イギリス発のスタートアップで、18〜34歳の消費者をターゲットとしたモバイル専門銀行を立ち上げたAtom Bankは、スペインの銀行BBVAが中心となったラウンドで新たに8300万ポンド(1億200万ドル)を調達した。なお、BBVAはAtomと似たサービスを提供している米Simpleの親会社でもある。今回のラウンドをうけて、Atom Bankの評価額(ポストマネー)は2億6100万ポンド(3億2000万ドル)に達したことが、同社との確認の結果わかった。またBBVAは、2015年11月に行われたAtomの1億2800万ドルのラウンドでも、リードインベスターを務めていた。
調達資金は、ユーザーベースとサービスの拡大、さらには貸出の原資として使われる予定だ。Atomは2016年4月に正式にローンチし、顧客はiOS・Androidの両OSに対応したアプリから同社のサービスを利用している。今日では、中小企業に対して住宅ローンやFixed Saver口座(金利固定の定期預金口座)、担保貸付といったサービスも提供されている。
今回のラウンドに関する発表の数週間前には、自分でスタートアップまで設立し、イノベーションの力を使ってファンを築こうとしている、テック起業家兼ミュージシャンのWill.i.amが、Atomの株式と引き換えに、コンサルタント兼顧問として同社に参加しようとしていると報じられていた。さらにこのニュースを報じたSky Newsは、Atomが1億ポンド近い資金を調達中だとも記していた。
Atomの広報担当者は、Will.i.amの件についてはコメントを控えているが、近々さらなる資金調達について発表予定だと話しており、もしかしたら追加調達元の投資家にWill.i.amが含まれているのかもしれない。
リードインベスターのBBVAは2940万ポンドを出資し、ポストマネーでも29.5%の持株比率を維持すると話している。前回の資金調達時の評価額は1億5250万ポンド(2億ドルちょっと)だったため、今回はかなりのアップラウンドだった。これでAtomの累計調達額は、2億1900万ポンド(2億6800万ドル)になる。
BBVAの持株比率が30%を下回っているのには理由がある。イギリス法のもとでは、30%以上の株式を保有している株主は、強制的に買収オファーを提示しなければならないのだ。
ブレグジットの影響で、イギリスの金融機関の行く末は未だハッキリしていないながらも、BBVAが限界点ギリギリで株式を保有し続けていることから、まだ何かが起きる可能性がある。
フィンテックはイギリスのテック業界の中で1番将来有望な分野だ。多くのスタートアップがその波に乗って、インターネットや携帯電話など新しいチャンネルを利用してプロダクトを提供しつつ、コスト削減を図っている。Atomにいたっては、マーケティング資料の中で初期の顧客のことを「ファウンダー」と呼んで彼らの機嫌を伺っているくらいだ。
Atom以外に類似サービスを提供している企業としては、Monzo(先日大型の資金調達を実施)、Starling、Tandemなどが存在する。
しかし全て企業にチャンスが残されている。イギリスの消費者は貯蓄講座などの金融商品に対して、長らく積極的に手を出してこなかったため、Metro Bankのような競合企業を含め、フィンテックスタートアップが従来の銀行に挑戦しようとしているのだ(AtomのCEOであるMark Mullenは、いわゆる「チャレンジャーバンク」のオンライン専門銀行First DirectのCEOを以前務めていた)。
Atomはサービスの利用状況に関して何の指標も公開していないが、まだサービスは初期段階にあり、ユーザー数もそこまで多くはないようだ。TechCrunchの取材に対し、現在のユーザー数は1万4000人で、その数は急速に伸びていると同社は語っていた。ちなみにイギリスの人口は6600万人で、Atomが特定の層を狙っているとはいえ、他の消費者の利用を制限しているわけではない。
いずれにせよ、将来的にユーザーベースを拡大できるよう、今のところ彼らは資金力の増強に力を入れているようだ。
「投資家からの反応には大変満足しています」とAtomのファウンダーで会長のAnthony Thompsonは語る。なお彼はAtom以前にも、Metro Bankを立ち上げてイギリスの銀行業界にディスラプションを起こそうとしていた。「Atomが著名な投資家からの支援を受けているということは、顧客にとってもプラスになります。彼らからの投資は、Atomの成長と将来へのプランに対する期待の表れです。これまでいくつかの施策に取り組んできましたが、銀行取引に対する私たちの新しいアプローチの革新性はまだ発揮されはじめたばかりです。Atomにはまだまだこれからも期待してほしいですね」。
今回のラウンドには、既存株主のWoodford Investment ManagementやToscafund Asset Management、他にも名前が公表されていない複数の投資家が参加していた。
[原文へ]
(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)