スマートフォンやモバイル端末を使った「モバイル決済」は盛り上がりを見せつつある。最近の話で言えば、Apple PayでSuicaが使えるようになり、すでにAlipayやLINE Payに対応する「モバイル決済 for Airレジ」も2017年夏頃からビットコイン支払いにも対応すると発表した。
また、日本政府は2020年までに訪日外国人観光客を4000万人にする目標を表明している。そうなれば、特にAlipayやWeChat Payなどが普及する中国からの観光客に対応するためにも、日本でもモバイル決済が使える環境の整備が期待されているところだろう。
そんな中、日本銀行は店頭でのモバイル決済の動向をまとめた調査レポート「モバイル決済の現状と課題」を6月20日に発表した。
なお、モバイル端末に差し込むクレジットカードリーダを使ったサービスを”モバイル決済”と呼ぶこともあるが、ここでいうところのモバイル決済とは、端末をかざしたり、コードを読み込んだりして決済を行うことを指す。
決済可能な端末数
本レポートによれば、決済機能を搭載したモバイル端末の数は増え続けている。駅の改札口などでお馴染みのFelica方式で決済可能なモバイル端末は2007年から上昇し続けており、2017年3月時点では3000万台を超している。
ただ、カード型電子マネーの発行枚数の上昇スピードの方が高いため、全体における比率は2012年から低下し続けている。
なお、QRコードやバーコードを使う方式(Chase Pay、Alipay、WeChat Pay、LINE Payなど)や、Bluetoothを用いる方式(Origami Payなど)は、統計が整備されていないなどの理由から、この数からは除外されている。
モバイル決済の利用状況
日銀が2016年11〜12月にかけて実施した第68回「生活意識に関するアンケート調査」によれば、モバイル決済を「利用している」と答えた日本人は全体の6%にとどまる。また、「機能はあるが利用していない」と答えた人も全体の42%存在するという。
つまり、日本のモバイル決済は、控えめに言ってもほとんど普及していないということだ。
ただ、これは他の先進諸国でも同じことが言える。本レポートでは、米連邦準備理事会(FRB)が2015年11月に実施した調査、およびドイツのブンデスバンクが2014年に実施した調査の結果を紹介している。それによれば、モバイル決済を「利用する」と回答した人は米国で全体の5.3%、ドイツでは2%と低い。
一方で、従来の金融サービスが十分に行き届いていない一部の新興国では、モバイル決済の普及率が圧倒的に高い。ケニアでは、携帯電話加入者の約76.8%(2015年6月)がモバイル決済を利用。中国で行なわれた調査では回答者の98.3%が過去3ヶ月間にモバイル決済を「利用した」と答えたという。
その他要点まとめ
本レポートから読み取れる他の要点を以下にまとめた。
- モバイル決済を利用していると答えたのは、20代から50代男性が多い。これは他の先進国でも同様。地域別で見ると関東圏が高い。
- 日本の電子マネー利用額は他の先進諸国と比べても圧倒的に高い(2015年で約4.4兆円)。それにクレジットカードとデビットカードでの決済を加えたカード決済額全体を見ると、2016年度で56.6兆円となっている。
- 日本人は多くの決済用カードを持つ(平均7.7枚)が、それほど多くの金額を使っていない(GDP比で見ると世界14位)。
- モバイル決済を利用しない理由として多かったのは、「セキュリティに対する不安」と「現金やクレジットカードの方が便利」というものだった。
- 店頭に設置された非接触ICタイプの電子マネー決済端末の台数は、2016年9月時点で約195万台。
- 規格の違いや対応店舗の少なさといった制約があるなか、日銀は「先行き、実質的に利用可能なネットワークの拡充に向けた、関係者の取り組みが重要となっていくと考えられる」とコメント。関連事業者への激励叱咤ともとれる。
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