ツイッターのジャック・ドーシーCEOが退任

CNBCは米国時間11月29日朝、Twitter(ツイッター)のCEO、Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏が、Twitterでの職務から退く見込みだと報じた。その直後、ドーシー氏自身はこの噂を認め、Twitterは詳細を記したプレスリリースを発表した。ドーシー氏の後任には、2011年にエンジニアとしてTwitterに入社し、2017年からCTOを務めてきたParag Agrawal(パラグ・アグラワル)氏が就任する。

「会社が『創業者主導』であることの重要性についてよく耳にします」とドーシー氏はTwitterのスタッフに宛てたメールの中で書いており、それをツイートした。「結局のところ、それは非常に限定的であり、単一障害点であると考えています。私は、この会社が創業者や創設者から脱却できるように努力してきました」と述べている。

ドーシー氏は、Twitter、そして消費者と企業の両方に決済・現金管理・送金サービスを提供している金融会社Square(スクエア)の両方のCEOを務めている。

Twitterの株価は、ドーシー氏が退任する可能性があるというニュースを受けて上昇し、週明けの取引時間中に序盤の利益を手放した後、本稿執筆時点で6.1%上昇している。

Twitterによると、ドーシー氏は2022年の株主総会で任期が満了するまで同社の取締役にとどまる。ドーシー氏の退任と同時に、取締役会会長Patrick Pichette(パトリック・ピシェット)氏の後任として、Bret Taylor(ブレット・テイラー)氏が指名された。ピシェット氏は取締役会に残り、引き続き監査委員会の委員長を務める予定だ。

参考までに、Twitterの11月29日時点の価値は約400億ドル(約4兆5485億円)となっている。しかし、990億ドル(約11兆2575億円)強の公開市場価値を持つSquareの半分以下だ。

1社だけでも上場企業を運営するのは大変だ。2社を運営するのは並大抵のことではなく、簡単なことではないと思われる。Squareの株価も、11月29日の朝は若干ではあるが上昇している(CEOが時間を分散していることでTwitterは投資家の反感を買っていた)。

Salesforce(セールスフォース)の社長兼COOであるブレット・テイラー氏は、Twitterの取締役会長にも就任する。

ドーシー氏は「これは私が決めたことであり、私の責任であることをみなさんに知っていただきたいと思います」と書いている。「自分のエゴよりも会社を選んだ創業者は多くありません。これが正しい行動であったことを証明できると信じています」、

すばらしいプロダクト展開

Twitterのリーダーシップとプロダクトの方向性は長年にわたり、保守的すぎる、遅すぎる、あるいはその両方であるという批判を受けてきた。しかし、ここ数四半期はTwitterの新プロダクトやサービスの開発・出荷能力が加速していた。

Twitterの機能は、ツイートできる文字数を増やすなどの大きな変更を除いて、何年もほぼ停滞していたが、数多くの新機能を導入し、買収も行なってきた。

TwitterはSpacesでライブオーディオに参入し、Ticketed Spaces、Tip Jar、ライブストリームショッピングなどのマネタイズ機能を導入した(FacebookやInstagramなどのMetaアプリもeコマースに関してはペースを上げてきている)。最近では、よりカスタマイズ可能なユーザーエクスペリエンス(ツイートの取り消し機能など)を提供する月額2.99ドル(約340円)のサブスクサービスTwitter Blueを開始した。

関連記事
さまざまな便利機能が使えるツイッターの有料サブスク「Blue」が米国とニュージーランドでも提供開始
ツイッターがスレッドをまとめて共有するアプリ「Threader」を買収
ツイッターがグループチャットアプリSphereを買収、さらに進む同社のプロダクト拡充
TwitterがオランダのニュースレタープラットフォームRevueを買収、作家が報酬を得る方法を提供

Twitterはまた、サービスにさらなる機能を追加するために買収も行なった。2021年これまでのところ、Threader(Twitter Blueのスレッド閲覧機能の開発に貢献)、Sphere(グループソーシャルメッセージングアプリ)、Breaker(Spacesの開発に貢献)などの企業を買収しており、中でも注目すべきは、ライターが自分の投稿をプロフィールに直接リンクできる便利なニュースレタープラットフォームであるRevueだ。

最後に、ドーシー氏が暗号資産に興味を持っていることは公になっている。同氏のTwitterの経歴は文字通り「#bitcoin」だけだが、同氏だけが会社の支持者ではない。Twitterは、ユーザーが自分のプロフィールにNFTを表示する方法に取り組んでおり、もっと広く言えば、Twitterは分散型ウェブプロジェクトであるBlueskyを有している。しかし、ドーシー氏の退任は、特に同社が2021年11月初めに暗号資産専門チームを構築すると発表したこともあり、Twitterの暗号資産の勢いを緩めたりはしないかもしれない。当時、同社はTechCrunchに対し、アグラワル氏は新しい暗号資産チームと協力してTwitterにおける暗号資産の将来について検討し、ブロックチェーン技術によるソーシャルメディアの分散化に向けた取り組みを支援する、と述べていた。

なお、今回のニュースに関する詳細なコメントを求めたところ、同社からすぐには回答は得られなかった

関連記事
Twitterが描く分散化の未来、包括的なオープンスタンダードに向けた展望はインターネット極右を追い詰めるか
ツイッターが暗号技術チーム「Twitter Crypto」設立、ブロックチェーンとWeb3の研究拠点を目指す

画像クレジット:Amal KS/Hindustan Times / Getty Images

原文へ

(文:Alex Wilhelm、Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

フィンテックSquareが新有料サービス「Invoices Plus」発表、人気の「Square 請求書」がサブスクに

Square(スクエア)の人気が高い無料の請求書発行ソフトウェアが、同社の次の大規模なサブスクリプションサービスとなるようだ。同社は「Invoices Plus(インボイス・プラス)」と呼ばれる有料のサブスクリプションサービスを発表する準備を進めている。このサービスでは、これまで無料サービスで提供されていた機能を含め、一連の高度な機能が販売業者に提供される。このサービス自体は、個々の販売業者にはひっそりと紹介されていたものの、まだ公式には発表されていない。

すでにSquare Invoices(Square 請求書)を利用している一部の販売業者には先日、メールで近々行われる変更の知らせが届いている。

一部の販売業者に共有されたその知らせ(その詳細は、Square販売者コミュニティのフォーラムでも見ることができる)によると、新しいサブスクリプションには、過去1年間に限定的なトライアルの一環としてリリースされた一連の機能が含まれるという。

それは例えば、複数パッケージの見積書、カスタム請求書テンプレート、カスタム請求書フィールドなどで、これらの機能はInvoices Plusに含まれることになる。さらに他にも2つの機能、受領した見積書を請求書に自動的に変換する機能と、マイルストーンに基づいて支払いスケジュール(3回以上の分割払い請求書)を作成する機能が追加される。Squareの発表によると、同社ではSquare Invoicesのこれらの機能の横に「トライアル」ボタンを設置し、今後導入される機能について顧客に知ってもらうようにするとのこと(下の画像を参照)。

画像クレジット:Square website

Squareの無料の請求書作成ソフトウェアはなくならない、と発表では明記されている。販売業者は、無料プランを利用することで、無制限の請求書を無料で送付できる他、見積書や契約書なども作成することができる。請求書のトラッキング、リマインダー、レポート作成ツールなども利用できる。

これまで、無料プランの収益は、処理手数料に依存していた。Squareのウェブサイトによると、現在は小切手またはデビットカードでオンライン決済された請求書1件につき2.9%+0.30ドル(約33円)、およびACH送金1件につき1%の手数料がかかる(対面で決済の場合は手数料が若干低く「Card on File」による決済では若干高くなる)。新たな有料サービスの価格は、まだ発表されていない。

あるSquareの従業員が、コミュニティフォーラムサイトで、この変更の理由を説明している。同社ではSquare Online(スクエア・オンライン)、Appointments(アポイントメンツ)、Square for Retail(スクエア・フォー・リテール)、Square for Restaurants(スクエア・フォー・レストラン)など、Squareの他の製品の多くが、無料版と有料版の両方を提供していることを指摘している。また、SquareはSquare Invoicesの処理手数料を徴収しているものの、製品開発を推進するにはそれだけでは十分ではない。Invoices Plusでは、有料の請求書発行アプリや製品と、それらの製品によるさらに高度な機能を提供し、より直接的に収益を獲得することを目指すという。

Squareにコメントを求めたところ、同社はInvoices Plusが近日中に発表を予定しているソフトウェアサブスクリプションであることを認めた。しかし、正式に発表されるまでは詳細を明らかにしようとしなかった。

iOSデベロッパーのSteve Moser(スティーブ・モーザー)氏は、Squareのアプリのコードにも、すでにこの新しいサブスクリプションへの対応が備わっていることを発見した。このコードによると、これまで有料専用の機能を利用していたユーザーは、当面の間、その機能を利用することができるようだ。しかし、発表にもあるように、販売業者が次にSquare Invoicesで新しいファイルを作成する際には、無料版で有料機能を使用することはできなくなる。

画像クレジット:Steve Moser

この新サービスの少し前に、Squareが発表した第2四半期の決算では、総売上高46億8000万ドル(5143億円)のうち、セラー事業の売上高は13億1000万ドル(約1440億円)、売上総利益は5億8500万ドル(約643億円)となっており、引き続き好調なオンライン事業の成長が、この業績を牽引している。

また、同社は後払い決算の大手企業であるAfterpay(アフターペイ)を290億ドル(約3兆1870億円)で買収する計画を発表し、より広範な決済市場を追求することへの関心を明らかにしている。この買収は、Afterpayの顧客がSquareのCash App(キャッシュ・アップ)を通じて毎月の分割払いを行えるようにすることで、Squareの異なる製品を結びつける方法を提供することにもなる。

SquareとAfterpayの統合は、将来的にさらに進む可能性もある。このことは、Squareがコミュニティフォーラムサイトで別の販売業者への回答の中で示唆している。同社の担当者は、古い回答を更新して買収のニュースを伝え、Squareは「現時点では統合のタイムラインを公表することはできません」と付け加えている。

関連記事
【コラム】次世代グローバル決済を生み出すAfterpayとSquareの融合
カード決済のSquareがビジネス向け銀行口座を提供開始
フィンテックSquareが音楽配信サービスTidalの過半数株を取得、ラッパーのジェイ・Z氏がSquareの取締役に
画像クレジット:Smith Collection/Gado / Getty Images

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】次世代グローバル決済を生み出すAfterpayとSquareの融合

編集部注:本稿の著者Dana Stalder(ダナ・スタルダー)氏は、Matrix Partnersのパートナー。PayPalの元コマーシャルチーフ(製品、販売、マーケティング)で、現在Matrix Partnersでフィンテック投資をリードし、消費者市場やエンタープライズソフトウェアにも投資している。

ーーー

フィンテックにとって米国時間8月1日は重要な日となった。AfterPayがSquareと合併することに合意した。この合意により、近年最も高い評価を受けている2つの金融テクノロジー企業が1つの企業になる道を歩み始める。

AfterpayとSquareは、世界で最も重要な支払いネットワークの1つを構築するポテンシャルを有している。Squareは大規模なマーチャント決済ネットワークを確立しており、またCash Appを介して、成長著しい消費者向け決済サービスを提供している。しかし、歴史的にみてこの2つの事業は統合されていない。SquareとAfterpayは、これらすべてのサービスを1つの統合されたエクスペリエンスにまとめることができる。

関連記事:Squareが3.19兆円で「今買って、後で支払う」後払いサービス大手Afterpayを買収

AfterpayとCash Appはそれぞれ数千万人の消費者を抱えており、SquareのセラーエコシステムとAfterpayのマーチャントネットワークは、いずれも年間数百億の決済ボリュームを記録している。オフラインレジとオンライン決済フローから、数タップで送金まで、SquareとAfterpayは次世代の経済的エンパワーメントの全容を物語ることになるだろう。

Afterpayの唯一の機関投資家として、私たちがどのようにしてここに至ったのか、そしてこの合併が消費者金融と決済業界の将来にとって何を意味するのかについて、いくつかの視点を共有したいと思う。

フィンテックにおける重大なイノベーション

世界の決済業界は、今後数十年間の勝者と敗者を決定する重大なイノベーションのサイクルを、5年から10年ごとに経験している。最近の大きな変化はNFCベースのモバイル決済へのシフトで、これについては2015年に寄稿しているが、主要なモバイルOSベンダー(VISA、マスターカードなど)はネットワークと消費者のニーズを巧みに橋渡しして、グローバルな決済スタックにおける地位を確固たるものにした。

AfterPayは、最新の決定的なイノベーションサイクルを引き起こした。シドニーのリビングルームでミレニアル世代のNick Molnar(ニック・モルナー)氏が構想したAfterpayには、ミレニアル世代はクレジットが好きではない、という重要な洞察がある。

ミレニアル世代は、2008年の世界的な住宅ローン危機の中で成人となった。彼らは若い頃、友人や家族が住宅ローンを積みすぎて家を失うのを目の当たりにしており、銀行に対する信頼はすでに薄れていた。また学生ローンもかつてない水準に達した。それゆえ、ミレニアル世代(そしてそのすぐ後に続くZ世代)がクレジットカードよりもデビットカードを強く好むのも不思議ではない。

しかし、パラダイムシフトを認識することと、それに対して何かを行うことは別物だ。ニック・モルナー氏とAnthony Eisen(アンソニー・アイゼン)氏は行動を起こし、最終的にそのコアプロダクトで歴史上最も急成長した決済スタートアップの1つを構築した。「Buy Now, Pay Later(BNPL、今買って後で支払う)」そして無利息のサービスだ。

Afterpayのプロダクトはシンプルだ。カートに100ドル(約1万1000円)分が入っていて、Afterpayでの支払いを選択した場合、銀行カード(通常はデビットカード)に対して2週間ごとに4回に分けて25ドル(約2730円)が請求される。無利息で、リボルビング債務もなく、適時支払いにかかる手数料もない。ミレニアル世代の消費者にとっては、高い金利やリボルビング債務といったクレジットカードの欠点を気にすることなく、デビットカードを使ってクレジットカードの第1のメリット(後で支払いができること)を享受できることを意味するものとなった。

良い面ばかりで、悪い面はない。誰が抗えるだろうか?ミレニアル世代を主な成長セグメントとしていた初期のマーチャントは、公正な取引を獲得した。Afterpayへの支払い処理にわずかな手数料を支払うだけで、かなり高い平均注文価値(AOV)と購入へのコンバージョンが得られる。これはwin-winの提案であり、多くの実績を得て、新しい決済ネットワークが生まれた。

画像クレジット:Matrix Partners

真似することが最もすばらしいお世辞となる

Afterpayは2016年から2017年にかけてはオーストラリア以外ではあまり知られていなかったが、2018年に米国に進出してビジネスを立ち上げ、2年目にして1億ドル(約110億円)の純収益を上げたことで注目を集めた。

Klarnaは米国でのプロダクト市場の適合性に苦慮していたが、Afterpayを模倣すべく事業を転換した。またAffirmは、従来からのクレジット事業を主な事業としており、売上の大部分を消費者利益から得ていたが、独自のBNPLオファリングに着目して導入した。その後PayPalが「Pay in 4」の提供を開始し、つい数週間前にはAppleがこの分野に参入するというニュースが報じられた。

Afterpayは世界的な現象を生み出し、今では業界のメインストリームプレイヤーに支持されるカテゴリーとなっている。このカテゴリーは今後10年間で世界の小売決済のかなりのシェアを獲得する軌道に乗っている。

Afterpayは、他とは一線を画している。同社は事実上あらゆる指標において常にBNPLのリーダーであるとともに、顧客のニーズに忠実であり続けることで、その地位を確立してきた。同社はミレニアル世代やZ世代の消費者をよく理解している。それはAfterpayユーザーとして人々が体験する、同社の声、トーン、ライフスタイルブランドに顕著に表れており、マーチャントネットワークにおいて戦略的に構築され続けている。それはまた、負債商品を旋回するユーザーに対して、Afterpayはクロスセルを意図していないという単純な事実からも明らかだ。

最も重要な点は、こうした消費者に対する理解の姿勢が、競合他社と比較した使用状況の測定基準に反映されていることにある。これは人々が愛着を持ち、利用し、信頼を寄せるようになったプロダクトであり、かつては得られなかった、伝統的な消費者信用を上回る良質で公正な条件を備えている。

Afterpay2021年度上半期業績発表

SquareとAfterpayの融合は完璧な調和

筆者はこれまで15年以上にわたって決済会社を手がけてきた。初期にはPayPalの黎明期を経験し、より直近ではMatrix Partnersのベンチャー投資家として活動している。しかしこれほどまでに、消費者やマーチャントに並外れた価値をもたらすポテンシャルを秘めた組み合わせは見たことがない。eBayとPayPalよりもはるかに優れている。

明確なプロダクトとネットワークの補完性を超えて、筆者とパートナーにとって最もエキサイティングな点は、価値と文化の整合にある。すべての人に向けられたより多くの機会があり、経済的なハードルが少ない未来のビジョンを、SquareとAfterpayは共有している。彼らがともにその未来に向かって前進する中で、筆者はこの組み合わせが勝者となることを確信している。SquareとAfterpayの融合により、世界の次世代決済プロバイダーが誕生するだろう。

関連記事
名刺の復活、株式公開はなぜ良いことなのか、BNPLはどこにでもある
年間ユニークユーザー数1580万人の後払い決済サービス「NP後払い」をテレビ通販「ショップチャンネル」が導入
アップルがApple Payに後払い決済機能を導入か

カテゴリー:フィンテック
タグ:AfterpaySquare合併決済サービスBNPLオーストラリアアメリカミレニアルコラム

画像クレジット:charles taylor / Getty Images

原文へ

(文:Dana Stalder、翻訳:Dragonfly)

Squareが3.19兆円で「今買って、後で支払う」後払いサービス大手Afterpayを買収

フィンテック界を揺るがす超大型案件として、Square(スクエア)は米国時間8月1日、オーストラリアの「後払い決済(BNPL、Buy Now, Pay Later)」サービスの大手Afterpay(アフターペイ)を290億ドル(3兆1900億円)で、すべて株式を対価として買収すると発表した。

買収価格は、7月30日のSquareの普通株式の終値247.26ドル(約2万7200円)をベースとしている。この買収は、一定の条件を満たすことを前提に、2022年第1四半期中に完了する見通しだ。Afterpayの直近終値96.66豪ドル(約7800円)に対し30%以上のプレミアムがついたことになる。

Squareの共同創業者でCEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、2社のフィンテック企業が「共通の目的を持っている」と声明で述べた。

「私たちは、金融システムをより公平で、利用しやすく、包括的なものにするためにビジネスを構築します。Afterpayはその原則に従い、信頼できるブランドを構築しました」と同氏は声明で述べた。「力を合わせ、Cash AppとSellerのエコシステムを上手く結びつけ、店舗と消費者にさらに魅力的な製品とサービスを提供し、パワーを彼らの手に取り戻すことができます」。

両社の結合により、他に類を見ない巨大な決済企業が誕生する。この1年半の間に「後払い」サービスは爆発的に普及し、特に若い世代を中心に、クレジットカードを使わず、利息も払わず、オンラインや小売店でどこにでもあるような分割払いのローンを利用するという考えが広まっている。

6月30日時点でAfterpayはファッション、家庭用品、美容、スポーツ用品などの業界の大手小売業者を含め、全世界で1600万人以上の消費者と約10万の加盟店にサービスを提供している。

両社の声明には、AfterpayのSquareグループへの加入により、SellerおよびCash Appのエコシステムに関するSquareの戦略的優先事項が加速することになる、とある。Squareは、Afterpayを今のSellerおよびCash Appのビジネスユニットに統合する計画だ。それにより「小規模な加盟店」であっても、精算時に今すぐ購入して後で支払うという選択肢を提供できるようになる。また、この統合により、Afterpayの利用者は、Cash Appで直接分割払いを管理できるようになる。Cash Appの利用者は、アプリ内で直接、加盟店やBNPLが選べる。

Afterpayの共同創業者で共同CEOでもあるAnthony Eisen(アンソニー・アイゼン)氏とNick Molnar(ニック・モルナー)氏は、取引終了後にSquareに合流し、Afterpayのマーチャント事業とコンシューマー事業をそれぞれ統括する。Squareは、Afterpayの取締役 1名を同社の取締役として任命する予定だ。

Afterpayの株主は、保有する株式1株につき、SquareのクラスA株式0.375株を取得する。これは、Squareの7月30日の終値ベースで、Afterpayの株価が1株あたり約126.21豪ドル(約1万200円)だったことを意味する。

この分野での統合がさらに進むのだろうか。それはまだわからないが、Twitter(ツイッター)上では、次にどんな取引が行われるかが話題になっている。米国では、2021年初めにライバル企業のAffirm(PayPalの共同創業者であるMax Levchin[マックス・レヴチン]氏が創業)が上場した。7月30日の終値は56.32ドル(約6200円)で、初値や直近52週間の高値である146.90ドル(約1万6200円)を大きく下回った。一方、米国で急成長を遂げている欧州の競合企業Klarnaは、6月にさらに6億3900万ドル(約703億円)を調達し、資金調達後のバリュエーションは456億ドル(5兆160億円)という驚異的な数字になっている。

米国の消費者をめぐるBNPLの戦いは、今回の取引でますますヒートアップすることは間違いない。

関連記事
グーグルがpringを買収した理由とは? 「米IT大手が日本の決済市場を席巻」は本当か
アップルがApple Payに後払い決済機能を導入か
「NP後払い」のネットプロテクションズがJCBと資本提携、約60億円の調達とともに事業連携を強化

カテゴリー:フィンテック
タグ:SquareAfterpay買収BNPL決済オーストラリア

画像クレジット:Smith Collection / Gado / Getty Images

原文へ

(文: Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

カード決済のSquareがビジネス向け銀行口座を提供開始

一歩ずつ、Square(スクエア)は新しい銀行を一から作っている。米国時間7月20日、同社は新たなプロダクト、Square Banking(スクエア・バンキング)の提供を開始した。当座預金口座と貯蓄口座にデビットカードとローンを組み合わせたサービスだ。Square Bankingを使えば金銭のことはすべてSquareを通じて簡単に管理できる、とスモールビジネスを説得したいと同社は考えている。

当初決済処理サービスとして始まったSquareは、2019年にデビットカードをビジネス顧客向けに提供した。こうすることでビジネスオーナーは、Square支払いを通じて得られたお金を別の銀行に送金することなく使い始めることができる。

この日の発表で、同社はデビットカードからさらに拡大して、当座預金口座と貯蓄口座を提供する。売上があるたびに、オーナーはそのお金を新しいSquare当座預金口座で利用できる。月間利用手数料や信用調査、最低残高などはない。

そしてこれは従来どおりの当座預金口座なので、自分専用の口座と銀行支店コードをもらえる。つまり、自分の口座で資金を直接入出金できる。舞台裏では、現在当座預金口座はSutton Bankが提供しており、預金はFDIC(連邦預金保険公社)に保証されている)。

Squareは貯蓄口座も提供開始した。自社の決済サービスを通じて顧客の売上を管理していることを活かしたサービスだ。利用者はSquareによる販売売上から貯蓄する割合を決めることができるので、毎日考えることなくお金を貯められる。売上税、新規の機器など異なるビジネスニーズごとにフォルダーを作ることもできる。

現在Squareは、年利0.50%を提供しているが、この利率が保証されているのは2021年末までだ。Square内の貯蓄口座と当座預金口座の間の資金移動は無料で即時に実行される。貯蓄口座もFDICに保証されている。

画像クレジット:Square

さらにSquareは、ビジネスローンを同社が提供する他のバンキングサービスと統合する。ローンサービスの名称であるSquare Capital(スクエア・キャピタル)ではなく、「Loans」(ローンズ)と呼んでいる。Squareは、Square Financial Services(スクエア・ファイナンシャル・サービス)の承認手続きを最近完了し、この融資商品が今後の会社戦略で重要な位置を占めることを明らかにした。

従来のビジネローンと比べて、Squareは返済方法を単純にした。日々のカード取引から一定のパーセンテージを天引きするので、売上の多い日には多く、少ない日には少なく返済する。ただし、ビジネスを一時的に閉鎖した時は60日ごとに最低金額を返済しなくてはならない。

Square Bankingは、現在対面販売やオンライン販売の決済手続きにSquareを使っているスモールビジネスにとって特に興味深いサービスだ。その人たちはSquare以外のビジネス銀行口座も持っている可能性が高い。しかし、Squareがバンキング製品に機能を追加し続けるうちに、別の口座の利用頻度がどんどん減っていくことに気づくかもしれない。

関連記事:決済のSquareが「より機敏に動く」ことを目指して銀行を設立

カテゴリー:フィンテック
タグ:Square

画像クレジット:Square

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Nob Takahashi / facebook

「今はイノベーションの黄金期」シリコンバレーの投資家イラッド・ギル氏とのインタビュー[後編]

シリコンバレーの起業家で投資家のElad Gil(イラッド・ギル)氏

爆速成長マネジメント」の著者でシリコンバレーの投資家で起業家でもあるElad Gil(イラッド・ギル)氏とのインタビュー後編。前編では初めての起業家が陥りやすい落とし穴とその回避策について、後編では新型コロナウイルスがスタートアップ業界に与えている影響と展望について話を聞いた。

前編:「スケールするために経営陣が必要」シリコンバレーの投資家イラッド・ギル氏に聞くスタートアップアドバイス[前編]

パンデミックがスタートアップに与えた影響

2020年は新型コロナウイルスの影響でスタートアップを取り巻く環境は大きく変わりました。どういった点がスタートアップにとってより難しくなったと思いますか。例えば、対面で話すことが減ったので、企業文化を作るのは難しくなっているかと思います。

ギル氏:企業文化を作ることについては、間違いなく以前より難しくなっています。企業文化は人が集まり、交流することで作られるものですから。社員がリモートワークしている会社からは、すでに出来上がっている仕組みに関してはそのまま維持して回せるけれど、何かイノベーティブなことをしたり、新しいことをしたりするのは難しくなったという話を聞きます。

2つ目は、いくつかの業界では事業を継続するのが非常に難しくなりました。例えば、私が知っているほぼすべての旅行系スタートアップは昨年から壊滅状態です。レイターステージだと、例外的な会社にTripActions(トリップアクションズ)が生き残っていますが、アーリーステージの会社のほとんどは事業を続けられませんでした。

3つ目は、新型コロナウイルスの影響で、多くの人は生き方を変えざるをえなかったことと関係します。在宅で子供を見なければならなくなったり、鬱や気分の落ち込みを経験したり。会社は社員のこうした問題に対処し、社員が新しく増えたストレスに対抗しながらも仕事を続けられる環境を整えなければなりません。

こうした課題にうまく対応しているスタートアップはありますか?

ギル氏:ビジネス面で急成長したところは多くあります。Stripe(ストライプ)、Instacart(インスタカート)、Zoom(ズーム)は、世界がオンライン化する中で急成長した企業の一例です。

企業文化の面でいうと、新型コロナウイルスが蔓延する中でも社員が交流できるよう、例えば、広い公園でマスクをつけて参加するミートアップを開催しているような会社があります。

会社によってはオンボーディングが難しくなったものの、採用はしやすくなったという変化もあります。採用しやすくなった理由としては時間や場所にかかわらず面接できるようになったからです。面接のためにオフィスを訪ねたり、仕事を休んだりする必要がなくなりました。ズームで話せばいいのですから。

オンボーディングが難しくなったのにはいくつか理由があります。GitLab(ギットラボ)は早くから社員のリモートワークに注力してきた会社で、彼らは社員のオンボーディングを3つのカテゴリーに分けています。コンピューターやメールの設定といった技術面でのオンボーディング。業務や役割、目標の設定といった組織面でのオンボーディング。最後に文化面でのオンボーディング。ですが、この3つはどれもリモートで行うのが難しいのです。

コロナ後の世界はどうなると思いますか?

ギル氏:2つの相反する力が世界に働いているように思います。現在のインターネットは、10年前と比べると10倍以上の規模になっていて、この拡大規模は10年前の人たちの想像を遥かに超えているでしょう。インターネットで過ごす時間が増え、たくさんのモバイル端末があり、仕事関連のアプリも大量に出現し、仕事でインターネットを使う時間も増えました。なので、今日設立したどの事業にも、5年、10年前と比べると、10倍規模になる可能性があるということです。つまり、10年前に1000万ドル(約10億円)の売上があった事業は、今やれば1億ドル(約107億円)規模の事業になる可能性があるということです。そして世界中のどこからでも、大規模な会社が作れるようになりました。

これは「分散化」のトレンドですが、一方で「集中化」のトレンドも同時に起きています。

特定の都市に特定の業界の人が集まっているのが、もう1つの重要なトレンドです。業界別に見ると、1つか2つの都市にその業界の物理的な拠点があるのが分かります。例えば、映画業界で仕事をしたいという人に向かって、「どこに住んでもいい」とアドバイスする人はいません。米国なら「ロサンゼルスに住まないとダメだ」と言うはずです。脚本はどこにいても書けるし、撮影も、映像編集も、音楽制作もどこにいてもできますが、それでも最終的に全員、ロサンゼルスに集まります。

世界の都市は業界ごとにまとまるようになってきています。金融だったら、資金調達をするのも、トレード戦略を考えるのもどこにいてもできますが、米国のヘッジファンドのほとんどはニューヨーク州とコネチカット州に集中しています。その理由は、サービスプロバイダーが重要で、経営陣が重要で、人と人のネットワークが重要だからです。新型コロナウイルスで世界の状況は変わりましたが、それでもなお、人は特定の場所に集まって活動を続けるでしょう。スタートアップをする人たちは特定の地域に集まって会社を立ち上げるといった傾向が続くと思います。

新たにスタートアップを立ち上げるとしたら、どのような分野に可能性があると思いますか?

ギル氏:家の地下室で仕事をしている私より、外でいろいろと動き回っている起業家たちの方が良いアイデアを持っているのは間違いないでしょう(笑)。新しいことを始めようとしている起業家集団の方が、どんな個人よりも素晴らしいアイデアを持っているものです。とはいえ、いくつか興味のある分野があるのでお話したいと思います。

1つ目は、バーティカルのコラボレーションSaaSです。例えば、Figma(フィグマ)によってデザインチームがオンラインで協力しながら仕事を進められるようになったのと同じように、財務チームが協力して財務計画を立案したり、データチームが協力して分析やアナリティクスをしたり、BI(ビジネスインテリジェンス)チームが協力して事業に関わるデータの分析ができたりするようなツールです。社内の特定の部署に特化したバーティカルのコラボレーションツールには可能性があるのではないかと思っています。

2つ目は、コンシューマー向けソーシャルアプリです。世界にはまだ、新しいソーシャルな行動が生まれ、広まる余地があると思っています。その理由は、世代間の違いがあるからです。若い人たちは新しいソーシャルネットワークを求めています。Clubhouse(クラブハウス)で人々が突然音声の魅力に気づいたのと同じように、他にも人々の行動を変えるような新しい形のソーシャルネットワークやリアルタイムコミュニケーションが登場するのではないかと思っています。

現在、膨大な量のイノベーションが起きています。例えば、AngelList(エンジェルリスト)を見ると5年前に比べて、スタートアップの数は5倍、10倍に増えています。これは新しく設立したスタートアップの実数ベースの話です。半導体や機械学習、さまざまなSaaS、防衛技術、不動産など、あらゆる分野でイノベーションが同時進行に起きていて、今はイノベーションの黄金期と言えるのではないでしょうか。

2021年4月14日にCoinbase(コインベース)が上場しています(ギル氏はコインベースの初期からの投資家)。暗号資産(仮想通貨)の領域はどう見ていますか。

ギル氏:暗号資産の領域はとても楽しみにしています。コインベースのIPOは、Netscape(ネットスケープ)がIPOした時のように捉えられるようになるのではないかと思っています。かつてネットスケープの上場で、インターネットがメインストリームの存在になると世間の人々が気づいたように、コインベースの上場は、ウォール街や既存の金融業界に対し、暗号資産が世界にとって重要であることを知らせる大きな契機になるのではないかと思っています。

関連記事:「スケールするために経営陣が必要」シリコンバレーの投資家イラッド・ギル氏に聞くスタートアップアドバイス[前編]

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:CEO経営インタビューシリコンバレーAirbnbCoinbasePinterestSquareStripe新型コロナウイルス

「スケールするために経営陣が必要」シリコンバレーの投資家イラッド・ギル氏に聞くスタートアップアドバイス[前編]

シリコンバレーの起業家で投資家のElad Gil(イラッド・ギル)氏

2021年3月18日、シリコンバレーの起業家で投資家であるElad Gil(イラッド・ギル)氏の著書「High Growth Handbook」の日本語版である「爆速成長マネジメント」(日経BP)が発売となった。

著者のギル氏は投資家やアドバイザーとして、Airbnb(エアビーアンドビー)、Coinbase(コインベース)、Pinterest(ピンタレスト)、Square(スクエア)、Stripe(ストライプ)など世界でも有数のテック企業に関わっている。起業家としての経験も豊富だ。2013年から2016年12月までColor Genomics(カラージェノミクス)の共同創業者兼CEOを務め、現在は会長に就任。カラージェノミクスの創業前はTwitter(ツイッター)でコーポレート戦略バイスプレジデントやM&A 、事業開発チームの担当を務めた。ツイッターに参画したのは、共同創業者兼CEOを務めていたMixer Labs(ミキサーラボ)がツイッターに買収されたことがきっかけだった。それ以前は、グーグルに在籍し、モバイルチームの立ち上げなどに関わった。

「爆速成長マネジメント」はギル氏の知見と、シリコンバレーで活躍する投資家、起業家たちとのインタビューを多数収録し、レイターステージのスタートアップが直面する資金調達やマネジメントの課題に対する具体的な対応策が学べる1冊となっている。

今回、私は本書の翻訳に関わった縁で、ギル氏をインタビューする機会を得た。インタビューは2021年4月15日にClubhouse(クラブハウス)上で行い、本書を共訳した翻訳者で連続起業家の浅枝大志氏と日経BPの担当編集者である中川ヒロミ氏も参加した(各人から記事化の了承を得ている)。今回のインタビュー記事は前編と後編に分け、前編は数多くのスタートアップと関わってきたギル氏が指摘するスタートアップが陥りやすい落とし穴とその回避策について、後編は今後のスタートアップ業界の動向についてまとめている。記事はギル氏の発言通りに翻訳しているが、分かりやすさと簡潔さのために多少編集を加えている。

起業家へのアドバイス

はじめに、本書を書くことになったきっかけについて教えてください。

ギル氏:アーリーステージファウンダー向けのアドバイスはたくさんありますが、急激に成長しているスタートアップ向けのものはあまりありません。その理由は、スタートアップの多くは急激な成長する段階まで到達しないからです。ほとんどのスタートアップは失敗します。なので、レイターステージのスタートアップやファウンダーからよくある質問に対する答えと、スタートアップがスケールするための戦術をまとめようとしたのが始まりです。

もともと本ではなくブログ記事をまとめたスタンドアローンのウェブサイトを作る予定でした。けれど、サイトをローンチする数日前に、ストライプの創業者の1人であるJohn Collison(ジョン・コリソン)に見せたところ、「本として出版した方がいいんじゃないか」と言われ、Stripe Press(ストラププレス)(注釈:ストライプの出版事業)から出すことになりました。

本書には起業家向けのアドバイスが多く載っていますが、初めて起業する人は特に何に注意すべきでしょうか?

ギル氏:アーリーステージの会社はレイターステージの会社とは状況が大きく異なるので、ステージごとに気をつけたい点は違います。アーリーステージの優先事項の1つは、プロダクトマーケットフィットに到達することで、これを達成するのは非常に難しいでしょう。2つ目は、共同創業者と喧嘩しないで会社をうまく回すことです。これも非常に難しい場合があります。この2つを達成できれば、第一歩が踏み出せるはずです。

レイターステージに入ると、より多くのことを達成するためにどのように組織を作ってスケールさせるか、ユーザーのニーズにどう対応するか、海外展開、M&Aなど、注力すべき点が変わっていきます。これらを突き詰めると、やるべきことは、社員全員に明確な方向性を示すこと、その方向性を追求するために必要な資金を確保すること、磐石な経営陣を揃えることの3つであると言えます。経営陣が揃えば、会社が小さかった頃には着手できなかったことができるようになります。

CEOが間違えやすい、ミスしやすいのはどういうところでしょうか?

ギル氏:これはCEOの過去の経験によると思います。例えば、初めて起業したCEOと2回目のCEOを比べると、つまり事業をスケールさせたことがある人とない人という意味ですが、2回目のCEOはかなり早い段階から強力な経営陣を揃え始めます。けれど、初めての起業家はそれを疑問に思うでしょう。なぜ上層部ばかり強化するのか、なぜそんなに多くのVP(バイスプレジデント)が必要なのかと。しかし、一度急激なスケールを経験していると、経営陣を揃えることがいかに重要かが分かります。これが1つ目です。

初めての起業家がよく間違える2つ目のポイントは、最初のプロダクトをマーケットに投入した後のイノベーションの頻度についてです。一般的に、早くから2つ目のプロダクトを開発してノベーションを起こせる会社は、その後も継続してイノベーションが起こせます。一方でイノベーションが遅い会社は、2回目のイノベーションがなかなか起こせません。具体例として、ストライプは決済やローンに関わるプロダクトを次々と出しているのに対して、eBay(イーベイ)はいまだに2つ目のプロダクトを出せていません。

3つ目はSaaSやB2Bの分野に特化した話にはなりますが、プロダクトやエンジニアリングを重視するファウンダーは、営業チームを作ることを後回しにしてしまいがちという点です。ボトムアップのグロースや顧客獲得にばかり注力してしまうと、より大きな法人契約を獲得するチャンスを逃してしまいます。例えば、slack(スラック)は法人営業のチームを早くから追加してこなかったため、Microsoft(マイクロソフト)のような会社との戦いで苦戦を強いられています。

「経営陣の構築」「イノベーションの頻度」「営業の採用」と初めての起業家が間違えやすい点を3つ指摘していましたが、これらを回避するにはどうすればいいでしょうか。

ギル氏:経営陣を採用するところに関しては「スケールするために経営陣が必要」というマインドセットに変える必要があります。

営業チームについては、営業を採用することに対しての恐怖心を脇に置くことです。先日、営業を雇うのに抵抗を感じる理由についてのブログ記事を読んだのですが、その理由はたいてい、企業文化に合わないのではないかとか、営業チームを整える準備ができていなのではないかとかいう不安やボトムアップでの顧客獲得しかしたくないという感情的な理由がほとんどであると指摘していました。これに関しては率直に言って、そうした感情を振り切り、実行するしかありません。慣れないことをやるということですが、慣れないことをやるのが大抵の場合、最良の施策なのです。

「イノベーションの頻度」についてはどうでしょうか?

ギル氏:これにはいくつかポイントがあると思っています。会社の初期の段階では事業に注力し、コアプロダクトの再現性があるかしっかり確かめなければなりません。それはつまり、1000万ドル(約11億円)から3000万ドル(約32億円)ほどの収益があり、SaaS企業ならマーケットアプローチの方法を確立していて、コアビジネスをスケールさせるために社内にマネジメント層の基盤ができているか確認するということです。まずはコアビジネスがうまく回っている状態にすることが先決です。

2つ目は、新規事業のためにいくらか独立したリソースを用意することです。新規事業にはリーダーとなる人材やエンジニア、その他社内のリソースが必要になります。また全社員に「この新規事業は会社にとって重要で注力する価値がある」と納得してもらわねばなりません。なぜなら、社内のコアビジネスに携わる人は、リソースがあるなら自分たちのところに投入してほしいと考えるからです。彼らはコアビジネスをスケールさせる中で手薄になっている部分があると感じているでしょう。そのため彼らは会社が新しい事業を始めるのに対して疑問を持ちます。優先順位と組織内での線引きを明確にし、新規事業を作ることが会社にとって重要であると社員に分かってもらうようにしなければなりません。

CEOとして成長する方法

CEOはさまざまな問題に対処しなければなりませんが、CEOとして成長するためにはどのようなことができますか。CEO仲間を作ること、VCからアドバイスをもらうことなどが考えられますが、何が一番有効でしょうか。

ギル氏:私の知っている中で、うまくファウンダーとして、あるいはCEOとして活躍している人は、いくつかのことをしています。

1つは、CEOのネットワークを作っています。同じステージの会社のCEO、あるいは自分の会社より2年先を進んでいる会社のCEOとのネットワークを作っています。2年先の相手は、自分たちの抱える問題に共感でき、タイムリーで今の状況に合った良いアドバイスができます。5年、10年離れていると、劇的に状況が変わっていることがあるのです。

2つ目は、自分の会社とはまったく違うビジネスをしている人と話をしています。例えば、大規模な売上のある非上場のファミリービジネスのCEOの話を聞きに行くようなことです。何十億ドル(何千億円)規模の売上のある会社に話を聞きに行き、どうやって会社を運営しているのか、どうような報酬体系を採用しているのか、問題が発生した時はどのように対処しているのかなどを聞いています。優秀なCEOは成功の原則を普段とは違う場所で探し、自分のビジネスにも適用できそうなアイデアを学んだり、抽出したりしようとしています。

自分と近い分野で動いているCEO仲間から学ぶことに加え、まったく違う分野だけれど、とてもすばらしい成果を出している人から学ぶこと。この2つを組み合わせるのが良いのでしょう。

アドバイスという点でVCに期待できることはありますか。

ギル氏:VCは役に立つことはありますが、そのVCによります。その人が誰で、どんな経験を持っているのか、その人から何を学びたいのかによるということです。例えば、会社の上場に関わってきた経験が多いVCの取締役がいれば、その人から会社を上場させる方法について優れたアドバイスが聞けるでしょう。一方で、会社のオペレーションに関わったことのないVCもいます。その人は経営の戦術的なところでいくらか助けになってくれるかもしれませんが、毎日のオペレーションで役立つアドバイスはあまり期待できないかもしれません。

VCは基本的にアドバイス、ガバナンス、資金の3つを提供するものと考えています。お金は比較的どこからでも調達できます。ガバナンスに関しては、経験があって信用できる人を探すのがいいでしょう。アドバイスは、会社のステージとどんな事業をしているのかによります。アーリーステージでは的確なアドバイスができる人でも、レイターステージの会社には良いアドバイスができない人もいるということです。会社が成功するまでには10年くらいかかるので、その間に経営陣をどう進化させていくかをしっかり考えるべきでしょう。

【編集部】後編は4月21日午前9時に公開予定

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:CEO経営インタビューシリコンバレーAirbnbCoinbasePinterestSquareStripe

フィンテックSquareが音楽配信サービスTidalの過半数株を取得、ラッパーのジェイ・Z氏がSquareの取締役に

個人と企業の両方にサービスを提供しているフィンテック企業Square(スクエア)は米国時間3月4日、音楽ストリーミングサービスTidal(タイダル)の過半数の株式を取得したと発表した。2億9700万ドル(約320億円)ほどのこの取引では、アーティストであるパートナーは株保有を維持する。

SquareのCEOであるJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は自身の別の会社Twitter(ツイッター)を使ってこの取引を説明した。同氏はこの取引が疑念を生むと予想したようだ。確かにそうだろう。冒頭に、「なぜ音楽ストリーミング会社と金融サービス会社は協力するのか?!」と同氏は修辞疑問を書いた。

まったくだ。ドーシー氏の予想は、自身の会社がCash Appや他のSquareのプロダクトの成功を音楽の世界で再現することができる、というものだ。「新しいアイデアは交差するところで見つかる」と同氏は指摘し「音楽と経済」の合流はそうした1つの集合点だと主張した。

この取引では、ミュージシャンで事業家のJay Z(ジェイ・Z)氏がSquareの取締役に就任した。

この取引に対する最初の反応の中には否定的なものもあった。SquareとTidalがペアというのが奇妙に思える、と繰り返すのは簡単だ。そしてSquareは過去に似たような、しかし最終的に維持できなかった買収を行っている。例えば同社は2014年にフードデリバリーサービスのCaviarを買収し2019年にDoorDashに売却した。Squareがベンチャーレベルのリターンをこの取引で得たことはここでの論点にとって重要ではない。

しかしSquareとTidalのタイアップという強気のケースは同様にリターンを作れる。Squareは自社の時価総額の1桁のパーセンテージの額を使っただけだ。そしてアーティストに株を持たせ続けるという選択を通じてSquareは首尾よくアンバサダーのホストをブランドに取り込んだ。

そしてSquareが展開するカードリーダーで、多くのオフライン事業者のためにコマースゲームを一新したという点でドーシー氏は悪くない。ここ数四半期の零細事業者のように過去数年で物理的な世界からデジタルの世界へと移行した経済の一部である音楽に一撃を加えるのはどうしてダメなのか。

「セラーのエコシステム」であるSquareのビジネスユーザーはますますデジタルに移行している。直近の四半期決算で、セラーの総支払額における「店舗でのみ」の使用の割合は落ち込み「オンラインのみ」と「オムニチャンネル」がその落ち込みを補った。

Squareは消費者にフォーカスしたCash Appサービスでよく知られている。同サービスは2020年12月に月間アクティブユーザーが3600万人に達し、この数字は前年同月の2400万人からアップしたものだ。音楽ストリーミング会社と若者の利用が多いCash Appのタイアップを想像できるだろう。そしてSquareの会議室のテーブルにジェイ・Z氏がいることは同社をイノベーティブにするはずだ。同氏は斬新な見方を持ち込むかもしれない。

それから非代替性トークン(NFT)の疑問がある。これは最近、仮想通貨コミュニティ人気を引き起こしたデジタル資産の新たな形式だ。SquareがCash Appを通じて成長している仮想通貨事業を持っていること、そしてビットコインそのものに何億ドル(何百億円)も投資したことを考えて欲しい。Squareが音楽ベースのNFTをより大きな消費者ユーザーベースに持ち込むスペースがマーケットにあるか、というのは興味深い疑問だ。もし答えがイエスなら、Squareは今そのマーケットを作り出す主要な位置にいることになる。

おそらくSquareとTidalの取引はSquareが想像しているような将来の成長は生み出さない。しかし取引は安く、リーダーとしてジェイ・Z氏を獲得したことは勝利であり、企業防衛を演じるだけでは勝つことは難しい。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Square買収音楽ストリーミング

画像クレジット:Smith Collection/Gado / Getty Images

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi

決済のSquareが「より機敏に動く」ことを目指して銀行を設立

決済分野のイノベーションで知られるSquareが、正式に銀行になった。

1年前の2020年3月に条件つきの承認を得たSquareは、米国時間3月1日に同社の興業銀行であるSquare Financial Servicesの営業を開始したと発表した。Square Financial ServicesはFDIC(米連邦預金保険公社)とUtah Department of Financial Institutions(UDFI、ユタ州の金融機関局)の設立認可プロセスを完了し、営業を開始できることになった。

この銀行はユタ州ソルトレイクシティに本社を置き、事業資金融資と預金商品を提供する。まずはSquare Capitalの既存の融資商品に対する引受と事業資金融資のオリジネートから開始する。

これまでSquareはカードリーダーとPOS決済システムで知られ、小規模事業者に広く使われてきたが、近年では同社製品を利用する起業家や小規模事業者に対するクレジットの促進も始めていた。

Squareは今後、同社の銀行が「全米のSquare販売業者にとってメインの融資提供者」になるだろうと述べている。

SquareのCFO兼Square Financial Servicesの会長であるAmrita Ahuja(アムリタ・アフジャ)氏は発表の中で、銀行機能を社内に有することで「より機敏に動ける」ようになるだろうと述べた。

Square Financial Servicesは引き続き第三者の投資家に対して融資を販売しバランスシートのエクスポージャーを制限する。Squareは、銀行が2021年の連結バランスシート、売上高合計、売上総利益、調整後EBITDAに重大な影響を及ぼす見込みはないとしている。

同社は銀行を始めることで「Squareの独自性をさらに深め、融資やバンキングツールをこれまで十分にサービスを受けられなかった人々が利用できるようにしていく」と述べている。

Lewis Goodwin(ルイス・ゴールドウィン)氏が銀行のCEOに、Brandon Soto(ブランドン・ソト)氏がCFOになる。さらに以下の人事が発表された。

  • 最高リスク責任者:Sharad Bhasker(シャラド・バスカー)氏
  • 最高執行責任者:Samantha Ku(サマンサ・クー)氏
  • 最高クレジット責任者:Homam Maalouf(オマム・マアルーフ)氏
  • 最高コンプライアンス責任者:David Grodsky(デビッド・グロドスキー)氏
  • キャピタルマーケット&投資家リレーション担当:Jessica Jiang(ジェシカ・ジアン)氏

このところ、フィンテックが銀行になる傾向が見られる。TechCrunchは2021年2月にBrexが銀行の認可を申請したことを報じた。

BrexはEmigrant Bankが発行元となっているクレジットカードをスタートアップ向けにアレンジして販売している急成長中の企業で、同社はFDICとUDFIにBrex Bank設立の認可を申請したと発表した。

フィンテック企業やフィンテックサービスを提供する企業は、預金口座や小切手用の口座、クレジットなど通常は銀行が提供する商品を手がけてきた。こうした商品は、従来の金融機関から有利な条件で資金を調達することは難しくても自社をよく知る業者から事業構築のための融資を受けられる可能性がある企業に対して、資金を提供する設計になっていることが多い。自社をよく知る業者とは、例えばSquareだ。

カテゴリー:フィンテック
タグ:Square銀行

画像クレジット:Smith Collection/Gado / Getty Images

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Kaori Koyama)

SquareのP2P決済サービスCash Appが最大200ドルのローン機能を試験中

Square(スクエア)のP2P決済サービスCash Appが一部のユーザーに短期ローンを提供している。

現在ユーザー約1000人を対象に機能をテストしているだけだと同社は述べた。しかしより多くの人が利用できるようになるかもしれない。現在の米国や世界の経済状況、さらなる経済刺激策が不透明であることを考えた時、かなりの人が短期ローンを活用するというのは十分あり得る。

差し当たってCash Appは20〜200ドル(約2000〜2万円)のローンを提供している。利用者は4週間で返済し、一定金利は5%だ(1年以上になると金利は60%になる。かなり高いように聞こえるが、少なくともペイデーローンの平均よりはずいぶん低い)。

もし4週間後にローンを返さなければ、さらに1週間の猶予があり、その後SquareとCash Appは週ごとに1.25%の金利を上乗せする(複利ではない)。債務不履行だと新規のローンは利用不可だ。

「当社はCash Appで常に新機能をテストしていて、最近Cash Appの顧客約1000人とローン機能のテストを開始した」と広報担当は声明で述べた。「顧客からのフィードバック、そしてこの実験から何かしら得ることを楽しみにしている」

SquareはすでにCash Appの機能を、シンプルなピア・ツー・ピアの送金からCash Card(無料のデビットカード)、Cash Boost(リワード)、Cash App Investingなどへと拡大している。Cash App以外のところではSquare Capitalを通じて零細事業者にローンを提供している。

画像クレジット: Square

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi