マネックスG代表取締役の松本氏、「コインチェックには素晴らしいブランド価値がある」

4月6日、NEM流出事件の渦中にあったコインチェックを36億円で買収すると発表したマネックスグループ。同日、そのマネックスグループとコインチェックは合同で記者会見を行った。

コインチェックは、一時はTVCMを大々的に放映し、顧客口座数も170万件を超えるほどの勢いがあった。とはいえ、重大なセキュリティ不全による流出事故を起こしたコインチェックを買収し、仮想通貨交換業に参入するのには、もちろんそれなりのリスクがある。その買収を決断したマネックス代表取締役の松本大氏は、本日開催された記者会見でコインチェックのブランド価値と仮想通貨に対する熱い期待を語った。

松本氏は、「コインチェックには素晴らしいブランド価値がある」と強調する。その証拠に、マネックスグループは買収後も“コインチェック”という社名とサービス名を維持する考えだ。また、外部牽制が必要との考えから、コインチェックを将来的に上場するという将来像も明らかにしている。「リスクは管理できるもので、どんなリスクにも値段がある。ただ、コインチェックが築いてきたブランド価値や顧客基盤をイチからつくることは到底できない」と、買収を決断した理由について語った。

「今回の買収を伝える報道も、日本語だけでなく、スペイン語やロシア語でも報道されている。マネックスグループとしては、こんなことは過去にはなかった。それだけ、コインチェックのブランドには価値がある」(松本氏)

今回の買収は、コインチェックから持ちかけた話だった。約3年前からコインチェックのユーザーとして個人的に仮想通貨の取引を行っていた松本氏は、かねてからコインチェック代表取締役の和田晃一良氏とCOOの大塚雄介氏とは交流があったという。

NEM流出事件後、松本氏はすぐに和田氏たちに対して「何かできることがあれば教えてほしい」と連絡をしていたのだそうだ。その後、両社のコミュニケーションは途絶えたが、3月半ばごろ、コインチェック側からマネックスグループに対し、会社売却の打診があったという。コインチェックは、この打診をマネックスグループを含む複数社に対して行っていた。

仮想通貨に対する松本氏の期待は熱い。「仮想通貨の時価総額は、金(きん)の時価総額の5%にまで達した。時価総額が1兆円規模の資産はいつか衰えるかもしれないが、ひとたび時価総額が50兆円にまでなった資産は、これからも伸びていく」と松本氏は話す。「金だって、偽物かもしれない。金だって、盗まれるかもしれない。仮想通貨はその真正性を証明することは必要だが、金よりも軽い仮想通貨は支払い手段としてメジャーになっていく」。

しかし、今回の事件を期に、多くの人々が仮想通貨取引の安全性について疑問を持ち始めたのは間違いない。コインチェックという名前を聞くと、まず今回の事件を想起するという人もいるはずだ。そのため、コインチェックの看板を文字通りに引き継ぐマネックスグループは、経営体制の抜本的な見直しを行い、サービスの安全性を高め、それをユーザーにアピールする必要がある。既報にあるように、コインチェック創業者兼CEOの和田氏とCOOの大塚氏は、経営責任を取り、現職を退任することが決定している。

和田氏は、「一番重要なのは顧客資産を保護することだと考えている。内部管理体制の強化のためには、私が代表取締役を退任することは手段の1つ。それによって体制が強化されるのであれば、(コインチェックを手放すことに)躊躇はなかった」とコメントした。

コインチェックは、460億円にものぼるNEM保有ユーザーへの保障金をすべて自己資金で賄うと発表していた。その保障も買収が決まる以前にすでに完了していたという。その事実からも分かるように、流出事件が起きる以前のコインチェックはそれ相応の利益をあげるだけの実力があった。

今回の買収は、のちに“それだけの実力をもつビジネスをお買い得価格で買えた”と評価されるのだろうか、それとも失敗だったと評価されるのだろうか。それは、マネックスグループが培ってきた金融企業としての経験や知恵をコインチェックにどれだけ活かせるかにかかっている。

松本氏は、「ほんの25年ほど前まで、国債の取引の現場では、数百億円もの有価証券をアタッシュケースに入れて日銀の5番窓口まで持っていっていた。金融の世界でも、案外最近まで色々なリスクを内包させながらビジネスをやってきたということだ。しかし、私たち金融業界の人間がビジネスをあり方を改善してきて今がある。そのような経験は、コインチェックの今後の発展に活かすことができる」と話す。

新生コインチェックは、4月16日をもって新しい経営体制を確立。これまで継続してきた管理体制の強化を4月以降も行い、約2ヶ月後をめどに仮想通貨交換業登録の取得とサービスの全面再開を目指すという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。