パーソナライズされたエンターテインメント新時代への準備を怠るな

「機械の中の幽霊」はもう物語を紡ぐことができる

新しい機械学習テクノロジーやユーザーインターフェイス、そして自動コンテンツ生成技法が、これまでのアルゴリズムによるニュース生成やコンテンツ推奨の範囲を超えて、ストーリーテリングのパーソナライゼーションの世界に広がりつつある。

次の波は、消費者の好みや感情に合わせてソフトウェアが生成する物語だ。具体的には、デジタル履歴、個人的な嗜好、そしてコンテンツ自身の中のコンテキスト解放機能などが、個人向けのニュース記事、ライブビデオ、そしてストリーミングサービスのヒットシリーズに反映されるということだ。

そうしたタイトルには、さまざまな人びとのための、さまざまな経験が含まれる。

Netflix is experimenting with different episode orders for ‘Love, Death & Robots’

スマートレコメンデーションから、よりスマートなコンテンツへ

Youtube、Facebook、Google、AmazonTwitter、Netflix、あるいはSpotifyを使うとき、アルゴリズムがあなたに推奨(レコメンド)できるものを選択する。現在主流となっているサービスとそのユーザーインターフェース、そしてレコメンデーションエンジンは、あなたが興味を持っているかもしれないコンテンツを提供するために最適化されている。

あなたのデータ、他の人たちのデータ、コンテンツ関連のデータ、そして機械学習方式は、人間とコンテンツをマッチさせるために利用される。 それによってコンテンツレコメンデーションの適切性とコンテンツ配信の効率性を改善するのだ。

とはいえ、これまでのところ、コンテンツ体験そのものは、ほとんどの人に対して似通ったものとなってきた。もし同じニュース記事、ライブビデオ、あるいはテレビシリーズのエピソードがあなたと私の両方に推奨されたなら、二人は同じものを読みそして視聴して、同じコンテンツを体験することことになる。

だがそれは変わろうとしている。ほどなく、私たちはスマートコンテンツの新しい形を見ることになるだろう。そこではパーソナライズされたコンテンツ体験を生み出すために、ユーザーインターフェイス、機械学習テクノロジー、そしてコンテンツそのものがシームレスに組み合わされることになる。

スマートコンテンツとは?

スマートコンテンツとは、コンテンツの視聴体験自身が、誰がそのコンテンツを見たり、読んだり、聞いたりしているかによって影響を受けることを意味する。コンテンツ自身があなたが何者であるかに基いて変化するのだ。

私たちはすでに、この分野での最初の先駆者たちを目撃している。例えばTikTokのコンテンツエクスペリエンス全体は、非常に短いビデオ、オーディオビジュアルコンテンツシーケンスによって駆動され、アルゴリズムによって順序付けられ、まとめられている。それぞれのユーザーは皆、自分自身の視聴履歴やプロフィールに基いてパーソナライズされた「全体」を観ることになる。

同時期に、Netflixは最近、ユーザー自身の選択が、会話やストーリーを含むコンテンツ体験に直接影響を与える、新しい形式のインタラクティブコンテンツ(TVシリーズのエピソード、例えばBlack Mirror:Bandersnatch)のテストを開始した。そしてさらに多くのものが登場しようとしている。またNetflixは、「ラブ、デス&ロボット」シリーズの中では、シリーズ内でのエピソードの順序を実験していて、ユーザーごとに異なる順序でエピソードが配信されている。

Netflix is pursuing more interactive content, including, maybe, a rom-com

インタラクティブなオーディオビジュアルコンテンツの初期の先行者には、スポーツイベントストリーミングもある。そこでは視聴者はどのストリームをフォローするのか、そしてどのようにライブコンテンツと対話するのかを選ぶことができる。たとえば視聴者個人の興味に基いてストリームを巻き戻し、見どころを探す機能などだ。

同時に私たちは、機械学習テクノロジーが、実在しない人物や、動物、そして場所の、写真品質のイメージをいかにうまく生成できるのかを目にしている。現在のシステムは、例えば、スタイル、風景、照明、環境、あるいは中心的キャラクターの顔を変えることによって、ビデオ全体を再作成および変更することができるのだ。さらに、AIソリューションはさまざまなジャンルの音楽を生成することができる。

さてここで、TikTokの個別の短いビデオが、AIシステムによって選択された効果によって自動的にパーソナライズされて、それによってビデオ全体があなたのためにカスタマイズされるということを想像して欲しい。あるいは、プロットの微調整や対話、さらにはサウンドトラックにさえ影響を与えるNetflixのインタラクティブコンテンツの選択が、あなたのプロファイルに基づいたアルゴリズムによって自動的に行われるということも想像してみるとよい。

パーソナライズされたスマートコンテンツもニュースになっている。今日の最先端のNLP技術を使用する自動システムは、わかりやすく包括的で、さらには独創的なテキストコンテンツさえ大規模に生成することが可能なのだ。現在、メディア各社は、自動化されたコンテンツ作成システムや、「ロボットジャーナリスト」を使用して、完全な記事から視聴覚クリップ、そしてビジュアルなどに至る様々なニュース素材を作成している。コンテンツのアトマイズ(コンテンツを小さな情報の塊に分割すること)と機械学習を通じてコンテンツ制作を大幅に増やして、スマートコンテンツ生成をサポートすることができる。

例えば、あなたが読んだり聞いたりするニュース記事が、あなたにとって馴染みのない特定の政治的話題に関するものであるとしよう。同じ記事を、政治に詳しい友人が読むものと比べてみたときには、あなたが読むバージョンのストーリーは、友人へのものとは異なるコンセプトと異なる角度からのものであるかも知れない。初心者向けのスマートコンテンツニュース体験は、トピックに詳しい人間の体験とは異なるものになるだろう。

コンテンツ自体がソフトウェアのように流動的でパーソナライズされた体験となる。デジタル履歴と個人的嗜好はコンテンツがどのように推奨され提供されるに影響を与えるだけでなく、コンテンツが実際に何を「含んでいる」かにも影響する。

自動ストーリーテリング?

異なる人びとのために、異なる体験を含むスマートコンテンツは、どうすれば作成できるのだろうか?

コンテンツは、出版されたりパイプラインで配信されるときに、全体が完成しているお仕着せで静的なものではなく、反復的で構成可能なプロセスとして、考慮され扱われる必要がある。

重要なことは、コンテンツ体験のコアビルディングブロックが変化することだ。スマートコンテンツは、さまざまなルールに基づいて変更、更新、リミックス、置換、省略、およびアクティブ化できる、アトマイズされたモジュール要素で構成されている。さらには、過去に作成されたコンテンツモジュールは、もし可能なら再利用される。コンテンツはソフトウェアのようにデザインされ開発されている。

現在、スマートニュースアプリケーションからオンデマンドストリーミングサービスに至る様々な用途に、多大な人的努力とコンピューティングリソースが、機械式コンテンツ配信および推奨システムのためのコンテンツを準備するために、使用されている。スマートコンテンツでは、コンテンツの作成とその発行および配布チャネルの準備は、別々のプロセスではない。それどころか、コンテンツを記述して定義するメタデータおよびその他の見えない機能は、最初の段階からコンテンツ作成プロセスの不可欠な部分なのだ

ドナルド・グローヴァーをジェイ・ギャツビー役に

スマートコンテンツでは、物語またはイメージ自体が反復フィードバックループの不可欠な部品になる。このループでは、ユーザーの行動、感情、その他の特徴、およびコンテンツ自体の可視/不可視の特性が、コンテンツの作成と推奨からコンテンツ体験に至る、コンテンツ消費サイクル全体に影響を及ぼすのだ。スマートコンテンツの特性を使うことで、ニュース記事や映画は、異なる人びとのために、コンテンツのさまざまな部分をアクティブにするのだ。

エンターテイメント目的のスマートコンテンツは、ニュースメディアコンテンツとは異なる特性と機能を持つ可能性が非常に高い。さらに、人びとは面倒がなく楽ちんなコンテンツ体験を期待しているため、スマートコンテンツの体験はゲームとは異なったものとなる。スマートコンテンツは必ずしもユーザーからの直接的なアクションを必要としない。もしユーザーが望む場合には、ユーザーによる明示的な操作なしに、コンテンツのパーソナライズが積極的かつ自動的に行われる。

スマートコンテンツを作成するには、人間によるキュレーションと機械インテリジェンスの両方が必要である。AIシステムが、ソフトウェアのように、動的で適応的なコンテンツを生成、組み立て、反復する一方で、人間は創造性と徹底的な分析を必要とするものに焦点を合わせるのだ。

持続可能なスマートコンテンツ

スマートコンテンツは、異なるユーザー、ユーザーインターフェイス、デバイス、言語、および環境ごとに、構成と表現が異なる。同じコンテンツの中に、音声ユーザーインターフェイスを介してアクセスしたり、拡張現実アプリケーションで表示したりできる要素が含まれていたりする。あるいは、コンテンツ全体が、完全没入型のバーチャルリアリティ体験に拡大することもある。

パーソナライズされたユーザーインターフェイスやスマートデバイスと同様に、スマートコンテンツも善と悪のどちらにも使用することができる。それは啓発とエンパワーメントに使うこともできれば、詐欺と誤解を招くために使用することもできるのだ。したがって重要なのは、人間中心のアプローチと持続可能な価値が、スマートコンテンツ作成の中核に据えられていることなのだ。パーソナライズ過程は透明である必要があり、ユーザーはコンテンツをパーソナライズするかどうかを選択できるようになっている必要がある。そしてもちろん、すべてのコンテンツが同じようにスマートにできるわけではない。

もし持続可能なやり方で使用された場合には、スマートコンテンツは、さまざまな情報をより多様な視聴者が、よりアクセスしやすくするために使うことができるため、フィルターバブル(情報の偏食)やエコーチェンバー(付和雷同的状況)を打ち破ることができるだろう。パーソナライゼーションを通して、人びとの背景や教育レベルに関係なく、彼らの能力や好みに応じて、難しいトピックを人びとに提示することができる。たとえば、ある初心者向けの予防接種コンテンツやデジタルメディアリテラシー記事では、ゲーミフィケーション要素が使用されている。そしてより経験豊富なユーザーは、最近の動向や研究結果についての詳細な説明を直接入手することができる。

スマートコンテンツは、フェイクニュースやその変種である「ディープフェイク」などのさまざまな形式の情報操作に対抗する取り組みとも連動している。もしコンテンツがソフトウェアのようなものであるなら、合法的なソフトウェアは問題なくあなたのデバイスやインターフェース上で動作する。その一方で、ディープフェイクのような、機械的に生成され本物に見える怪しいコンテンツも、署名情報やその他の機械読み取り可能な品質に基づいて検知し、排除することができる。

スマートコンテンツは、ユーザーエクスペリエンスデザイン、AIテクノロジー、そしてストーリーテリングの究極の組み合わせである。

ニュースメディアは、スマートコンテンツを試し始める最初のものになるだろう。インテリジェントコンテンツが世界を食べ始めたら(以前マーク・アンドリーセン氏が語った「ソフトウェアが世界を食べる」のもじり)、みな自分自身のインテリジェントコンテンツを作成する必要がある。

スマートコンテンツを身につけた最初のプレーヤーは、明日のデジタル巨人として君臨することになるだろう。そしてそれこそが、今日のテック企業たちが、コンテンツ勝負に真剣に取り組んでいる主な理由の1つなのだ。スマートコンテンツがやってくる。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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