メルカリ創業者の山田進太郎氏、日米5500万DLの躍進をTechCrunch Tokyoで語る

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11月17日、18日に、東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。18日のキーノート・セッションでは、フリマアプリ「メルカリ」創業者でCEOの山田進太郎氏に、日米5500万ダウンロードを達成したメルカリの海外展開の取り組み、プロダクトへの姿勢について語ってもらった。聞き手はTechCrunch Japan編集長・西村賢。

躍進するメルカリの海外展開

今年3月に84億円の大型資金調達を果たし、未上場ながら評価額はビリオン(10億ドル)超、日本発のユニコーン企業として注目を集めるメルカリ。この週、11月15日にメルカリでは決算公告を発表していた。既に2015年末時点で黒字化、2016年3月時点で月間の流通総額100億円以上を達成していたメルカリ。2016年6月期の決算では、売上高は122億5600万円と前期の約3倍となり、営業利益は32億8600万円で、2013年創業から4期にして黒字化、大きな話題となった。

発表された決算の数字の中でも興味深いのは、90%を超える高い粗利率。山田氏は「原価のほとんどが人件費」と言う。「日本で300人ぐらいの人員がいて、海外でも結構増えています。」(山田氏)

山田氏はしかし、この超優良な決算公告の数字を「まだ日本単体で、海外や子会社の数字は含まれていない。(世界)全体として見たらまだまだ投資している(モードだ)」と控えめに評価する。「国内でも伸びしろはあるが、次の桁を変えるには海外へ出て行かなければいけない。開発リソースは9割、米国に割いている。最悪、日本を落としてでも、米国市場を取っていく」(山田氏)

なぜ米国にこだわるのか。タイや台湾などは、日本と文化的にも親和性が高いし、インドネシアであれば多くの人口を狙っていけるが、東南アジアではいけないのか。この質問に「米国市場は大きい。ミッションである”世界的なマーケットプレイスを創る”ためには、米国でサービスが使われていないといけない」と山田氏は話す。

「個人的には、世界のいろんな人にサービスを便利に使ってもらうことで、大きく言えば人類への貢献ができるんじゃないかと考えている。そのために会社を作ったんだし、そこ(世界へのサービス展開)をやっていく」(山田氏)

「実は最初(に起業した時)から、(世界への展開に対する)意識はあった」という山田氏は、ウノウのZyngaへの売却と、Zynga Japanへの参加についても「グローバルなインパクトを出すことができると考えたから。Facebookで強かったZyngaはユーザーが全世界に3億人以上いて魅力があった」と言う。

今年だけでも84億円の調達を実施し、株式市場への上場も視野に入っているはずのメルカリだが、これまでのところ、上場は選択していない。海外展開に当たって、海外市場への上場などは検討しているのだろうか。「いろんなオプションを探っているところだ。いつIPOするかも含めて、まだ何も決まっていない。会社が大きくなっていけば、社会責任を果たすこと、社会の公器になることは必要だと思うけれども、まだタイミングではないですね」(山田氏)

そのタイミングとは。山田氏は「米国でのサービスは伸びているが、もっともっと成功しなければ。米欧で成功できれば、いろんな国で継続的に成功していく方法論が確立するのでは、と思っている。今のところ、どうやって米国で成功するかに集中している。その後、日米欧3拠点でどうやって開発していくのか、コミュニケーションをどう取っていくのか、多拠点での事業の進め方も考えなければならない。まだ、事業計画を出して(ワールドワイドで)継続的に成長していくという段階ではない」と堅実に事業を進めていく考えを示す。

プロダクトの差別化は少しずつの改善の積み重ね

アプリケーションとしてのメルカリは、2016年8月時点で、日本で3500万ダウンロードを達成している。メルカリの日本での今後の見通しについて、山田氏は「減速の予見はない。流通額も伸びている」と話す。「PC時代やガラケー時代に比べると、スマホ時代はユーザーが多い。LINEなんかもMAU(月間アクティブユーザー数)が国内で6000万ぐらいある。一家に1台だったPCと比べると、ひとり1台に普及していることが大きい」(山田氏)

米国でも、2000万ダウンロードを2016年9月に達成。ダウンロード数の推移を見ると、この夏、急速に伸びていることが見て取れる。

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「この伸びは、CMなど特別なプロモーションを打ったわけではなくて、インスタグラマーやSnapchatユーザーが“メルカリはいいよ”と投稿を始めて、そこから招待コード制度で拡散したことが理由。App StoreやGoogle Playのランキングに載ったことで、さらに加速した」(山田氏)

現在の米国の状況については「一時よりは落ち着いたが、ベースが上がっている感じ。招待コードキャンペーンは続けている。インフルエンサーにお金をかけるプロモーションは行っていない。ただ、あらゆる機能改善を米国にフォーカスして、1年ぐらい続けてやってきていて、それが広がる下地となった」と山田氏は話している。

この施策が当たった!というものはなく、少しずつの積み重ねが、米国でのDL数増に功を奏したと言う山田氏。「GoogleでもSnapchatでも、エンジニア中心の小さなチームが無数にあって、それぞれが改善を続けている。Facebookで動画が急にきれいに見えるようになったりしたのも、そうした結果。みんな、ちょっとずつそういう改善を続けて、Facebookの場合なら友だちが増えたり投稿が増えたりしていって、今や誰も追いつけないくらいの機能とユーザー数になっている。メルカリにとっても、1%の改善をどれだけ繰り返せるか、ということをやり続けることが強みになっている」(山田氏)

開発には現在100人ぐらいが関わっているが、役割を固定せず、流動性を大きくしている、と言う山田氏。「A/Bテストができる基盤は作ってあるので、各チームの中で自由に『こういうことしたら、いいんじゃない?』と(機能の調整を)やってます」(山田氏)

「Facebookなんかだと、少しずつ違う機能や見た目が部分的に反映された、何万というABテストが(同時に)走っている。メルカリでも数十本は走ってる。米国版ではテストが特に多い。(米国版の機能で)日本だと受け入れられるかどうか、というものは日本でもテストしているので、パターンは膨大にある」(山田氏)

アプリの機能以外のサービス面でも、米国ではトライアルが続いている。手数料の導入はサービス面での大きな変更だ。「米国でも新規の出品者に10%の手数料を導入したところ。まだ結果は分からない。来週からは出品者全体で手数料を始めるので、勝負どころになります」(山田氏)

山田氏は、米国でも日本でも、今までのウェブサービスの普及パターンと違う動きが見えると言う。「LINEなどもそうかもしれないが、日本だと、ユーザー数でいえば東京は多いんだけれども、地方ユーザーでも若くて子どものいるお母さんみたいな層から火が付いた。米国の場合もこれまでは東西海岸の都市部が普及の中心だった。それがメルカリでは、カリフォルニアは確かにユーザー数は一番多いけれども、その後はテキサス、フロリダと続いていって、普通の人が使っている印象。両海岸から広がっているのは今までと同じだが、広がるスピードが早くなっている。スマホ時代になって、時間×量という意味では、地方に住んでいる可処分時間が多い人がサービスを使うようになった。ユーザー数と時間・量の全体で見たときに、総時間では都市も地方も同じになっているのではないか」(山田氏)

メルカリ特有の“文化”について

「取り置き」「○○さん専用ページ」「確認用ページ」……。メルカリにはアプリ独自で、利用規約やシステムとは連動していないユーザーによる“私設ルール”がたくさんある。これらの“メルカリ文化”ともいうべきルールについても、山田氏に聞いてみた。

photo03「本来はシステムや機能で解決すべきだとは思います。Twitterの返信で使われている“@”なんかも、元々はユーザーが勝手に使い始めた運用をシステムで取り入れた例。ユーザーの使われ方によって、機能を取り入れられるのが良いとは思う。メルカリでもやりたいんですが、優先順位の問題で取り入れられていないですね。米国にフォーカスして(開発を)やっているので、日本でやったらいいな、ということがなかなかできていない。それは申し訳ないけど、これから要望に応えていく部分もあるので……」(山田氏)

日本だけにフォーカスした機能は、ローカライズが進みすぎるので避けたい、とも山田氏は言う。「バランスを取っていかなければ。シンプルで誰が見ても使える、というものをユニバーサルに作っていきます。会社全体、経営陣として、全世界に必要な機能は議論(して検討)する。それが日本ローカルな機能なら、優先順位は低くなる」(山田氏)

またeBayなどのオークションサービスでは価格が安定しているのに対し、メルカリでは出品物の価格のばらつきが大きく、状態もさまざまだ。このことについては「オークションでは、モノに適正な値段を付けるというところがある。でも(メルカリの場合は)価格だけじゃない。同じ物でもコンビニはスーパーより高く売っているけれども、それはその分便利という価値がある、ということ。メルカリならすぐに買える、店にないものがある、という購入者の感情と、自分はいらないから誰かに使ってもらいたい、という出品者の感情をうまくつなげている。中には、タダでもいいから、もったいないから使ってほしいという出品もある。その気持ちに経済的価値があるんです」と山田氏は話す。

山田氏は、ポイントの存在も購入行動に影響を及ぼしていると見る。「アマゾンより高い出品もあるのに、なんで売れるのかというと、ユーザーが別の出品で売上を持っていて、ポイントなんかを使う感覚なのではないか。売上を引き出してアマゾンで買えばいいんだけど、それだと手間と時間がかかるので、利便性を取っているのではないかと思う」(山田氏)

メルカリの日本での利用の伸びについては、こうも話している。「昔は日本でも道ばたでモノを売るような世界があったし、新興国では今でもまだそういう売買のシーンがある。それが単純にオンラインで仕組み化されたことで、復活してきているということではないか」(山田氏)

メルカリでは、企業ではなく個人ユーザー同士によるCtoCのフリマにこだわっている。運営側が常に見てくれていて、ヤフオクなどと比べると気を遣ってくれている感じ、安心感がユーザーにあるのではないだろうか。だがここへ来て、業者ではないかと思われるユーザーも出てきているようにも見える。ユーザーのサポートやケアについて、山田氏はどう考えているのか。

「メルカリはできる限り、自由な場であってほしい。(先日Twitterなどで話題になった)お子さんが仮面ライダーカードを買うために、お母さんが子どもの拾ってきたドングリをメルカリに出品したケースのように、何でもやり取りしてもらえれば、と思う。規制していたら、ドングリみたいな新しいものは生まれないです」(山田氏)

一方で取引のトラブルや、悪い出品者・購入者に当たったというケースもある、と山田氏は続ける。「そこでメルカリに問い合わせをすれば、解決してくれる、という安心感があれば、場が健全に保たれる。商品が送られてこなかった、という時でも、すぐにお金を返してくれた、となれば、『今回はたまたま悪い取引に当たっただけで、メルカリ自体はいいところだ』と思ってくれるでしょう」(山田氏)

「こういう出費は5年先、10年先を考えたら回収できる」と山田氏。「長期的に使ってくれて、何十年も続いていけるサービスにしたいと思って、そういうカスタマーサポートをやってます。今はエンジニアとカスタマーサポートにお金をかけている」(山田氏)

日本発ユニコーン企業の先駆者として

日本人メジャーリーガーとして活躍し、イチローや松井秀喜のメジャーリーグ入りに先鞭をつけた、投手・野茂英雄。彼を例えに、山田氏に米国での躍進と、後進への思いについて聞いたところ、その返事は意外なほど慎ましいものだった。

「誰かが(アメリカへ)行って通用すると分かれば、フォロワーが出る。先駆者がいれば後も変わっていくと思っているので、何とかして成功したいとは思っている。だが、そこまで余裕があるわけじゃないんです。自分たちが何とかしなければ、という危機感は社内にも強い。2000万ダウンロードで順風満帆、人材も潤沢で完成されているように見えるかもしれないけれども、実際は大変。日本のプロダクトも改善は足りないし、相当の危機感がある」(山田氏)

好調決算についても「日本単体での数字で、それもアメリカへの投資に使っているわけだし、まだまだ」とさらなる成長を追求する姿勢だ。

さらに競合に関する質問では「プロダクトで勝つしかないので、競合という視点はないんです。プロモーションなどでお金をかけることはできるが、結局いかにいいものにし続けられるかが大事」と山田氏は語る。そのプロモーションについては、メルカリではTV CMに大きく費用を投下しているという。「米国でもCMのテストを行っている。まだ結果は分からないが、分析を続けて、あらゆるチャレンジをしている」(山田氏)

最後に、起業家志望の方に向けて、山田氏からメッセージを伺った。「僕も必死でやっているところだけれど。海外へ出て、何かを作って、便利に使ってもらうことはとても価値があること。一緒に頑張っていきましょう」と山田氏。学生起業を目指す人にはこう語った。「僕が1990年代後半の楽天に内定して働いていた頃は、毎月のように人が増えていて高揚感があった。それが起業家としての原体験にもなっていて、そのころの雰囲気をメルカリでいかに再現するかが指標にもなっている。だから伸び盛りの会社に一度行ってみるのもいいと思う。ただ、やりたいことがもうハッキリしているなら、早くやればいいと思うよ」(山田氏)

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投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。