不動産の受益権を仮想通貨のテクノロジーで発行した「トークン」として売買できる──ざっくり言うと、これがビットプロパティーが開発中のサービス「分散型eREITプラットフォームサービス(仮称)Bitproperty」の内容だ。この2016年秋のリリースを目指して開発を進めている。サービス開始に先駆け、2016年6月17日よりクラウドセールを開始する(プレスリリース)。クラウドセールでは、同社の最初の不動産資産となる予定の沖縄県石垣市のメガソーラー(太陽光発電所、写真)の資産を組み入れた「BTPトークン」を、ビットコイン建ておよび法定通貨(米ドル、日本円)建ての両方のやり方で販売する。すでに国内外の機関投資家を対象にBTPトークンの販売を開始しており、過去5カ月間で約2万BTC(記事執筆時点のレートである1BTC=約7万3000円で換算すると14億円6000万円相当)のトークンを販売したとのことだ。
ビットプロパティーは世界各国に展開するグローバルな事業体として2015年7月に始まった(グローバルWebサイト)。2015年12月には日本法人のビットプロパティー株式会社を設立している。登記上の本社はセーシェル共和国にあり、経営戦略とアセット管理はシンガポール法人が担当、日本法人はプロモーションとカスタマターサポートを担当する。英国ロンドンの法人はデザインとブランディングが担当だ。ほか、合わせて世界7拠点で活動しているとのこと。ビットプロパティー日本法人のCEOである小川晋平氏は複数回の起業経験があり、一般社団法人クリプトカレンシー協会の設立にも関わっている。
構築中の「分散型eREITプラットフォームサービス(仮称)Bitproperty」とは、ブロックチェーン技術Ethereumプラットフォーム上に構築するスマートコントラクト(自動執行する改ざん不能のプログラム)により不動産の権利を小口化した「BTPトークン」を発行し、ビットコインなど仮想通貨建てで販売するもの。きわめてリキッドな(=摩擦なく動かせる)特徴を持つ仮想通貨テクノロジーにより不動産の受益権を小口化し、国境を越えて誰でも売買できるようにする。さらに、今回のメガソーラーが発電する電力のような再生可能エネルギーのP2Pマーケットも視野に入れている。Ethereumプラットフォームの本来の仮想通貨であるEther建てでの販売も「検討している」と小川CEOは話している。
こうしたグローバルな事業体の中核にあるのは、会社組織というより国際的なソフトウェア開発プロジェクトだと理解した方が実態に近いようだ。小川CEOは「DAO(Decentralized Autonomous Organization)のような組織だ」と説明する。Ethereumプラットフォーム上のスマートコントラクトなどソフトウェア開発では、同社の外部の開発者や開発会社も参加して進めている。開発成果はGitHubで公開する方向だ。BTPトークンの販売で得られた資金は、(1) 開発費、(2) シード投資家への還元、(3) マーケティング費用、(4) 今後の資産の売買代金に充てる。開発メンバーにはストックオプションのようにBTPトークンが渡されていて、それが開発者にとってのインセンティブともなっているということらしい。
BTPトークンの裏付けとなる最初の不動産物件は沖縄県石垣市のメガソーラー(太陽光発電所)で、現時点の所有者は沖縄県那覇市の不動産会社である日建ハウジングだ。今後、ビットプロパティーが買い取る予定としている。資料によれば、このメガソーラーは土地面積1万9750平方メートル、発電出力 1964.5kw、資産価値は15億円。日本政府の「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」により1kw/hあたり40円(税別)の固定価格で20年間の電力買い取りが保証されている。2014年8月-2015年7月の実績を見ると、季節変動はあるが1カ月で10万〜28万kWhを発電し、約442万円/月〜1235万円/月を売り上げ、利益総額は約7652万円/年、利回り5.1%/年の実績を上げている。
歴史が長い不動産業界で新規参入のスタートアップがどれだけ影響力を持てるのかという疑問があるが、最初の1社目を説得できたことは同社にとって重要な一歩だと思う。ビットプロパティーとの協業について、日建ハウジングは「直感的に『手伝うよ!』と言葉が出た」「沖縄県を世界中に紹介してくれる、認知が高まれば、沖縄経済にもプラスに働く」と話している。ビットプロパティー日本法人はプロモーションを主業務とする訳だが、こうした話を聞くと「なかなかやる」と思わされる。今後、ビットプロパティーは仮想通貨分野の勢いを味方に付けながらビッグプレイヤーとも手を組んでいく方向で考えているようだ。なお、後述するようにビットプロパティーは自社で不動産資産を持つことよりも、分散型eREITを発行、取引するプラットフォームのビジネスにフォーカスしていきたい考えだ。
海外投資家にメリット、透明性と流動性に期待
日本の証券取引所には、不動産物件の受益権を証券化したJ-REITが上場されている。このJ-REITと比べた分散型eREITのメリットは何か。
まず、クラウドセールの段階でのメリットは、ビットコインで購入できるので海外投資家が参入しやすいことだ。ビットプロパティーの小川CEOは「中国の投資家は重視している」と話す。ビットプロパティーでは、分散型eREITのほか海外投資家向けに不動産物件をビットコイン建てで販売するビジネスも展開する。ちなみに、TechCrunchでは海外投資家が不動産投資をする需要に対応したレジュプレスのビットコイン決済サービスの記事を載せている。不動産とビットコインは海外の投資家にとって魅力的な組み合わせなのだ。
開発中の「分散型eREITプラットフォーム(仮称)Bitproperty」がリリースされた時点でのメリットは、透明性と流動性だ。スマートコントラクトの内容は公開されるため透明性は高いといえる。またBTPトークンは仮想通貨と同様に小さな単位に分割して世界中どこからでも売買でき、流動性が非常に高い。この枠組みがうまく回れば、不動産ビジネスを変える可能性がある。
その半面、収益性とリスクは気になるところだ。eREITの収入は不動産物件の収益ということになるが、石垣市のメガソーラーの運用実績は利回り5.1%/年。ベンチャー投資の水準と比べるとおとなしい数字だ。事業の方向性を聞いたところ「不動産資産を増やす検討はしているが、それだけだと成長速度が遅い。分散型eREITのプラットフォームを提供していく形で成長していく」(小川CEO)とのことだ。前述のように開発者には「ストックオプションのようにインセンティブとしてBTPトークンが渡されている」という話からも、プラットフォーム事業を成長させ、それを織り込んでBTPトークンの価格が上昇することを期待している様子だ。
リスクの検討だが、現段階ではeREITは当局の規制の外側にある。先日国会を通過した仮想通貨法(資金決済法などの改正案)はまだ施行前だからだ。不動産の裏付けがあるので安全性が高いという見方もできるが、上場している株やJ-REITのような情報開示や統制の義務もないためハイリスクとの見方もあるだろう。なおビットプロパティーでは「当局の規制には従うし、弁護士にも相談して法令遵守に気を配っている」(小川氏)と話している。
BTPトークンの価格の振れ幅がどうなるか、ここは意見が分かれそうだ。不動産の収益というファンダメンタルズを根拠に価格が決まるとすれば、価格の振れ幅は比較的おとなしい商品になるだろう。だが、ビットプロパティーのeREITプラットフォームビジネスの将来価値への期待が織り込まれて価格に反映するなら、同社のビジネスの状況によりBTPトークンの価格は大きく変動する可能性がある。なお、BTPトークンの種類は現在は1種類だが、今後は「不動産の価値の取引単位となるBTP-Aと、株式のような性格を持つBTP-Xの2種類になることもありうる」としている。まだ検討中の段階ではあるが、そうなれば値動きの振れ幅が異なる2種類のトークンが出回ることになる。
仮想通貨/ブロックチェーンの分野では「Decentralized(非集権的)かどうか」という価値基準がある。このような価値基準で見るなら、ビットプロパティーは、スマートコントラクトによる自律的な運用を目指しているもの、会社組織があり不動産物件を持っているのでDecentralizedの要素が弱いという見方をする人もいるかもしれない。半面、事業主体の法人と資産があるのでリスクが低いと考える人もいるかもしれない。ここは立場により意見が分かれそうだ。
ところで、先日立ち上がったThe DAOでは、DAOトークンホルダーは案件を提案し投票する権利を持っていた。BTPトークン所有者がビットプロパティーのガバナンスに参加する可能性について聞いてみたところ「株を付与することや、SAR(会社の株価の増加分相当額を現金で受け取る権利)の形態で権利を渡すことを検討している」(同社)としている。
最後に大事な話を。この記事は投資を薦めるものではない。もし投資を検討する場合には事業内容をよく確認した上で、くれぐれも自己責任で取り組んでほしい。今回のクラウドセールにはプロモーションを担当する日本法人があり裏付けとなる不動産もあるが、安全性を重視する人向けの商品とはいえない。仮想通貨テクノロジー(ブロックチェーン技術)の未来に「張って」みたい人が投資する商品だと思う。