少子化、晩婚化、「出合い系」にまつわる負のイメージと、日本のデーティングアプリを取り巻く環境は決して明るいものではない。ただ、かつて「いかがわしい」「負け組」と見られたようなマイナスのイメージが消えつつあって、今では恋活や婚活でフツーにアプリが使われるようになっているようだ。
4月6日に東京・南青山で開かれた「Japan Dating Summit #1」というトーク・イベントで、恋活・婚活関連のサービスを運営する人々が集まり、2016年の今はマッチング系アプリが一般化するティッピング・ポイントにあるのではないか、と現状や見通しを語った。
アメリカでも10年前はダサかった
「アメリカでも10年前にはオンライン・デーティングサービスを使ってることを周囲には言わないものでした。使っているだけで負け組と思われたものです。今は全然そんなことはありません。インドや日本といった市場でも、これは変わりつつあります」
冒頭で、MatchグループのCOO、ナヴィン・ラマチャンドラン(Navin Ramachandran)氏はアメリカ市場の変化をこう指摘した。北米では3人に1人がネットで知り合った人と結婚しているというデータを紹介。今やデートアプリを使うのは当たり前のこととなっていて、今後グローバルで同様の変化が起こると予言する。
北米市場で利用者の間で変化が起こった契機はテレビCMだった。学校教師や医師、弁護士といった社会的に尊敬される人たちを多くテレビCMに登場させ、ふつうの人がデーティングアプリに参加していて、「ネットで出会ってもいいんだよ」というメッセージを繰り返し、繰り返しテレビで流したのが奏功したのだという。
MatchグループといえばOKCupid、Match.com、Tinderといったデーティングサービスを擁する世界的ネット企業だ。世界各地で大小のマッチング・サービスの買収を重ねていて、今回イベントを主催したPairs運営で知られるエウレカもMatchグループの一員でもある。
複数アプリの同時利用が当たり前に
ラマチャンドラン氏は過去10年で起こった変化として、利用者のメンタリティーのほかにも、「単一アプリではなく、複数アプリを使うようになったこと」を挙げる。「Tinderはほかのアプリからシェアを奪ったわけじゃありません。今は1人のユーザーが平均で2〜3アプリを使っています。コアユーザー層は28〜30歳。一方、Tinderは18〜25歳のユーザー層を引っ張りこんだんです」。
もう1つのデーティングアプリの市場動向として、「50歳以上の人の出会いサービス」とか「アジア人向け」「片親のための出会いサービス」などとバーチカルに細分化していることを指摘する。グローバルにビジネスを展開するMatchグループの強みは、「異なるアプリや地域で何がうまく行ったのか、その知見のシェアをしている」こと。マネタイズなどは共通ノウハウを使えるのだとか。
オンラインの独身者の数は2011年には3.6億人だったが、それは現在5.1億人。2019年には6.7億人と増加する。Matchグループとしては、まだまだサービスが拡大基調にあるようだ。
ガラケー時代の「出会い系」が負の遺産に
ラマチャンドラン氏に続いて登壇したのは、日本国内で恋活・婚活サービスを展開する5社の5人。
2015年になって恋活・婚活サービスが市場として立ち上がりつつあることを象徴しているのは、Youbride運営のDiverse取締役 小久保知洋氏の次の発言だろう。
「うちは2000年スタートなので、もう16年ぐらいやっています。これはヤフーもエキサイトも同じだったと思うんですが、ずっと15年ほど横ばいだったんです。それが15年目にして、昨年比で150%成長とかになっているんです(笑)」
「出会い系」と書くと、日本では特に負のイメージが付きまとう。これには理由があるというのが2011年スタートのOmiaiを運営するネットマーケティングメディア事業本部長の柿田明彦氏だ。
「ガラケー時代に信用なくした、というのはあると思う。(かつての出合い系では)既婚者が使いすぎとか、18歳以下が巻き込まれたということがあった」(柿田氏)
最近のマッチング・サービスはどこもメッセージ監視に多大なコストをかけていて、20歳以下の参加者に「飲みに行く?」とメッセすると、システムが検知して人間がチェックする仕組みになっているのだそうだ。違反ユーザーは挙動が特殊なのでアルゴリズムによる検知も有効だという。
「合コン」だって、かつては大っぴらに言わなかった
「出合い系」の負のイメージは最近の若い人の間ではなくりつつある。ただ、「誰もが当たり前に使う」という関係者悲願の状態には、あと一歩足りていない。それがイベント登壇者の共通認識のようだった。
サイバーエージェントグループで「タップル」を展開するマッチングエージェント代表取締役社長の合田武広氏は「若い人の意識をもっと変えたい」と話す。
「ネットで出会うのは悪いことじゃないのに、そういう印象が付いてしまっています。文化を変えたいですね。変えるべきは若い人のマインド。だから結婚よりも、まず彼女を作ることに注力しています。アプリのマーケティングメッセージも青春ぽい感じを演出していますし、趣味で繋がるとかコミュニティーとか、そういう言い訳を用意しています」。
合田氏は、一般に広く受け入れられるには言葉の問題もあるのではないかと指摘する。
「街コンとか相席屋って普通に言うじゃないですか。言い方次第でイメージが違います。何らかのアクションをすれば、若い人に文化を浸透させられるのでは」。
Pairsを運営するエウレカCSOの中村裕一氏も同様の指摘をする。
「昔は合コンもそんなに大っぴらにしてなかったと思うんですよね。がっついているイメージがあって。それが今は当たり前になりましたよね。市場や言葉ができると当たり前になる。だから、オンラインの出会いも文化になると思います」
今のマッチングサービスは、転職サービスの黎明期と似ている
リクルートといえば結婚情報誌「ゼクシィ」を1993年に立ち上げ、いまもブライダル市場で圧倒的存在感を持っている。2014年末に「ゼクシィ縁結び」「ゼクシィ恋結び」など新サービスで恋活・婚活アプリ市場に参入している。
リクルート参入の背景には婚姻組数の減少がある。
厚生労働省の人口動態統計によれば、2000年に80万組だった年間婚姻組数が、2015年には64万組に減少、2019年には60万組を切ると予想されている。これは少子化だけの問題ではなく、未婚率の上昇も背景にある。リクルートの貝瀬雄一氏(リクルートマーケティングパートナーズ ブライダル事業本部執行役員、リクルートゼクシィなび代表取締役社長)は言う。
「現在、男性の5人に1人が生涯未婚です。女性は10人に1人が生涯未婚。これが今後はそれぞれ4人に1人、5人に1人まで伸びていきます」
「晩婚化とコミュニティーの希薄化が起きています。出会いの場がない。だからオンラインの出会いを当たり前にする文化を作っていきたい。それがゼクシィという名前を冠している理由です」(貝瀬氏)
興味深いのは、リクルートが「恋活」「婚活」と2つの似たサービスを出している点だ。
「われわれのスタンスは『混ぜるな危険』です(笑)。恋活と婚活は分けています。結婚の距離感というのは男女で違うんですね。独身の9割の人は結婚したいと回答しますが、1年以内と聞くと、女性は3人に1人、男性は10人に1人なんです。男性は、いつか結婚したいという。男性のほうが夢見がち。若ければ若いほどそう。結婚に対する距離感は性別や年齢で違うので、それに対応するサービスを作らないといけない。だから恋人と結婚を分けているんです」
恋と結婚のミスマッチを滔々と語る貝瀬氏だが、実はリクルートエージェントで18年にわたって人材斡旋事業の立ち上げをやってきた人物だ。人材斡旋サービスの黎明期と今のデーティング市場は似ているという。
「18年ほどリクルートエージェントで人材斡旋をやっていました。今から18年前の人材サービス市場は、デーティング市場と同じでした。(そんな市場のことは)誰も知らなかったし、メインプレイヤーといっても、ケンブリッジリサーチとか……、今の皆さんは知らないでしょ? (笑)リクルートなんかは、若造が業界引っ掻き回すなと言われるような感じでした」
「転換点になったのはビジネスマンの10人に1人が使うようになったところ。そこから3倍になった。10人の1人を超えると認知を獲得して一気に市場は爆発する。デーティング市場も、そろそろそこに到達するとみています」
ケータイ時代の出合い系のイメージ(とプレイヤー)が今も残っているため、雑誌や新聞がデーティングアプリの広告掲載を許可しないという業界事情が今もある。電車や雑誌などオフラインのマーケティングは、今回登壇した企業にとって掲載のハードルが高い(これがFacebookでデートアプリの広告をすごく良く見る理由だ。Facebookはアメリカ企業だから日本の特殊事情が影響しづらい)。
そうした背景もあって、貝瀬氏はイベントに参加した関係者らに対して、「市場が爆発するときには、各社が一斉にCMに投下するようなタイミングが必要です。来年くらいには一緒にやりましょうよ」と呼びかけてイベントを締めくくった。