フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)の電動ID Buggyコンセプトは愉快で、朗らかで、頑丈で、そしてなんとも微笑ましいものだ。陽射しや砂丘にぴったりの車で、ビーチでタイヤがはまってしまうことも少なそうだ。
そのため、この全電動バギーカーのプロトタイプにカリフォルニア州モントレーのスパニッシュ・ベイ近くの海岸で試乗したとき、悲しくなってしまった。結局、ID Buggyはコンセプトにすぎないのだ。現実のものとなることを意図されていない。少なくとも今のところは。
それでもID Buggyが生産される可能性はまだある。TechCrunchが把握しているところでは、VWはこのバギーカーを生産するために「少なくとも1社」とすでに協議している。
3月に開かれた第89回ジュネーブ国際モーターショーでのID BuggyコンセプトのグローバルデビューはVWの電動化の予想図を示し、モジュラー電動ドライブツールキットキャシーまたはMEBの多能さを宣伝するねらいがあった。2016年に発表されたMEBはフレキシブルなモジュラーシステムだ。VWが言うには、より効率的で費用対効果が高い電動車両を生産するための共通パーツの基盤となる。
このMEBプラットフォームを活用した最初の車両はIDブランドで展開される見込みだが、MEBはSkodaやSeatといったVWグループの他のブランドの電動車両にも活用することができ、また活用されることになりそうだ(独自のプラットフォームを開発しているVWブランドのAudiやPorscheでは使用されない)。
VWはすでにいくつかのIDコンセプトを発表している。ID CrozzやID Buzzといったコンセプトは生産される予定だ。Crozzの生産バージョンは2020年末に米国にやってくることが予想される。バギーのような他のコンセプトは今のところ生産の予定はない。
ID Buggyを運転してみて
ID Buggyはシンプルだ。そしてまさにそうあるべきなのだ。ごちゃついたものや、かなりの快適さといったものはない。その代わり、このレジャー車両はルーフやドアがない1960年代のMeyers Manxにインスピレーションを得ている。ドアがないので、ドライバーは登るようにして車両に滑り込む(比較的簡単だが、ドライバーの運動神経にもよるだろう)。
ID Buggyは、インスピレーションを得たMeyers Manxとはかけ離れている。Meyers Manxバギーは1960年代のカリフォルニアの「ビーチと波」カルチャーにおいて人気を得てアイコン的な存在となった。
ID Buggyの乗り心地はまた、Meyers Manxよりも静かでスムーズなものだった。私はまた、ガソリンで走る4速マニュアルの明るい赤色のバギーにしばらく乗ったが、1速にシフトを入れるとManxはうなり音をたてた一方で、電動のID Buggyは砂地の駐車場を走った時も静かでスムーズだった。
ID Buggy内部の主要細部に機能や仕掛けは見当たらない。上の写真にある通り、六角形のハンドルにはトグルが散りばめられていない。クロスバーにいくつかのコントロールボタンがあるだけだ。ハンドル右側の小さなストックで運転者はドライブ、バック、駐車を操作し、デジタル計器は速度など基本的な情報を表示する。
ブレーキとアクセルのペダルも最小限のデザインとなっている。
ダッシュボードと助手席のエリアにも余計な機能はない。ボトムのマットグリーンとグレイがかった青は目を引くが、「もの」の欠如はフォームというより機能を優先している。ID Buggyは雨だろうが晴れだろうが運転できるようになっている。なのでデザイナーはインテリアをウォータープルーフにした。
ID Buggyの下にはいろんなものが搭載されている。後輪駆動のバギーは201馬力、最大トルク228ポンドフィート(31.52kgf·m)を生む電動モーターを搭載している。そして62kWhのバッテリーでは、フル充電で155マイル(約250キロ)の航続距離(WLTPスタンダード)が可能だ。静止した状態から時速62マイル(約100キロ)に到達するまでには7.2秒しかかからない。
私は海岸に沿ってものすごい速さで走行しようと考えていたのだが、残念ながらこのプロトタイプにはスピードリミッターが付いていた。
それでもID Buggyの乗車は楽しく、気楽で、快活な気分になるものだ。曲がり道も問題なく、ワイドボディと高いリアエンドにより、大型車に囲まれて走行しても安心感が得られる。
ID Buggyの生産
どの企業がBuggy生産についてVWと話し合っているのかは明らかではない。VWは社名を明らかするつもりはない。実際、モントレーでの心地よい潮風や雲のない空、スーパーカーを彷彿とさせる姿でもってしてもVW社員の口は固かった。
明らかにされていない企業がe.Go Mobileである可能性はある。VWは3月、e.Go MobileがVWのモデルレンジに加えて他のEVを展開するためにMEB電動プラットフォームを活用する最初の外部パートナーになると発表した。専用の車両プロジェクトがすでに計画されている、とVWは当時語っていた。
VWの広報はTechCrunchに対し、e.Go Mobileとの提携でどういう車が製造されるのか決まっていない、と語った。バギーになるかもしれないし、他の車両になるかもしれない。
そしてFordがいる。今年初め、自動車メーカー2社はFordがVWのMEBをベースとした電動自動車を生産することを含めた提携を発表した。
モントレーにいたVWの社員は、サードパーティーがバギーか、バギーの修正バージョンを生産するという望みを表明した。広報の1人は後にTechCrunchに対し、「モントレーでの披露が示しているように、BuggyはVWと電動モビリティにとって素晴らしいアンバサダーだ。多くの顧客をひきつけると確信している」と語った。
最後に、ID Buggyは1960年代のオリジナルがそうだったようなビーチ爆撃機というより、スマートなクルーザーだ。VWの電動プラットフォームの多能さをうまく表している。結局のところVWは、近い将来、複数の消費者向け電動車両を動かすことになる必要不可欠な部分をID Buggyが搭載することになると考えている。ID Buggyの生産に関わる企業がドアのような馬鹿げたものを含め、より多くのガジェットを備えるというのはもちろん考えられることだ。
画像クレジット:Kirsten Korosec
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(翻訳:Mizoguchi)