Creatorのシースルーなバーガーロボットは、肉を挽いておいしいパティを作る、ということは注文が入るまでしない。これがCreatorのやり方だ。以前はMomentum Machinesという会社だったこのスタートアップは世界で最もフレッシュなチーズバーガーを6ドルで提供しようとしている。Creatorは6月27日、8年もの歳月をかけて開発したロボットレストランを、9月のオープンに先駆けて公開した。そこで我々は店をのぞいてーいや、味わってきた。
店を1つ開こうとしているスタートアップがどうやったら時価総額100億ドルもの企業になれるのかを尋ねたところ、Creatorの創業者でCEOのAlex Vardakostasは私の目をじっと見つめ、こう答えた。「マーケットは実際のところそれよりもずいぶん大きい」。
サンフランシスコのFolsomストリート680番地にあるCreatorのバーガーを作るロボットの働きはこんな具合だ。客がコンシェルジュの案内に従ってタブレット端末で好みのバーガースタイルを決める。すると、圧縮空気チューブがその日に焼かれたバンズを右側のエレベーターへと押し出す。そして振動するナイフでバンズが真ん中で2つに切られたのち、ベルトコンベヤーで下に運ばれてトーストされ、それからバターが塗られる。ソース類はミリリットル単位で、スパイスはグラム単位で計測され、自動でバンズにかけられる。丸ごとのピクルス、トマト、タマネギ、そして塊のチーズはバンズに乗せられる直前にスライスされる。
そしてこのロボットは、ホルモン不使用の牧草で育てられた牛の胸肉やネック肉をオーダーが入ってから挽く。しかしそれは肉を潰すというより、肉を垂直に押し出して軽く形成するという感じだ。形成はゆるい感じだが、自動鉄板で焼けるパティだ。パティは約5分かけて全ての具材がそろってから最後にのせられる。このスタイルは、バーガーにかみつくとき、クチャクチャかまなくても垂直に並んだ具材を歯でかみ切れるように、との配慮からだ。
もしあなたがいち早くこのバーガーを試したいのなら、Creatorは太平洋時間の今日午前10時に前売り券を売り出す。もしくは正式オープンの前に、水曜日と木曜日にランチを提供する予定だ。最終的には、客がアプリで全ての材料の分量を調整して、無限にも近い組み合わせができるようになる見込みだ。
現在のところ、プリセットされたバーガーの種類は次の通りだ。クラシックスタイルCreator、The Worldサウザンドアイランドスペシャルソース添え、Top ChefのTuシェフによるオイスターアイオリソースのTsumamiバーガー、Bar TartineのNick Ballaシェフによる炭焼きタマネギジャム添えのThe Smokyとヒマワリのタネのタヒニ添えDadバーガー。
それぞれの味はかなりのものだ。事前にカットされて防腐剤が施されたものではなく、材料は全てその場でカットされたり挽かれたりしているのでフレーバーが前面に出ている。パティは柔らかすぎない程度のかみごたえだ。食べ終わった時は、チーズバーガーを食べた時によく感じる、脂っこさやお腹にどっしりくる感じ、満腹に伴う眠気のようなものはあまりない。
「このバーガーは[リッチな人が行くようなレストランで]12ドルから18ドル払って食べる種類のもの。ただし値段は6ドル」とVardakostasは話す。私がこれまで食べたバーガーで一番美味しいというものではないかもしれないが、この値段では確かにベストだ。この値段は、ロボットの活用で人件費や賃料を節約して実現している。「私たちは他のレストランより材料に時間をかけている」と語る。
CEOはCreatorがいくら資金調達したか明らかにしなかったが、GoogleのGVや、フードスタートアップによく投資しているKhoala Ventures、ハードウェア専門のRoot Venturesなどから出資を受けているとした。しかしながら、TechCrunchが入手した証券取引委員会の書類には、このスタートアップは2017年に少なくとも1830万ドル調達し、2013年に遡ると600万ドル調達している。
これはまったく不思議なことではない。「マクドナルドは時価総額1400億ドルの企業で、この数字はGMとTeslaの合計を上回る。マクドナルドは4万店も展開している。食産業は最も大きいマーケットの1つだ」。Vardakostasは続ける。「しかし我々にはいくつものアドバンテージがある。平均的なレストランというのは、面積が50%以上大きい」。そしてVardakostasは、彼のロボットがほとんどのファーストフード店の厨房よりかなり小さいことに言及した。そして笑いながら「それが我々のキッチン。運び込み、プラグを差し込むだけ」。
パティ焼きから物理の勉強へ
あなたがビジネス創業者に期待するストーリーというのは、スーパーヒーロー的なものかもしれない。何かの問題を必死に解決しようという、人生における決定的な瞬間だ。Vardakostasの場合も、なるほどというような話がある。「私の両親はバーガー店を経営していた」と彼は明かした。「私の仕事というのは数百個もの同じバーガーを毎日つくることだった。それに適したツールがなくて、考えないわけにはいかなかった。本当にハードワークなんだ」。
ロボットやエンジニアリングというのは、その南カリフォルニアの店にはまったく無縁のものだった。そして、「私が15歳のとき、父が初めて私を本屋に連れて行ってくれた。そして私は物理についての本を読み始め、これは可能性があるかもしれないと直感した」。彼は物理を学ぶためにUCサンタバーバラ校に進み、ガレージで工作するようになった。そして最終的には、有名なTechShopで初のロボットプロトタイプの部品を作るために車でシリコンバレーまで行った。
そんなとき、共同創業者でCOOのSteven Frehnに出会う。「Stevenはスタンフォード出身だと言い、私はかなり萎縮した」とVardakostasは回想する。しかしこの2人は良き仕事仲間としての関係を築き、カレッジのメカニカルエンジニアを仲間に誘った。Momentum Machinesは2009年に始まり、2010年まではガレージでのプロジェクトだった。そして2012年にLemnos Labsと合併し、このスタートアップは2014年には大きく成長し始めた。
一方で、他の起業家たちも食産業用のロボット分野でチャンスを見出そうとしていた。たとえば、現存しないがY CombinatorスタートアップのBistrobot。これは白いパンにピーナッツバターやNutellaを手当たり次第塗るというもの。最近ではMiso Roboticsの、Flippyという名のバーガーひっくり返しロボットアームがある。もっとも、Flippyがやることといえば、従来タイプの鉄板でパティをひっくり返すことだけだが。「我々のロボットには、バーガーを引き出すアームがある。しかしその仕事は全体作業からみるとわずか5%ほどの煩雑さだ」とVardakostasは語る。というのもCreatorは350のセンサー、50のアクチュエーター、20のコンピューターで稼働するからだ、とクールに話した。
バーガーの慣習を見直し
CEOのキッチンでの体験により、Creatorは人間的な要素を残している。Vardakostasは、コンピューターで注文するようなスタッフの少ないレストランは“暗黒郷”のようなものと考えていると教えてくれた。事実、彼はフードサービス従業員が新しいキャリアにアクセスできるようにしたいと考えている。Vardakostasは「人々はレストランでの仕事を施しが必要なものととらえがちだ。しかしチャンスが必要なだけだ」と意味ありげに述べた。従業員にサイドプロジェクトをさせるという、Googleの古いポリシーに触れながら、「テック企業では10%の時間が与えられる。しかし、誰もレストランの従業員に同じように時間を与えようとはしない」。
「2012年に非常に興奮したこと、そして今まさに実行しようとしていることは、こうした店のように新たな雇用を生み出すことだ。面倒で危険な仕事はロボットが面倒みてくれる」と共同創業者のFrehnは語る。「我々は従業員のための教育プログラムに力を入れている。勤務時間の5%は有給の読書時間となる。これはすでに取り入れている。本についての予算もあり、1時間あたり16ドル支給している。こうした時間を使ってマシーンを修理できるようになれば、修理やメンテナンスをする人により多く支払うという道が開ける」。
Creatorが逃れられないトラディションの一つがフレンチフライだ。Vardakostasは、「フレンチフライは基本的にヘルシーな食べ物ではない。ドーナツよりも健康によくない。というのもフレンチフライはドーナツより表面積が広く、フライヤーにさらされるからだ」。しかしシェフがVardakostasに「フレンチフライなしにはバーガーを食べない人もいる」と教えた。ということで、Creatorの妥協点としては、バーガーはハートの形をした小さなファロと季節の野菜がデフォルトで付いてくるが、サイドにフレンチフライを選ぶこともできる、というものだ。
Creatorの今後は、バーガーロボットや、それとともに働く人によって決められるのではない。このスタートアップは、ファーストフードのダイナーが早くて、安くて、しかも美味しいものになること、客をPottery Barn調のような雰囲気の中に迎い入れることを証明しなければならない。と同時に、多くの客にカフェテリア式の注文カウンターや低価格が必ずしも低品質を意味するとは限らないことを確信させなければならない。そういえば、店の名称は、バーガーショップにしてはややリッチな感じだ。
ロボットを許認可制にしたり、レストランをフランチャイズ展開したりすれば儲かるだろうが、今のところ、Creatorはそうしようとは考えていない。「誰かに冷凍ビーフを食べさせてお金をもらう、というのはしたくない」とVardakostasは語る。その代わり、最終的に念入りに拡大するのが目標だ。小さいという強みを生かして空港のターミナルやバスステーションに店を構えるというのもありだろう。「サンフランシスコから外に向かって出たい」。そして、Frehnは大胆にもこう結論づけた。「我々のビジネスモデルはとてもシンプルだ。人々が好む本当にいいバーガーを、半額で売ることだ」。
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(翻訳:Mizoguchi)