フィンテックSquareが音楽配信サービスTidalの過半数株を取得、ラッパーのジェイ・Z氏がSquareの取締役に

個人と企業の両方にサービスを提供しているフィンテック企業Square(スクエア)は米国時間3月4日、音楽ストリーミングサービスTidal(タイダル)の過半数の株式を取得したと発表した。2億9700万ドル(約320億円)ほどのこの取引では、アーティストであるパートナーは株保有を維持する。

SquareのCEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は自身の別の会社Twitter(ツイッター)を使ってこの取引を説明した。同氏はこの取引が疑念を生むと予想したようだ。確かにそうだろう。冒頭に、「なぜ音楽ストリーミング会社と金融サービス会社は協力するのか?!」と同氏は修辞疑問を書いた。

まったくだ。ドーシー氏の予想は、自身の会社がCash Appや他のSquareのプロダクトの成功を音楽の世界で再現することができる、というものだ。「新しいアイデアは交差するところで見つかる」と同氏は指摘し「音楽と経済」の合流はそうした1つの集合点だと主張した。

この取引では、ミュージシャンで事業家のJay Z(ジェイ・Z)氏がSquareの取締役に就任した。

この取引に対する最初の反応の中には否定的なものもあった。SquareとTidalがペアというのが奇妙に思える、と繰り返すのは簡単だ。そしてSquareは過去に似たような、しかし最終的に維持できなかった買収を行っている。例えば同社は2014年にフードデリバリーサービスのCaviarを買収し2019年にDoorDashに売却した。Squareがベンチャーレベルのリターンをこの取引で得たことはここでの論点にとって重要ではない。

しかしSquareとTidalのタイアップという強気のケースは同様にリターンを作れる。Squareは自社の時価総額の1桁のパーセンテージの額を使っただけだ。そしてアーティストに株を持たせ続けるという選択を通じてSquareは首尾よくアンバサダーのホストをブランドに取り込んだ。

そしてSquareが展開するカードリーダーで、多くのオフライン事業者のためにコマースゲームを一新したという点でドーシー氏は悪くない。ここ数四半期の零細事業者のように過去数年で物理的な世界からデジタルの世界へと移行した経済の一部である音楽に一撃を加えるのはどうしてダメなのか。

「セラーのエコシステム」であるSquareのビジネスユーザーはますますデジタルに移行している。直近の四半期決算で、セラーの総支払額における「店舗でのみ」の使用の割合は落ち込み「オンラインのみ」と「オムニチャンネル」がその落ち込みを補った。

Squareは消費者にフォーカスしたCash Appサービスでよく知られている。同サービスは2020年12月に月間アクティブユーザーが3600万人に達し、この数字は前年同月の2400万人からアップしたものだ。音楽ストリーミング会社と若者の利用が多いCash Appのタイアップを想像できるだろう。そしてSquareの会議室のテーブルにジェイ・Z氏がいることは同社をイノベーティブにするはずだ。同氏は斬新な見方を持ち込むかもしれない。

それから非代替性トークン(NFT)の疑問がある。これは最近、仮想通貨コミュニティ人気を引き起こしたデジタル資産の新たな形式だ。SquareがCash Appを通じて成長している仮想通貨事業を持っていること、そしてビットコインそのものに何億ドル(何百億円)も投資したことを考えて欲しい。Squareが音楽ベースのNFTをより大きな消費者ユーザーベースに持ち込むスペースがマーケットにあるか、というのは興味深い疑問だ。もし答えがイエスなら、Squareは今そのマーケットを作り出す主要な位置にいることになる。

おそらくSquareとTidalの取引はSquareが想像しているような将来の成長は生み出さない。しかし取引は安く、リーダーとしてジェイ・Z氏を獲得したことは勝利であり、企業防衛を演じるだけでは勝つことは難しい。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Square買収音楽ストリーミング

画像クレジット:Smith Collection/Gado / Getty Images

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。