性CEOがいないというPitchBookの調査結果も不思議ではない。
民間VCの出資プロセスにおける男性優位の構図は、様々な話題が飛び交うテック業界でもあまり話されることのないトピックの一つだ。男性のベンチャー投資家は、男性主導のスタートアップに投資し、その取締役に名を連ねる。更には、投資を受けたスタートアップが、男性主導の一大テック企業へと成長していくのだ。男性優位のテック企業の悪循環を断ち切るためには、この男性優位のVCサイクルにも目を向ける必要がある。女性を加入させることで、VCは人口の残り半分に役立つよう投資先を多様化することができるのだ。
若者をターゲットに
人材のパイプラインにより多くの、才能ある若い女性を送りこむことが我々には必要であり、そうすることで業界に対して長期的かつ大きな影響を与えるチャンスが生まれる。Girls Who Codeによれば、女子中学生のうち74%がSTEM科目への興味を示しているにも関わらず、大学での専攻を決める際、コンピュータサイエンスを選択する女子高校生の数は0.4%しかいない。では、なぜこの変化が中学校と高校の間に始まるのだろうか?その答えの一部は、中等教育におけるテクノロジーという選択肢の欠如のほか、女生徒が持つ理数工系分野へのイメージの問題に起因する。
我々は、女生徒に対して科学や数学等の分野で活躍する女性のロールモデルを提示するとともに、テクノロジーに関する様々な実地体験をさせることで、科学や数学が男性向けの分野だというイメージを払拭しなければなならないのだ。Girls Who CodeやTechGirlzといった素晴らしい組織は、既に上記の問題に対しての取り組みを行っており、将来のテック企業はその利益を享受することができる。
STEM教育は、女性に活躍の場を準備するためだけの手段として必要なわけではない。拡大を続ける労働力の需要に対して、単純に男性だけでは数が足りないのだ。米国労働省は、2020年までにコンピュータ技術者の求人数が140万件に及ぶと予測しているが、現状を変えない限り、その頃には米国内の大学の卒業生でこれらの求人に適う人の数は、求人数の29%にしかならないだろう。
私からの簡単なアドバイスは、部屋の中に誰がいて、そのうち何人が女性かということに気づきはじめるということだ。まずは、今自分のいる職場から観察し始めるのも良いだろう。テクノロジーは、我々の職場を多様化するために重要な役割を担っている。
最近、私があるイベントで目にしたKapor Cpitalの取り組みは良い例だ。そのイベント内でKapor Capitalは、アーリーステージのベンチャー企業数社を紹介しており、彼らは、人材開発や人事管理、生産性向上のプロセスにおける一部に改革を起こすことで、テクノロジーをテコに、大規模な人事面でのバイアス軽減に取り組んでいた。そこでは、求人から面接、業務割当、人事評価、昇進、報酬、苦情処理、トレーニング等のプロセス全てについての議論がなされていたのだ。このような考え方に沿った形で、企業は女性参画に向けた数値目標を掲げ始めており、これによって我々も本当に変化が起きているのかというのを測定し、確認することができるようになる。
テック業界における女性の必要性は上記のとおりだが、問題は各企業が女性獲得に必要な改革に取り組む気があるかということだ。変化の波は、徐々に確実に押し寄せている。
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(翻訳:Atsushi Yukutake 500px)