ブロックチェーン技術mijinをジビエ食肉トレーサビリティに採用、試験運用を開始

野生の鳥獣の食肉「ジビエ」の流通を追跡確認するトレーサビリティのシステムが、中核技術としてテックビューロが開発したプライベートブロックチェーン技術mijinを採用した。システムは一般社団法人日本ジビエ振興協会が10月から試験運用を開始し、2018年1月からは実運用に入る予定。mijinを使った実証実験の報告例は多数あるが、実システムとして稼働した事例が発表されるのは初めてである。

mijinの採用理由は、開発工数と運用コストの削減が大きい。プライベートブロックチェーン技術は高い可用性を標準機能で実現できる。また耐改ざん性があり監査可能であることも、トレーサビリティと相性がいい。ざっくり言えば「信用できるデータ基盤」のニーズがある分野にはブロックチェーン技術の出番があるといっていい。

今回のシステムを運用する日本ジビエ振興協会は、ジビエ食肉の加工の統一規格や、販売先とのマッチングという課題に取り組んでいる。ジビエ食肉の加工、流通、消費までを追跡できるトレーサビリティシステムを構築した背景には、「野生鳥獣には病原菌や寄生虫のリスクがあることから、消費者や外食業界関係者は衛生面では家畜肉以上に厳しい目で見ている」(日本ジビエ振興協会)ことがある。

ジビエといえばもともとは狩猟で捕獲した鳥獣の食肉を指すが、狩猟以外にも背景がある。農林水産省は今、鳥獣被害対策とジビエ食肉の利活用をセットで進めている。年間200億円規模と見積もられている農林業への鳥獣被害を食い止めるとともに、捕獲した鳥獣の食肉を地域の資源として活用しようとするものだ。日本ジビエ振興協会は、この農林水産省の事業に協力しており、今回のシステム構築もその一環という形になる。

日本国内の食品分野のトレーサビリティのシステムとしては、牛肉トレーサビリティがすでに整備済みだ。これはBSE(狂牛病)のまん延を防ぐため牛肉のトレーサビリティが法律で義務付けられているためだ。

いっぽう、ジビエ食肉に関しては、制度、規格、システムなどはまだ整備の途中段階にある。今回のトレーサビリティシステムも、今までシステムが存在しなかったところに新規に構築するものだ。

ブロックチェーン技術の話題といえば、仮想通貨の発行、決済システムへの適用のような話題が多い。だがプライベートブロックチェーン技術は「信用できるデータ基盤」として、さまざまな局面で役に立つ可能性を秘めている。例えば複数の事業者から成るサプライチェーンの情報流通にブロックチェーン技術を使おうとする動きがある。

今回のトレーサビリティシステムは、信用できるデータ基盤を従来の情報システム技術に比べてより低コストで構築できる技術としてプライベートブロックチェーン技術を用いた事例だ。今までコスト面で見合わなかったシステムを作れる可能性があるという点でも、プライベートブロックチェーン技術は要注目の分野といえるだろう。

 

ブロックチェーン技術mijinを電子行政へ、ベルギー アントワープ市で適用実験

ベルギーのアントワープ市の電子行政システムに適用するためのPoC(Proof of Concept、適用実験)の対象として、プライベートブロックチェーン技術mijinが選ばれた。今後1年ほどかけてPoCを実施、評価レポートを発行する。レポートが公開されるかどうかは未定。選定のため開催されたハッカソンで在欧の開発者が成果を出したことがmijin選定の決め手になったとのことだ。人口50万人規模の自治体を対象にプライベートブロックチェーン技術を電子行政システムに適用するための本格的な実験が行われることになる。

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ベルギー アントワープ市の電子行政システムのコンセプト図。基幹システムにAPIを公開、スタートアップや開発者コミュニティによる外部のアプリケーションをプラグインしていく構想である。

ブロックチェーン技術の検証を実施するのは、ベルギーのアントワープ市とゲント市が出資する団体「Digipolis」である。同団体の目的は両自治体のためのITの評価で、240名のスタッフを抱える。市の電子行政システムの技術を機動的に評価検討するIT部隊といった位置づけだ。このDigipolisが立ち上げた「Blockchain Lab」がブロックチェーン技術の評価を担当する。

選定では各種ブロックチェーン技術をプレゼンとハッカソンにより評価し、結果としてmijinの開発効率と実用性が評価された。今後、1年ほどかけて検証を実施する。検証の内容は、(1)住民の出生・生存証明、(2)住民票の管理、転居の簡素化や情報開示先の管理、(3)生涯学習のサポート、(4)公共意思決定プロセスの透明化の4分野を予定している。各分野を担当する情報システムへのブロックチェーンの適用について詳しく評価していく形となる。

行政システムへの適用実験をするブロックチェーン技術をハッカソンで評価

mijinを推進するテックビューロによれば、2016年11月にDigipolisからmijinに関する問い合わせがあったことで、地方自治体へのブロックチェーン適用を検討していることを知ったとのこと。その後、2016年12月19日にDigipolisのBlockchain Labがミートアップが主催し、107名が参加した。

「ミートアップでは、ハッカソンでHyperledgerやEthereumなど10製品ほどが成果を競った。その中でmijinが選定された」(テックビューロ代表取締役 朝山貴生氏)。在欧のNEM/mijin開発者コミュニティのメンバーがミートアップに参加し、選定を勝ち取ったという経緯のようだ。

背景として、NEM/mijinの公式ウォレットソフトが最近実装した機能であるApostille(アポスティーユ)が有効だったとのことだ。これはブロックチェーンを文書の公証所や登記所のように利用する機能である。デジタル文書のハッシュ値、記録者の電子署名、タイムスタンプをブロックチェーンに記録することで「誰が、いつ、当該文書を登録した」ことを証明する。またマルチシグ(複数の電子署名の組み合わせ)の活用で所有権移転の仕組みを容易に構築できる。所有権管理のシステムに求められる機能の中核部分をmijinでは標準機能として提供する点が、開発効率に寄与すると評価された。

アントワープ市は「ACPaaS(Antwerp City Platform as a Service)」と呼ぶコンセプトを掲げ、行政サービスのAPIと、スタートアップを含む民間企業によるサービスを組み合わせる試みに取り組んでいる(上の図を参照)。また、新しいテクノロジーへのチャレンジを継続的に行う方針を取っている。別の国の例になるが、電子政府で有名なエストニアは技術の更新をIT戦略に組み込んでいる(ノーレガシー政策)。アントワープ市のIT戦略にも「新技術を常に取り入れる」との考え方があり、最新技術であるブロックチェーンも評価検討することになった訳だ。

プライベートブロックチェーンmijinに関しては、TechCrunch Japanで過去何回か取り上げてきた。特にベンチャー企業による実証実験の報告が多かった(関連記事)。最近はどうかというと「去年(2016年)の秋から大手企業からの問い合わせが多い。業種も幅広いが、公表できない案件が増えた」(朝山氏)。最近の例では日立ソリューションズと、会員数1億5000万人のポイント管理に適用する実証実験を行うとの発表がある(発表資料)。こうした検証や導入の事例は、案件の規模が大きくなるほど情報が外部に出にくくなり、また外部に出たとしても時間が必要になる傾向がある。

mijinに限らず、プライベートブロックチェーンの実像に関する情報は、率直にいってまだ乏しい。別の製品の例では、最近bitFlyerのプライベートブロックチェーン技術Miyabiに関して3大メガバンクでの評価が進んでいるとの情報が出てきたが(関連記事)、その詳細は守秘義務の壁の向こう側だ。壁の外側からはその実像はなかなか見えにくい。

今回のアントワープ市らのPoCは、プライベートブロックチェーンに関する本格的な検証であると同時に、検証結果の情報が開示される可能性があるという点でも興味深い例といえるだろう。

アララ、ブロックチェーン技術mijinの電子マネー分野への適用を表明、実証実験の成果を受けて

プリペイドカード/ポイントカードpoint+plus(ポイントプラス)」のサービスを運営するアララは、テックビューロが提供するプライベートブロックチェーン技術mijinを評価する実証実験を実施し、その結果を見て同社の実システムへの採用する方針を固めた。「1年以内に、世の中に出す新サービスにブロックチェーンを使っていく」と同社の代表取締役 Group CEOの岩井陽介氏は話している。なお、アララは2016年4月、テックビューロへ出資した会社の1社として名前が挙がっていた(関連記事)。point+plusにmijinを適用するプランはその時点で発表されていたものだ。

実証実験の結果、mijinを使い毎分3000取引(平均50取引/秒に相当)の取引を安全に実施できることを確認した。また、1取引あたりのコストを現行システムの30%程度まで削減できると見込んでいる。同社の報告書では「多対1で大量トランザクション(取引)が発生する当社point+plusのようなシステムにも(mijinを)十分適用が可能であるとの結論に達した」と記している。

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実証実験で用いたブロックチェーンのネットワーク。AWS上の4ノートにブロックチェーンをホストする。地理的に分散させたノードを使った実験も行っている。

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実証実験で構築したアプリケーションの概念図。

同社は、プリペイドカード/ポイントカードのpoint+plusをスーパーマーケットや外食チェーンなどに展開している。point+plusを活用したサービスには、例えば日本サブウェイの電子マネー付きポイントカード「SUB CLUB CARD」がある。このようなサービスの情報インフラとしてブロックチェーンを適用可能かどうか評価するため、電子マネー分野のユースケースを想定したアプリケーションをmijin上に構築し、性能、可用性、取引の整合性に注目した実証実験を実施した。実証実験の結果は報告書として公開する。

電子マネー系サービスへのブロックチェーン適用を表明

ブロックチェーンの実証実験は金融機関を中心に各所で進められているが、今回の取り組みは2つの点で注目したい。1点目は、比較的詳細な報告書が開示されること。2点目は、世の中に出すサービスでのブロックチェーン技術の適用を進める考えを明らかにしていることだ。ブロックチェーンの実証実験は日本企業でも多数多数行われているが、実システムへの適用を決めたことを表明している企業はまだ多くない。

同社の岩井CEOは「電子マネー事業を手がけているので、以前から仮想通貨には興味を持っていた。知れば知るほどビットコインは凄い。その仮想通貨を支えるブロックチェーンの有用性を我々のサービスにも取り込めばメリットがあると考えた」と語る。

同社が特に解決したかった課題の一つが可用性だ。「サーバーでアクシデントがあるとサービスが停止してしまう。例えばスーパーマーケットのレジで人が並んでいる状況でサーバーが落ちて決済できない状況が生じると、現場は大混乱をきたす。2重、3重の対策を取ってはいるが、より強固で安全性が高いシステムを作る技術としてブロックチェーンに期待している」(岩井氏)。

可用性とコストの両立、それにセキュリティの高さも魅力だった。「従来の情報システムのディザスタリカバリは高価につく。地理的に分散したノードに配置したブロックチェーンの場合、トランザクション処理系についてはディザスタリカバリが不要となる。それにマルチシグネチャ、複数の人が承認しないと取引を確定できない仕組みも、セキュリティ向上のために魅力的だった。内部犯行でも改ざんが困難となる」(執行役員 技術本部 本部長 開発部 部長の鳥居茂樹氏)。

実証実験では、mijinの機能であるMosaicを用いて仮想通貨トークン「アララコイン」を用意し、スマートフォン上のウォレットアプリにより社内電子マネーとして活用するユースケースを想定した。10万ユーザー、1024部門の組織を想定し、過去の取引の蓄積データとして560万取引の規模の環境を用意した。ブロックチェーンをホストする4ノードのうち2ノードを定期的にリブートして整合性に問題が出ないかを調べた。またAWSの東京とシンガポールの各リージョンにノードを分散し、地理的に離れたノード間通信のレイテンシが挙動に影響するかどうかにも注目して実験を行っている。

アプリケーションは内製

実証実験のアプリケーションはアララが内製していることは要注目といえる。「mijinの環境構築は(提供会社の)テックビューロに支援してもらい、それ以外はアララで用意した。mijinのアプリケーション開発に必要なNEM Core APIを使ってアプリケーションを構築した」(鳥居氏)。同社の報告書では、処理時間が極端に長かったAPI処理を発見して改善する一種のトラブルシューティングを実施したことも記している。ブロックチェーン上のアプリケーション開発ができるエンジニアの数はまだ少ない中、ブロックチェーン上のアプリケーションを自社開発する能力を育てつつあると見ることもできる。

「ゼロ承認」でmijinを使う場合の整合性を調べた

実証実験では整合性を重視している。その背景として、ノードの障害からの復旧、地理的に離れたノードの扱いがあるが、実はもうひとつ大事な話がある。同社はmijinをゼロ承認で使うやり方で問題が出ないかも調べたのだ。

このゼロ承認については少々の説明が必要となる。mijinや他の多くのブロックチェーン(ビットコインを含む)では「取引が確定するか否か」は厳密にいうと時間と共に0に収束していく確率値となる(この点を否定的に捉えて「ファイナリティがない」と表現する場合もある。なおORB1やHyperLedgerのようにファイナリティを重視する仕組みを取り入れたブロックチェーン技術も存在する)。そこでブロックチェーン上の取引では、ある一定数のブロックが生成されたことを確認した上で取引が確定したものとみなす慣習となっている。

だが、「一定数のブロックの生成を確認してから取引を承認する」やり方では、取引の実行から確定までに時間がかかりすぎる。だが、アララのサービスであるポイントカード/プリペイドカードのサービスでは、取引は瞬時に完結させることが求められる。「電子マネー分野では取引は瞬時に完結しないといけない」(岩井氏)。

そこで、今回の実証実験ではブロックチェーン上の承認を待たずに取引を確定させる「ゼロ承認」で取引を確定させる仕組みとした。厳密さを重視する考え方からは、このような仕組みにすると二重支払いのような不整合が発生する可能性をゼロにできないが、実証実験の結果では不整合は発生しなかったとしている。

なお、ブロックチェーン上の取引をゼロ承認で使う例は他にもある。例えばレジュプレスが展開するビットコイン決済システムのcoincheck paymentでは、ビットコインのパブリックブロックチェーンの上でゼロ承認で取引を確定させている。

今回アララが実施した実証実験は、いわばmijinのスペックが公称通りかどうかを確認した内容といえる。それだけでなく、アララがブロックチェーン上のアプリケーションの構築運用の経験を積む側面もある。ブロックチェーン技術への評価が定まっていない段階で、同社が実システムへの適用を目指して手を動かす経験を積んだことには敬意を表したい。

ブロックチェーンでゲームインフラ運用コストを1/2に、テックビューロがGMOインターネットと提携

GMOインターネットテックビューロの両社は2016年2月1日、業務提携を発表した。テックビューロが提供するプライベートブロックチェーン技術mijinをベースとしたオンラインゲーム用バックエンドエンジンを共同開発する。「GMOアプリクラウド」のサービスとして2016年秋の提供を目指す。mijinをより使いやすくするための管理機能などを提供する予定だ。

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GMOインターネット 事業本部ホスティング事業部長、児玉公宏氏(左)、アプリクラウド事業部 高田幸一氏(画面内)、テックビューロ代表取締役社長の朝山貴生氏(右)

オンラインゲーム向けインフラと、改ざんできない分散台帳を実現するブロックチェーン技術。意外な組み合わせに聞こえるかもしれない。もっとも、ブロックチェーン技術のルーツである暗号通貨に初期段階で関心を寄せたのは、ゲーム内仮想通貨に親しんだゲーム業界の人々だったという話もある。

両社は、ブロックチェーン技術を用いてオンラインゲーム部門のどのような問題を解こうとしているのか。両社の話によれば、大きく2つのメリットがある。一つはmijinにより無停止かつ高トラフィックへの耐性があるバックエンドを作れるとの期待があること。インフラ運用コストを従来の約1/2以下に削減できると見ている。「サーバーが落ちなくなる技術」と聞けば、検討したくなる向きも多いだろう。もう一つは、ブロックチェーンの本来の機能である分散台帳が、ゲーム内アイテムやゲーム内仮想通貨の管理に適しているとの考え方だ。ネイティブに台帳の機能を提供するブロックチェーンを使えば、バグや不正が発生しにくい、との主張には一理ある。

GMOインターネットの高田幸一氏(アプリクラウド事業部)は次のように語る。「従来のオンラインゲームの運営では、スパイク的なトラフィック急増に備えてサーバー台数を用意しなければならなかった。トラフィック急増に対応できるmijinを使えば、インフラコストを抑えつつ、停止せず、データも失われないサービスを作れると期待している」。同社事業本部ホスティング事業部長の児玉公宏氏も「ボトルネックはDB周りにくる。mijinを使うことで、DB周りが落ちないようにする設計を大幅に省略できる。工数的なメリットは大きい」と話す。

ここで、無停止の根拠は、ブロックチェーンは複数のノード上で分散台帳を保持する仕組みなので単一障害点を持たないように設計できるからだ。ノードを地理的に分散させ、より強靱なバックエンドを作ることもできる。トラフィック耐性があるのは、処理能力を越えるトランザクションが到着してもキューに貯めて遅延実行する形となり、機能停止にまでは至らないからだ。もちろん、恒常的にトラフィックが能力を上回る状況には対応できないが、スパイク的なトラフィックに対してより少数のサーバーで対応できる──そう聞けば、可能性に挑戦したいと考える人はいるのではないだろうか。

「ゲーム会社は、ゲームタイトルがヒットしてトラフィックが急増したところでサーバーが落ち、肝心な局面で機会を逃すことがある。これを防げる」とテックビューロ代表取締役社長の朝山貴生氏は話す。特に重大なのは、高トラフィックでサーバーが落ちたときにデータの不整合が生じて、ユーザーのゲーム内で得たアイテム数や仮想通貨残高の一貫性が損なわれる事態だ。要は、金融や商取引に使われるOLTP(オンライントランザクション処理)分野と似た責任がオンラインゲームにはある。このこような一貫性を保つためにも、ブロックチェーン技術は有用だというのである。

改ざんできない分散台帳の性質に加え、トランザクション処理性能も確保

mijinを推進するテックビューロは、これまで複数の分野で1社ずつ提携の成果を発表する作戦を採ってきた。インフォテリアのデータ連携さくらインターネットのクラウドアイリッジのO2OロックオンのECサイトOKWAVEのコールセンターSJIの金融SIフィスコの金融情報、そして今度はGMOのゲームインフラだ。また、さくらインターネットのインフラ上で提供する実証実験環境「mijinクラウドチェーンβ」には167社の申込みがあった。

ゲーム分野は、実はmijin発表当時にすでに考えていたことだそうだ。

「オンラインゲームでは、ゲーム内通貨やアイテムに関わる不正が横行する問題もあった。そうした仮想通貨やアイテムの管理に、改ざんできない分散台帳であるブロックチェーンは非常に有効だ。ソフトのバグによりアイテム個数が増えたり減ったりする現象も未然に防げる」(朝山氏)。

GMOアプリクラウドは、1800種類以上のゲームタイトルをホスティングしている。ゲーム産業で、ブロックチェーンを活用する動きが出てくるなら、ブロックチェーン技術に接する開発者人口を増やす要因となるかもしれない。

今回の提携は、規模が大きく、内容的にも興味深い。特に、従来のインフラではデータ格納にMySQLのようなRDBMS(あるいはKVS)とキャッシュサーバーを使っていた訳だが、それらとブロックチェーン技術をどのように使い分けるのか。アプリケーション開発者からはどのように見えるのか。インフラ技術の観点からも、情報システムのアーキテクチャとしても、またアプリケーション開発者にとっても、興味深い話題だ。

テックビューロのmijinが、トランザクション処理性能の確保に重点的に取り組んでいることには、特に注目したい。従来のブロックチェーン技術は、海外送金、ID管理、土地登記などに活用できる「分散台帳」として、またプログラムにより契約を自動実行するスマートコントラクトの基盤としての活用法が広く議論されてきた。ただし、高トラフィックな処理が必要な場合はブロックチェーン外部(オフチェーン)の情報システムを利用するやり方をよく耳にする。例えば、暗号通貨の取引所は個別の売買をいちいちブロックチェーンに流している訳ではない。大半の取引はオフチェーンで実施されている。

ECサイトやゲーム用インフラのように大量のトランザクションをさばくOLTP(オンライン・トランザクション処理)インフラとしてブロックチェーン技術を売り込もうとしているのは、テックビューロ以外にはほとんどいない。テックビューロ朝山氏は「mijinではブロックチェーン本来のメリットである改ざんできない分散台帳としての性質に加えて、実用性、汎用性、安定性を重視する。トランザクション処理性能も一定の水準を確保するために努力を続けている」としている。同社は「mijinは地理的に離れたノード間で1000トランザクション/秒以上の性能を実現した」と話しており、情報システムのインフラとしての利用に耐える能力があることを強調している(関連記事)。公表されている情報がまだ乏しいこともあり、まだ同社の主張に納得できない人もいるかもしれないが、実証実験の結果は時間が経てば公開されるものも出てくるだろう。

オンラインゲームは厳しい業界だ。ゲーム会社のインフラエンジニアや開発エンジニアは、ブロックチェーン技術に対してどのような評価を下すのだろうか。ゲームインフラ分野へのmijinの挑戦は「プライベートブロックチェーンは本当にモノになるのか?」との疑問を持っている人にとって、その判断材料を提供する機会となりそうだ。

さくらインターネットがブロックチェーン環境をベータ提供、石狩・東京で分散

さくらインターネットテックビューロが今日、ブロックチェーンの実証実験環境「mijin クラウドチェーンβ」を2016年1月から提供すると発表して申し込み受け付けを開始した。ベータ版は無料で利用でき、金融機関やITエンジニアの実験環境としての利用を見込む。2016年7月にはmijinはオープンソース化される予定で、同時期にさくらインターネットは有償サービスの提供も開始する。

mijinクラウドチェーンβは、テックビューローが開発するプライベート・ブロックチェーンを、さくらのクラウドの東京リージョンに2ノード、北海道・石狩リージョンに2ノード用意したサーバー環境で実行するもの。4ノード1セットで稼働し、JSONベースのAPIで利用できる。地理的に分散したプライベート・ブロックチェーン環境をクラウドで用意するのは世界的に見ても先進的。金融やポイントシステム(企業通貨)、勘定システム、契約文書の保存先などの応用事例の実証実験が手軽に始められる。

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Bitcoinとは違う「ブロックチェーン」

ブロックチェーンはBitcoinを実現している要素技術として注目されているが、今回の話は暗号通貨としてのBitcoinとは直接は関係はない。mijinはBitcoin以来、1000以上は登場したと言われる仮想通貨・ブロックチェーン技術の実装の1つ。その多くはBitcoinのコードベースから派生したフォーク・プロジェクトだが、mijinはスクラッチで書かれたブロックチェーン実装だ。この区別は重要だ。ITシステムの世界で「データベース」と一口にいってもリレーショナルDBだけでなく、今やNoSQLと呼ばれる異なる特性を持った一群の各種ストレージ技術を使い分けているのと同じで、同じブロックチェーンでもさまざまなアイデアや、特性の取捨選択によって多様な実装が生まれつつある段階だからだ。

Bitcoinを実現しているブロックチェーンとmijinの違いは、1つにはクローズドなノードで実現していることが挙げられる。もう1つはブロックチェーンの上の通貨データであるトークン(コイン)のマイニングが不要なこと。これによってBitcoinで送金に10分程度かかる原因だったトランザクションの検算処理ともいえるProof of Workと呼ばれる処理が不要となっている。このため今回さくらインターネットが用意する環境では1日に200〜300万トランザクションという高いスループットでの処理が可能だという。

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さくらインターネット フェローの小笠原治氏

今回さくらインターネットでテックビューロとの実証実験の取り組みを進めた小笠原治氏(さくらインターネット フェロー)は、「200〜300万という数字は、大手の都銀をのぞく約9割の銀行で必要なトランザクション量です。いちばんトランザクションの多いセブン銀行で500万程度です」と話す。実証実験に続いて2016年7月からは4ノードの実行環境とテックビューロのサポートが受けられる有償サービスも開始するが、これはクラウド利用料も含めて1年間で77万円。もし銀行のシステムをブロックチェーンに載せることができれば、従来システムの劇的なコストダウンになるだろうという。

小笠原氏によれば今回の実証実験には2つの目的がある。1つは立ち遅れている日本のブロックチェーンの理解・普及を促進するため。「ちょっとできる人ならポイントシステムを作るのは簡単にできる。無料なので試してみる人が出てくるでしょうし、ブロックチェーンという技術を実感していただきたい」(小笠原氏)。もう1つは、ユースケースによって、実際に必要な機能やチューニング、仮想インスタンスやサービスはどうあるべきなのかという知見を早めに収集・蓄積すること。さくらインターネットがブロックチェーンに前のめりである理由は、複数ノードを分散運用すべきブロックチェーンは「クラウドと親和性が高いから」ということだ。クラウドと言っても実際には物理サーバーがデータセンターにある。そこでのトランザクション性能のボトルネックになるネットワーク帯域の増強や物理サーバーへのメモリー追加搭載、GPGPU搭載などは、さくらインターネットのようなデータセンター事業者が取り組んで来た領域だ。

シェアリングエコノミーで立ち上がる可能性もあるブロックチェーンの応用

石橋を叩いて壊すような日本の金融業界が、いきなりブロックチェーンを導入するという展開は考えづらいが、例えば楽天のように技術に明るいネット企業がポイントシステムでブロックチェーンを導入することはあり得るだろう。もっとありそうなのは、例えば弁護士ドットコムのようなスタートアップ企業がウェブ完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」で契約文書の保存先として利用するようなケースだろう。

Bitcoinではブロックチェーン上に40ビットのトークンを保存していて、これが通貨データを扱っていたが、今回のmijinの実装ではこの領域を180バイトとしているそうだ。180バイトといえばちょっとしたメッセージを保存できることから、「例えば社内向けのセキュリティの高いメッセージシステムを作ることもできる。あるいはfreeeのような企業会計でも使えるかもしれない」(小笠原氏)という。180バイトというのは1つのパラメーターなのでユースケースによって1KBにするということもありえる。

いったん書き込んだデータの改ざんが極めて難しいという特徴から勘定系システムへの導入が分かりやすいブロックチェーンの応用例だが、小笠原氏はもっと広い領域へ適用が始まると見ている。

1つはシェアリング・エコノミー系のサービスでの利用だ。「誰が誰に何を貸したかを記録できる。部屋やクルマの貸し借りであれば鍵のオン・オフにも使えるし、セキュリティーも担保される」。スタートアップ企業なら、特にプロダクトのスタート当初はユーザー数もトランザクションも少ないだろうし、MySQLやPostgreSQLを冗長構成で並べてフロントにキャッシュを置けば十分ではないのか、と、ぼくはそう思ったのだけど、小笠原氏の指摘は逆だった。MySQLが上手に使える人を雇うよりも、JSONベースでAPI経由でデータをクラウドに投げるだけでトランザクション、高可用性が実現できるなら、そのほうが良いかもしれないではないかということだ。「出退勤システムのデータ保存先でもいいわけですよ」と。

もう1つ、さくらインターネットは競合のAmazonのAWS IoTなどを横目に見つつ、IoT領域のサービス展開も視野に入れ、そこでブロックチェーンが果たす役割を見据えている。そんなことも今回の実証実験の背景にあるようだ。

IoTではデバイスの数が1桁とか2桁といったレベルで増えていくし、センサーネットワークであれば小さなデータが一斉に吸い上げられることになる。その保存先としてブロックチェーン技術は注目されていて、例えば2015年1月にIBMが発表した論文は話題になった。中央集約的なサーバーやサーバー群は、IoT時代に破綻するだろうという考察だ。IBMの論文には冷蔵庫やエアコンにブロックチェーンが載る時代が来るだろうという結構ぶっ飛んだものだが、たとえIoTの末端にまでブロックチェーンが搭載されずとも、例えばデバイスの保守契約の期間をブロックチェーンに保存しておいて、あるデバイスが故障したときに、保守サービス側にアラートをあげる、保守サービス期間が終わっていればアラートをあげないというような仕組みはブロックチェーン上で実現できるだろう。ブロックチェーンにチューリング完全なプログラミング言語を搭載するEthereumが注目されているのは、まさにこうした理由からだ。

誤解の多いブロックチェーンに危機感

実は今回の実証実験の話は、TechCrunch Tokyo 2015がきっかけとなっているそうだ。テックビューロはスタートアップバトルのファイナリストで、さくらの小笠原氏は審査員の1人だった。パーティーの場で話をしているときに「(ブロックチェーンのようなものは)使ってもらわないとダメだ」ということで意見が一致したそう。例えばIoTのデバイスからセンシングデータを吸い上げるようなケースで、自分たちでバックエンドを用意しなくても、ブロックチェーンの1実装を使った実験ができるようにしたほうが話が早いということだ。

ビットコインの登場や、その後の騒動が出来事として印象が強かったために、今もまだブロックチェーン技術が理解されていないと感じているという。一部では、今でもまだブロックチェーンは仮想通貨のためのものであり、しかもその多くは投機目的であるという印象が先走っているのではないかと小笠原氏はいう。

面白いのは、小笠原氏が20年前のさくらインターネット創業時に、現在のブロックチェーンの取り組みを重ねて見ていることだ。さくらインターネットは1996年に創業しているが、当時は都市型データセンターの構築ブームでインターネットの黎明期だった。その頃は「インターネットってオタクのものでしょ? ビジネスになるの? っていうことを最初の5年くらいは言われたものです」という。その黎明期に似て、今はブロックチェーンも「何に使えるの?」と聞かれる日々だという。2015年夏に元創業メンバーとして、さくらインターネットに復帰した小笠原氏が取り込むプロジェクトとしては、なるほど感がある。小笠原氏はDMM.make AKIBAの仕掛人、ハードウェアスタートアップの国内アクセラレータ「ABBALab」(アバラボ)の共同設立者でもあるので、今回の実証実験は「ブロックチェーンのIoTへの応用」という文脈が感じられる。さくらインターネット的な立場からは、「いずれクラウドで動くブロックチェーンが日本以外から入ってくると思う。だから先にちゃんと手がけて知見やノウハウを手に入れたい」(小笠原氏)という国際競争の観点もあるようだ。

金融インフラをブロックチェーンで代替してコストを10分の1に、日本から「mijin」が登場

ミッションクリティカルな金融機関システムを、Bitcoinなどの暗号通貨で使われる要素技術であるブロックチェーンで置き換える――。こういうと日本のIT業界に身をおいてる人の反応は2つに割れるのではないだろうか。「何を寝言みたいなことを言ってるのだ?」という反応と、「それはとても理にかなってるね」という反応だ。

ダウンタイムの許されない高可用性や、データ損失のない信頼性が要求されるITシステムというのはハードもソフトも「枯れた技術」を使うのが定石。まだ実用性や有用性が証明されていないBitcoinの技術を使うなどというのは、世迷い事っぽくも聞こえる。ただ、Bitcoinという仕組みを実現するベースになっているブロックチェーンそのものは、可用性と堅牢性の高いP2Pネットワークとして様々な応用が期待されている技術だ。

ブロックチェーンは複数のサーバが参加するP2Pネットワークであるということから、中央管理サーバのない、いわゆる冗長構成となっているほか、原理上データの改ざんがきわめて難しいという特徴がある。

このことから、例えばシティバンクは独自のデジタル通貨プラットフォーム「CitiCoin」を実験中だし、Nasdaqはブロックチェーン技術を提供するChainと提携して未公開株式市場で同社技術を使うと発表している。ほかにもUBSが「スマート債権」を実験中だったりと、アメリカの金融大手が新技術の取り込みに向けて動き始めている。9月15日にはゴールドマン・サックスやバークレイズを含む9つの大手銀行がブロックチェーンで提携すると発表している

金融関連ベンチャー投資支援をしているAnthemisグループは「The Fintech 2.0」という分析レポートのなかで、ブロックチェーンによって銀行のインフラコストを2022年までに150〜200億ドル削減できるのではないかとしている。

面白いのは、最近アメリカの金融関係者らがBitcoinというネガティブなイメージのつきまとう言葉を避けて「ブロックチェーン」という言葉を使うようになっていることだ。Bitcoin関連のポッドキャストやコンサル、講演で知られるアンドレア・アントノポラス氏の言葉を借りて言えば、Bitcoinというのはインターネットにおける電子メールのようなもの(ちょっと長めの動画インタビュー)。1995年ごろにWebブラウザが爆発的普及を始めるまでは、インターネットとはメールのことだった。しかしTCP/IPを使った最初に成功したアプリがメールだっただけで、実際にはインターネットはもっと多様なサービスを生み出す革新的なイネーブラーだった。同様に、Bitcoin発案者とされる中本哲史の本当の発明はブロックチェーンのほうで、Bitcoinのような暗号通貨は、その1つの応用にすぎないという。

ちなみにシリコンバレーの著名投資家マーク・アンドリーセンは2014年初頭の時点でBitcoinの登場のインパクトを、1975年のパーソナル・コンピューター、1993年のインターネットの登場になぞらえている。アンドリーセンは、Bitcoinの本質的な価値は、ビザンチン将軍問題というコンピューター・サイエンスの研究者たちが取り組んできた課題におけるブレークスルーであることが根底にあると強調している。互いに無関係の参加者が、信頼性のないインターネットのようなネットワーク上で、どうやって合意形成を達成するのかという問題だ。

自社内、またはパートナー間のみ利用可能なブロックチェーン「mijin」(ミジン)

さて、アメリカでブロックチェーン技術利用へ向けて金融大手が動き出している中、日本発のBitcoin関連スタートアップであるテックビューロが今日、自社内、またはパートナー間のみ利用可能なブロックチェーン「mijin」(ミジン)を発表した。Bitcoinはオープンでパブリックなブロックチェーンで運用されているが、mijinは、そのプライベートネットワーク版といった位置付けだ。

mijinは現在クローズドβのテストフェーズにあり、2016年初頭から提携企業への提供を開始する。また2016年春には有償の商用ライセンスのほか、オープンソースライセンスのもとソースコードの一般公開を予定している。mijinは、地理的に分散したノード間で2015年末までに秒間25トランザクションの処理能力を提供し、2016年末までに秒間100トランザクションを実現するのが目標だという。プライベートな同一ネットワーク内では秒間数千トランザクション以上での高速動作も実現するとしている。mijinを提供するテックビューロは日本発のスタートアップ企業だが、顧客の大半が欧米顧客になると見ていて、そのことから「忍者」的なキャラをあえて選んだのだそうだ。mijinというのは忍者が使った武器の一種なんだとか。

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テックビューロ創業者で代表の朝山貴生氏は、mijinで構築したブロックチェーンで既存のデータベースを置き換えることで、企業のポイントサービスや決済サービス、オンラインゲーム、航空会社マイレージ、ロジスティックス、保険、金融機関、政府機関などの大規模で高度なシステム基盤にまで幅広く利用できると話す。銀行系のシステムだと初期構築とハードウェア費用で数億円、運用フェーズでも月額数千万円ということがある一方、mijinでクラウド上に数十台のインスタンスを立ち上げることで、初期費用ゼロ、月額数十万円の運用が可能となるだろうという。

このコスト削減の背景には、システムの堅牢性や冗長化といった技術的な部分がなくなることに加えて、不正防止対策や運用マニュアルの整備など運用コストの削減効果もある。テックビューロのリーガルアドバイザーである森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士はプレスリリースの中で、「ビットコインプロトコルに依存しないプライベートブロックチェーンというユニークな立ち位置でローンチされるmijinが金融・商流・ガバナンスをどのように変えていくのか、大変興味深い」と語っている。

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ブロックチェーン技術を使ったスタートアップ(またはプロジェクト)には、BlockstackSETLBankchainHYPERLEDGERMultiChainEthereumFactomStorjなどがある。金融向け、汎用ビジネス向けなどいろいろあって、すでに走りだしている。ただ、オープンソースで非アプリケーションのプラットホーム指向というmijinのモデルはユニークで、今からでもポジションを確保できるのではないかと朝山氏は話している。

テックビューロは国内でBitcoinを含む暗号通貨の取引所「Zaif Exchange」を運営していて、2015年3月に日本テクノロジーベンチャーパートナーズから1億円を資金調達している。

Bitcoinやブロックチェーンがどういう技術なのかという解説は、朝山氏によるTechCrunch Japanへの寄稿も参考にしてほしい。