ビッグデータ、そして没落するデータの利用者

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編集部注: Ben SchlppersはHappyFunCorpの共同創業者だ。

ソーシャルサービス同士の権力争いも落ち着きを見せはじめ、その闘いの勝者が明確になってきた。一握りの企業がソーシャルデータの95%をコントロールする今、インターネットは以前よりも自由のない、閉ざされたものになった。

過去15ヶ月間、ビックデータという用語(そして、その背後にあるコンセプト)をよく耳にするようになった。ここで言うビックデータとはユーザーに関するデータのことだ。ユーザー・データとは主にソーシャル・サービスによって集められたデータであり、企業のAPIの範囲に限ってそれを活用することで、より効果的にアプリやビジネスを構築することができる。

その基本的な例をいくつか見てみよう。まずはFacebookだ。ディベロッパー、製品アーキテクト、起業家などは、Facebookから入手できるユーザーの名前や写真、シェアされた記事などのデータを利用することができる。スナップチャットから入手できるのはシェアや、送信されたアイテムの数などのデータだ。同様に、インスタグラムからはユーザー、ハートの数、コメントなどのデータを、テスラからは車両の位置、エネルギー消費量、最後に充電された時間などのデータを入手することができる。このような例は他にもたくさんある。現代のウェブサービスはデータをオープンにやり取りすることによって成り立っているのだ。

良いアプリとは何か。私はよくそう聞かれる事がある。それに対するシンプルな答えは、データだ。もっと詳しく言えば、ユーザーに関するメタデータのことだ。ユーザーこそがデータの源泉なのだ。アプリがどれだけ優れていても、ユーザーが存在しないアプリは機能しない。それだけのことだ。

そして、こう答えると決まって「では、どうすればユーザーを獲得できるのでしょうか?」と聞かれる。

その質問に対する答えは何百万ドルもの価値がある。既存のソーシャル・サービスを通せばユーザーを獲得することができるというのはよくある宣伝文句だ。ただ、それが本当だとは限らない。実際のところ、ユーザーを買うことはできないのだ。自身のサービスやソフトウェアと既存のソーシャル・サービスをつなぎ合わせるだけでは、ユーザーを獲得することはできないし、何も生み出すことはできないのだ。人々は既存のサービスにそっくりなソフトウェアが次々と生み出されることにうんざりしている。アプリを成功させるうえで一番難しいのは、ユーザーを獲得し、そして維持することなのだ。

かつて、ディベロッパーはFacebookのソーシャルグラフを大いに活用することができた。その貴重なデータを多種多様のウェブサービスやプロダクトに落とし込むことができた。そして、最も重要なことに、かつては帯域制限にひっかかることなく大量のデータをリクエストすることができた。

ここ数年で、その状況は大きく変わった。悲しいことではあるが、その変化を示すための例としてZyngaの栄光と没落の歴史を見てみよう。かつてFacebook Graph APIから利用できるデータの範囲が広かったころ、Zyngaは他のどの企業よりもGraph APIを有効に活用し、素晴らしいゲームビジネスを構築することに成功した。しかし、それから数年が経ってFacebookがGraph APIに制限を加えたことで、Zyngaはその著しい成長のスピードと同じ速度で坂を真っ逆さまに転がり落ちることになったのだ。同様に、大小さまざまな企業がその変化に対応することができずに没落していった。

サービスやプロダクトを開発する者たちは、キャンディーに惹きつけられるお金のない子どものようにソーシャル・ビックデータをもつ企業に夢中になってしまう

サービスやプロダクトを開発する者たちは、キャンディーに惹きつけられるお金のない子どものように、ソーシャル・ビックデータをもつ企業に夢中になってしまう。そこで与えられるのは、終わりのない誘惑と甘い香りの解決策だけだ。大企業のAPIドキュメンテーションには、ハイクオリティなデータを素早く手に入れられるだとか、ソーシャルグラフを隅々まで活用することができるなどと大きく謳われている。しかし、現実の世界と同じように、悪魔は細部に宿っている。注意した方がいい。もちろんデータを素早く入手することは可能だろう。しかし、いったんAPIの速度が制限されることになれば、ナイアガラの滝のように流れ込んでいたデータは、蛇口から漏れる水ほどにしか流れてこないだろう。データを素早く取得できなければ成り立たないようなビジネスは、その時どうなるだろうか。

ソーシャルグラフから細部に渡るデータを取得して、それを分析することも可能だろう。しかし、そこで得られる位置情報、ユーザーの人物情報、ハートの数、シェア数などのデータのなかで、本当に有益なものは全体の1%から3%ほどだろう。その小さな金塊にどれほどの価値があるだろうか。

結局、Zyngaやその他の名もなき企業たちが私たちに教えてくれたのは、他社のビジネスがあって初めて成り立つビジネスを構築するべきではないということだ。そのようなビジネスは他社の気まぐれに大きく左右されてしまうからだ。データを持つ企業は、その公開範囲を自由にコントロールすることができる。そして、それによって企業の寿命や利益性が大きく左右されることになるのだ。

「ソーシャル」はビジネスの特徴の1つではあるが、それだけが頼りのビジネスを構築してはならない

草原が広がる約束の地はもう存在しない。データを無制限にリクエストしたり、ユーザー・データの細部まで入手できる時代はもう終わったのだ。その地に踏み入っていじめを受けるだけで済むなら良いほうだ。インターネットやソーシャル・ビジネスが成熟した今、本当の価値は壁で囲まれた庭に隠されているのだ。ユーザー・データを自社のコアビジネスに限定して活用すれば広告料を稼ぎ出すことが可能だからだ。広告戦略が他社よりも優れている企業もなかにはいるが、対価を払えば不自由なくデータにアクセスできるというビジネスモデルは絶滅していく。そのモデルを支えるにはマーケットが小さすぎるのだ。

それでは、これからのビジネスはどうあるべきであろうか?まだ可能性は大きく残されている。ただ、これまでとは違った見方で物事を考えればいい。「何かアイデアを思いついてみせる。それを成長させるために既存のコミュニティを活用する」と考えるだけではダメだ。今のAPIはそれを許してはくれない。最近のところでいえば、UberやPinterest、Snapchatがそうであるように、起業家は新しいコミュニティを活用する方法を考え出さなければならない。より縦断的で何かに特化したビジネス、つまり「共通の趣味・関心を持つ者のコミュニティ」を利用したビジネスだ。

「ソーシャル」はビジネスの特徴の1つではあるが、それだけが頼りのビジネスを構築してはならない。土台もなしにソーシャルの事ばかりを考えていても、誰にも利用されることのない「非ソーシャル」なアプリしか生まれない。それは間違いなく、失敗への近道なのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

 

投稿者:

TechCrunch Japan

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