【編集部注】執筆者のTien Tzuo氏は、企業向けSaaSアプリケーションを開発するZuoraのCEO。
プリンスの早過ぎる死の後、彼の知られざる功績が次々と明らかになっている。差出人不明の小切手や、公民権活動家としての一面、そしてチャリティコンサートなどがその一例だ。現在、Paisley Park(プリンスが創設したレコード会社)のスタッフは、喪に服すファンにむけて、CDやTシャツなどの記念品が詰まった紫色の箱を配布している。
しかし、私は別のことついて記事を書きたいと思う。それは、プリンスファンへの仮想ラブレターとして、2001年のバレンタインデーに誕生した、オンライン購読型の音楽クラブNPG Music Clubのことだ。
ご存知の通り、プリンスとインターネットの関係はあまり良いものではなかった。その証拠に、ネット上で彼の痕跡を探してみてほしい。彼の音楽に関する厳重な管理や、頻発した削除要請の結果、痕跡をみつけることは、ほぼ不可能だと分かるだろう。しかし、あまり知られていないのは、プリンスがデジタルサービスにおける定期購読モデルの先駆者であったということだ。
5年間もの間、NPGMC(プリンスのバックバンドThe New Power Generationに由来)では、月間もしくは年間のメンバーシップが発行されており、メンバーには単に新しい曲が送られるだけではなく、コンサートでの特別席チケットのほか、サウンドチェックやアフターパーティーに参加できるパスなどが提供されていた。
そして恐らく最も重要なのは、NPGMCのウェブサイトが、プリンス最愛のファンに、気の合う熱狂的な仲間が集まる温かいコミュニティの中で「人生と呼ばれるものを乗り切る」ための場を提供していたということだ。
彼のその他の功績のように、プリンスは定期購読型のビジネスモデルでも成功をおさめていた。NPGMCは、単に請求書を毎月送付して、水路のように繰り返し発生する会員費をプリンスのもとへ運び込んでいたわけではない。NPGMCは、丁寧にそして敬意をもって育まれた、有意義な関係性の上に成り立っていたのだ。
音楽自体が、水や電気のようなものになっていくだろう。
その代表例として、会員がNPGMCのサイトが重くて上手くアクセスできないと不満を伝えたとき、プリンスは、月々の会員費を7.75ドル(年会費100ドル)から、2.5ドル(永久会員費25ドル)に下げたというエピソードがある。また、2006年には、プリンスの築き上げた強固なコミュニティを讃え、ウェビー賞(ウェブ界のアカデミー賞とされる賞)のLifetime Achievement Awardが贈られた。その際にプリンスは、「オンラインにおける、プリンスのリーダーシップが、エンターテイメント界の形を変え、更にはアーティストとファンの関係性を再形成した」と評されていた。
プリンスは、いつも彼の一番のファンである購読者を最優先しようとしていたため、開設から5年経った頃、NPGMCがその可能性の限界に達したと感じ、ウェブサイトを閉鎖してしまった。閉鎖時に彼は、「NPGMCは、今のあり方で行き着けるところまで来たと感じている」と語っていた。
結果的にNPGMCは、プリンスが購読者に対して価値を提供し、アーティストとファンの関係に本当の意味で敬意を払っていると言えるような状態になるまで、半永久的な休止状態となった。その後NPGMCは、定期購読型の音楽仲間の集まりとして復活することはなかったものの、プリンス自身は、定期購読モデルにおいて大きな役割を担い続けている。
2015年12月に、プリンスは2枚のアルバムHITnRUN(Phase OneとPhase Two)を、Jay Zによる音楽ストリーミングサービス、Tidal上で発表した。Jay Zはプリンスとのパートナーシップに関する声明の中で、「全てのクリエイティブな人々に、彼らを愛しサポートしてくれるファンへ、直接語りかけられるような機会が与えられるべきだという信念を、プリンスとTidalは共有しています。そして、プリンスとのパートナーシップが、一対一のつながりや芸術を世界へ直接届ける、というTidalの真の哲学を表しているのです。」と述べた。
偉大なる故デヴィッド・ボウイは、2002年に音楽の未来について「音楽自体が、水や電気のようなものになっていくだろう」と予言しており、プリンスも同じ考えを持っていた。音楽を、デジタルフォーマットの購読型クラブを通してファンに直接届けるにあたり、ファンと直接的な関係や繋がりを築くため、二人共CDより遥か先を見据えていたのだ。
1980年代(そしてもっと後の年代まで!)の多くの子供達のように、私はプリンスを聞きながら育った。だからこそ、私を含む忠実なファンより、革新者であり先駆者、音楽界のアイコン、インスピレーション、宣教師、預言者そして詩人であり、常にそこにはない何かがあることを約束し、それをみつけるために私たちを導いてくれた彼に、お別れを告げよう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)