野生の鳥獣の食肉「ジビエ」の流通を追跡確認するトレーサビリティのシステムが、中核技術としてテックビューロが開発したプライベートブロックチェーン技術mijinを採用した。システムは一般社団法人日本ジビエ振興協会が10月から試験運用を開始し、2018年1月からは実運用に入る予定。mijinを使った実証実験の報告例は多数あるが、実システムとして稼働した事例が発表されるのは初めてである。
mijinの採用理由は、開発工数と運用コストの削減が大きい。プライベートブロックチェーン技術は高い可用性を標準機能で実現できる。また耐改ざん性があり監査可能であることも、トレーサビリティと相性がいい。ざっくり言えば「信用できるデータ基盤」のニーズがある分野にはブロックチェーン技術の出番があるといっていい。
今回のシステムを運用する日本ジビエ振興協会は、ジビエ食肉の加工の統一規格や、販売先とのマッチングという課題に取り組んでいる。ジビエ食肉の加工、流通、消費までを追跡できるトレーサビリティシステムを構築した背景には、「野生鳥獣には病原菌や寄生虫のリスクがあることから、消費者や外食業界関係者は衛生面では家畜肉以上に厳しい目で見ている」(日本ジビエ振興協会)ことがある。
ジビエといえばもともとは狩猟で捕獲した鳥獣の食肉を指すが、狩猟以外にも背景がある。農林水産省は今、鳥獣被害対策とジビエ食肉の利活用をセットで進めている。年間200億円規模と見積もられている農林業への鳥獣被害を食い止めるとともに、捕獲した鳥獣の食肉を地域の資源として活用しようとするものだ。日本ジビエ振興協会は、この農林水産省の事業に協力しており、今回のシステム構築もその一環という形になる。
日本国内の食品分野のトレーサビリティのシステムとしては、牛肉トレーサビリティがすでに整備済みだ。これはBSE(狂牛病)のまん延を防ぐため牛肉のトレーサビリティが法律で義務付けられているためだ。
いっぽう、ジビエ食肉に関しては、制度、規格、システムなどはまだ整備の途中段階にある。今回のトレーサビリティシステムも、今までシステムが存在しなかったところに新規に構築するものだ。
ブロックチェーン技術の話題といえば、仮想通貨の発行、決済システムへの適用のような話題が多い。だがプライベートブロックチェーン技術は「信用できるデータ基盤」として、さまざまな局面で役に立つ可能性を秘めている。例えば複数の事業者から成るサプライチェーンの情報流通にブロックチェーン技術を使おうとする動きがある。
今回のトレーサビリティシステムは、信用できるデータ基盤を従来の情報システム技術に比べてより低コストで構築できる技術としてプライベートブロックチェーン技術を用いた事例だ。今までコスト面で見合わなかったシステムを作れる可能性があるという点でも、プライベートブロックチェーン技術は要注目の分野といえるだろう。