ここ数年でディープラーニング技術が進化し、防犯カメラが賢くなって追跡機能が向上したことはおそらく間違いない。しかし人物を追跡する方法には、私たちが思うよりも多くの選択肢がある。
Traces AI(トレースAI)は、Y Combinatorが支援する新しいコンピュータビジョンのスタートアップで、顔認識のデータに頼らずにカメラで人を追跡することに取り組んでいる。顔認識のデータは人々のプライバシーを侵害する度合いが大きすぎると、同社の創業者たちは考えている。同社の技術は、人の顔をフレーム内でぼかし、顔以外の物理的な特性で識別するものだ。
同社の共同創業者のVeronika Yurchuk(ヴェロニカ・ユーチャック)氏はTechCrunchに対し「外観から得られる様々なパラメータを組み合わせている。髪型、リュックの有無、靴の種類、服のコーディネートのデータを使うことができる」と述べている。
このような技術が、複数の日にわたって街全体で人を追跡するような場面にはスケールできないことは明らかだ。映画に出てくるジェイソン・ボーンのような犯罪者がジャケットを裏返しに着て野球帽をかぶれば検出されないかもしれない。人物を追跡したい人々が、ディストピアにならないようにするためだけに高精度の技術を使わない理由はあるだろうか?しかしTraces AIは、顔認識技術が常に最適のソリューションとは言えないと確信している。すべての顧客が顔の追跡を求める、あるいは必要としているわけではなく、ソリューションはたくさんあるはずだという考えだ。
同社の共同創業者のKostya Shysh(コスティア・シャイシュ)氏は筆者に対し「我々を否定する人の最大の懸念は『現在、まさに人々を守っている技術を禁止して明日の我が国を守るつもりか?』ということだ。これについて議論することは難しいが、我々が取り組んでいるのは、効果が高くプライバシーをあまり侵害しない代替手段の提案だ」と語った。
今年初め、サンフランシスコは政府機関に対し、顔認識ソフトウェアの使用を禁じた。ほかの都市も同じ選択をする可能性があるだろう。シャイシュ氏は、街全体で顔認識技術で監視をするデトロイトのProject Green Lightに対する反発についても強調した。
Traces AIのソリューションは、そもそも敷地内にいる人のデータが限られている、クローズドな場所にも適していると考えられる。シャイシュ氏は、アミューズメントパークの園内で少ないデータから迷子を見つけた例を紹介した。
「このような場合、人物について実際に言葉で説明することができる。『10歳の男の子が迷子です。青いズボンと白いTシャツを身につけています』と言えば、この情報だけで我々は探索を始められる」と同氏は言う。
プライバシーを重視できることに加え、この技術は人種の偏見を減らす効果もあるとシャイシュ氏は見ている。白人以外の人の顔の識別が苦手であることがわかっているコンピュータビジョンシステムは、誤った疑いをかけてしまいがちだ。
シャイシュ氏は「我々の技術では、データをクラウドに送信する前に実際に人の顔をぼかす。人種や性別による偏見も避けるための安全なメカニズムのひとつとして意図的にそうしている」と語る。
同社の共同創業者たちは、米国と英国は防犯カメラの台数が多いので最大のマーケットになるだろうと考えているが、日本やシンガポールといったアジアの国々ではマスクを着用することが多く、顔が隠れて顔追跡ソフトウェアの効果が相当低くなるので、こちらも有力な顧客として開拓している。
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(翻訳:Kaori Koyama)