さて。アメリカでの土曜日が、少々違ったものとなっていたはずだが如何だったろうか。カフェでは見知らぬ同士が、お互いにフェイス・トゥ・フェイスで会話をしていたはずだ。誰もノートパソコンなど使っていなかっただろう。また信号待ちの車は、ライトが青に変わればすぐに発進させたはず。「ちょっとこのツイートを送信してから」などと、とろとろとしている人もいなかったはずだ。
もちろん、急に1995年にタイムトラベルさせられたというわけではない(まあそれはそれで面白いのではないかとも思う)。
変わっていたはずだというのは、ナショナル・アンプラグデー(National Day Of Unplugging:ネットに繋がらずに過ごす日)の当日だったからだ。2010年から行われている。3月最初の金曜日の日没から、翌日の日没までの期間をネットなしに過ごそうというものだ。宗教儀式のひとつである「サバス:安息日」(SabbathないしShabbat)にヒントを得たものだ。
もちろん、「大半の人が実践している」などというわけではない。しかしなかなか面白い試みではあるだろう。誓約書も用意されているが、もちろん冗談のもので、気軽に試してみるのも良さそうに思える。
ナショナル・アンプラグデーのサイトによれば、「日々の忙しさから抜け出し、ネットから離れて、じっくりと考える時間をもち、のんびりと出かけて、親しい人とゆっくりした時を過ごそう」というのが目的なのだそうだ。ちなみに、先に示した「誓約書」にサインすると、電話の電源を切る、PCの電源も切る、ロウソクを灯す、ワインを用意するなど、「10のルール」に従うことが求められるのだそうだ。この「10のルール」は、本文末尾にも掲載しておいた。ルールを眺めるうちは簡単そうに思えるが、いざ実際に行動に移そうと考えてみれば、なかなか難しいものだと思う。
ところで先日、かなりの成功を収めたウェブ系アントレプレナーと食事をする機会があった。彼女も実は毎週、ネットワークを絶って家族と過ごす日を作っているのだそうだ。少し年配の方なのではあるが、しかしビジネスで名を成し、友人や家族など、人的なネットワークもかなり広い方だ。そんな彼女がなぜネットワークを遮断して過ごすことが可能なのだろう。週に1日でもネットワークを遮断する日などを作ってしまえば、どうしても不利益に繋がってしまいそうな気がするのだ。誰かがすごく面白そうなパーティーに誘ってくれたらどうするのだろう。あるいはTwitterのIPO関連書類がメールで送られてきていたら、史上最大級のトクダネを逃すことになってしまう。
「自分で境界を作ろうとする努力をしなければならないのですよ」と彼女は言った。「長い目で考えると、そうすることで仕事も人生も一層うまくいくようになるはずです」とのこと。
確かにそうなのだろう。現在の「いつでもオン」の時代の前、1日24時間繋がり続けていなくても、多くの人たちが立派な人生を送り、偉大な業績を残してきたのだった。現在のトレンドは、「一層ハードに、即時に、そして長時間」働くというところにある。こんな時だからこそ思い出しておきたいことがある。テックの世界でも、あるいはそれ以外の分野においても、偉大な仕事を成し遂げてきた人びとは、現在における大半の人たちよりも繋がっていない個の時間を大事にしていたのだった。
さまざまなガジェットやウェブからちょっと離れる時間を持つというのは不可能なことではないはずだ。と言うよりもむしろ、ネット無しでも生きていく方法をしっかりと思い出しておく必要があるのかもしれない。
ナショナル・アンプラグデーの「10のルール」は以下の通りだ。
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(翻訳:Maeda, H)