編集部記:Ross BairdはCrunch Networkのコントリビューターである。Ross BairdはVillage Capitalのファウンダーで執行役員である。
世界中のどのスタートアップの支援企業も業界を覆すような次の「ディスラプトをもたらすトレンド」を探している。そしてついにベンチャーキャピタル業界は、彼ら投資家自身がディスラプトの必要な市場と見なすようになった。
毎週のように「次のドットコムバブル」と危惧されるようになった。Kauffman Foundationは20年に渡り多くの起業家に対しベンチャーキャピタル投資を行ってきた。彼らは「私たちは敵を見つけた。それは自分たちだ」と伝えた。ベンチャーキャピタル業界は古びた割高の市場で、求められる結果を出せない業界なのだろうか?
ベンチャーキャピタルが世界を本当に良くするためには、彼らも投資先の企業のようにイノベーティブでなければならない。私たちVillage Capitalの投稿にも記したように、私たちは何万もの起業家に対して数百の新しい投資アプローチが行われていることを目撃している。そこで私たちはベンチャーキャピタルを良い方向に導く3つの挑戦課題を見て取ることができ、将来に胸を高鳴らせている。
実世界への影響
Economistの特集記事は、シリコンバレーがアメリカの資本主義の中心地になったことを祝うと共に、存続への課題に直面していると示した。「ギークはバブルの中に住み、彼らの帝国は彼らが必死に変えようとしている世界から隔離されている」。多くのテクノロジーを駆使したスタートアップは社会の恵まれた者に関わるものだが、他の何億人、そして何兆ドルにも及ぶ市場を置き去りにしている。
ベンチャーキャピタリストは実世界に影響のある業界を避けている。例えば、食品、健康、教育などだ。これらの業界は資本を大量に必要とし、複雑で、法律と深く関わることが求められるからだ。「健康は難しすぎる」、「教育の販売サイクルは長すぎる」という。
チャンスは平等でなくても、才能はありとあらゆる所にある。
しかし同時に、大多数の人の毎日の生活に影響を与える企業の方が、企業と関わりが深くなる従業員を引き寄せ、カスタマーの気持ちを引きつけることができる。また、ベンチャーキャピタルが避けていることもあり、投資家はより良い評価額を期待できる。実世界に影響を与える事業は、起業家にとっても投資家にとっても望ましいものだ。
ベンチャー投資企業のStellarは最近、Core Innovation Capital、DBL InvestorsとOwl Venturesをローンチし、このような分野に他社に先駆けてアプローチしている。金融サービス、食品、教育関連の企業を支援し、結果として強いリターンを生み出している。
また、大手金融機関のBain Capitalがマサチューセッツ州の前州知事のDeval Patrickを採用したことやゴールドマン・サックスが影響度に関する助言を行うImprint Capitalを買収したことから、投資家の事業を底上げするのは、このような実世界に影響を与えるセクターの企業であると考え、優先していることが分かる。
他の地域の台頭
チャンスは平等でなくても、才能はありとあらゆる所にある。アメリカのスタートアップ投資の75%はニューヨーク州、カリフォルニア州とマサチューセッツ州の3つの州に集中している。しかし、先進的な考えを持つ投資家は、世界の至る所で起業家がその地域に素晴らしい企業を構築していると考えている。
AOLのファウンダーであるSteve Caseと彼が立ち上げたRevolutionは、「Rise of the Rest(他地域の台頭)」と呼ぶ取り組みをローンチした。これは見過ごされている地域のスタートアップに焦点を当てる取り組みだ。これまでバスで14の競争力のある都市を巡り、成功が期待されるスタートアップに投資を行ってきた。
アイオワシティのPear Deckという企業はアイオワ州が開発した学生テスト(アイオワ州の基本スキルテスト)を用いて、次世代の学生向けの試験を製作している。ニューオーリンズのGoToInterviewは、ニューオーリンズ州で働く多くの接客スタッフに注目し、最低賃金スタッフを雇用する包括的な方法を構築している。両社のファウンダーは、それぞれが拠点を置く都市の特徴を活かしているのだ。
ベンチャー投資企業が慣例的に中心地と定めている場所以外のスタートアップに投資することで、結果的に投資家により高い評価額をもたらすだろう。また管理コストも低く、大抵の場合成功したスタートアップの周りにコミュニティーが形成される。一般的な投資家が注目していない場所に視野を広げる投資家は有利になるだろう。そして、成功するバランスの取れた経済を構築することもできるだろう。
包括的な起業家精神
起業が世界を変えるなら、それに全員を含めなければならない。しかし残念なことに、投資コミュニティーの大半はそのような視点を持っていない。アメリカのベンチャーキャピタル投資の10%以下しか女性が運営する企業に向かわず、少数民族の企業には3%以下しか回らない。多くの場合これは意図的なことではないが、Y CombinatorのファウンダーであるPaul Grahamはこのことに真摯に向き合い「Mark Zuckerbergに似ている人に騙されやすい」と話している。
Mark Zuckerbergは突出したリーダーだが、次の素晴らしい企業のファウンダーが彼に似ているとは限らない。オースティンを拠点とするStudent Loan Geniusのファウンダーは、ラテン系アメリカ人のTony Aguilarだ。彼は10万ドルの負債を抱え大学を卒業し、スタートアップを始めた。このスタートアップは、雇用主が学生ローンの返済を助ける福利厚生(401Kに似ている)を提供することができるようにする。最初の一年で既に100万人の適格する従業員を獲得している。
素晴らしい起業家が「資金力のある賢い男」を知らない場合はどうしたら良いのだろうか?
何故起業に関するダイバシティーの数字は低迷しているのだろうか?投資家は「パイプラインの問題」と考えている。「資金力のある賢い男(やはり、大抵男性)が企業を発掘し、投資パートナーに対して、その会社との取引が良いものであると説得する企業」に投資するのが一般的な投資戦略であり、ピッチの場合も「知人からの温かい紹介」があるのが好ましいと考えている。しかし、素晴らしい起業家が「資金力のある賢い男」を知らない場合はどうしたら良いのだろうか?
業界や地域、そして経歴に対する無意識の偏見を無くすには異なるアプローチが必要だ。Freada Kapor KleinとMitch Kaporは先日、グローバルに4000万ドルを少数派民族グループに対して投資を行うと発表 した。Gallupは経歴に関わらずリンカーンシティとデトロイトの全ての高校生を対象に起業家向きのスキルがある候補者を探している。Village Capitalでは投資する企業を起業家が互いを評価する方法で決定している。
ベンチャーキャピタルの未来
ベンチャーキャピタルは象徴的な企業を育て、限られた都市において少数の人に多大な価値をもたらした。しかし世界中の起業家は更に統括的でバランスが取れた適切な経済を構築しようとしている。彼らにはそのポテンシャルがあるのだ。
業界、地域、ファウンダーの経歴の先を見据えるベンチャーキャピタリストが私たちの求める経済を構築することになり、そしてその過程でこれまでにない成功を収めるだろう。
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