【編集部注】執筆者のJason Rowleyはベンチャーキャピタリスト兼Crunchbase Newsのテクノロジー記者。
起業家がよく口にする「スタートアップを始めるのに最適な街はどこか?」という問いは、いつの時代も耳にする、なかなか答えが出ない問題だ。期待をもたせないために先に伝えておくと、この問いに正解はない。テックエコシステムではよくあるように、この問いにはいくつもの要因が絡み合っている。しかし、ひとつだけ言えることがあるとすれば、ネットワークは重要だということだ。
街のネットワーク
ネットワーク理論の中には、「同類性」と呼ばれるコンセプトが存在する。これは、性質の似た個体同士の方が、そうでない個体に比べて繋がり合いやすいということを意味している。つまり「類は友を呼ぶ」ということだ。それでは、もしある起業家がユニコーンクラブ(評価額が10億ドルを超える非上場独立企業の集まり)に入りたい、もしくは資金的な安定を求めている場合、その人はどの都市に拠点を置けばいいのだろうか?
この問いであれば、ちょっと捻りを加えて答えることができる。
活発なスタートアップエコシステムが存在し、ユニコーン企業もしくは調達額が5000万ドルを超える企業の数が多い大都市を見つけるというのはあまりに簡単だし、そこまで意義があるとも言えない(ネタバレ:全てに関してサンフランシスコのベイエリアが1番だ)。
そこで、アメリカでもっともユニコーン企業や資本が潤沢な企業の割合が高い地域について考えてみたい。つまり、ユニコーン企業や調達額の多い企業を、その地域で設立された企業の総数で割った数を以下で確認していく。
スタートアップを始めるのに”最適な”街探し
この調査にあたっては、Crunchbaseに掲載されている、アメリカ中の2003年以降に設立された3万3500社のデータを分析した(Aileen Leeの定義によれば、2003年がユニコーン時代の始まりとされている)。
このデータセットからは、設立前に資金調達を行ったとされる企業は取り除かれている(これは分析結果にノイズをもたらすエラーとした)。というのも、私たちが分析しようとしているのは、ソフトウェアを中心とするプロダクトやサービスを提供している”普通”の企業だからだ。同様に、資本集約的な事業(エネルギー、石油精製・採掘、製薬、医療機器等の生命科学事業)を営む企業も調査対象から外している。
そこから全体のデータを分析し、2003年以降に各地で設立された企業のうち、基準を満たすものをピックアップしていった。もちろん、設立年や拠点情報が掲載されていないために、対象データから漏れてしまった企業も存在するだろう。しかし分析対象となった企業の総数を考えると、これは誤差の範囲におさまる程度だ。
ユニコーンの生息地
ユニコーン企業に関しては、Crunchbase Unicorn Leaderboardを参照し、評価額が10億ドル以上の非上場企業、もしくは既にエグジットを果たした企業を対象とした。その結果、アメリカには現在144社のユニコーン企業が存在することがわかった。以下がユニコーン企業の数がもっとも多い5地域だ。
- サンフランシスコ・ベイエリア:83社
- ニューヨーク:22社
- ロサンゼルス:8社
- ボストンとシカゴ(同位):5社
- ソルトレイクシティ:4社
ここまでは予想通りの結果だ。しかし、ユニコーン企業の数を2003年以降に設立された企業の総数で割ることで、ユニコーン企業の密集した地域が導き出せる。
「ユニコーン企業はどこにいるか?」という問いにこんな風に回答を導きだしたことで、規模の小さなスタートアップエコシステムの存在が浮き彫りになるという、意外ながらも面白い結果となった。
多額の資本が集まる成熟したスタートアップエコシステム
ユニコーン企業の分布を見て面白いと感じる人もいるかもしれないが、そこから得られる情報には限りがある。10億ドル以上の評価額がついた企業を144社見つけられたものの、そのほとんどは一箇所に集中しており、それ以外に特段分析すべきようなところもない。
それでは少し視野を広げて、次は”資本が潤沢な”企業の割合が高い地域を見ていきたい。下の地図に、2003年以降に設立された企業のうち、資本が潤沢な企業の割合が高い地域をプロットした。しかし、まずは対象企業の基準について説明しよう。
ここでは累計調達額が5000万ドル以上の企業を”資本が潤沢な”企業と考えた。個々の企業レベルで言えば、ほとんどが設立から数年が経ち、少なくとも資金調達ラウンドを2回経験した企業で、彼らはIPOやM&A、または自己資金での生き残りに向けて比較的順調に進んでいっていると言える。
エコシステムレベルで言えば、調達金額の多い企業がたくさんいるということは、多額の資金を現地企業に投じようと考える投資家がその地域にたくさんいるということを示唆している。あるいは、もしもその地域に投資家があまりいなかったとしても、現地企業には外から資金を調達するだけの力があるということがわかる。
そこからさらに分析結果に磨きをかけるため、2003年以降に設立された企業の数に下限を設定した。というのも、もしある地域で過去14年間に設立されたスタートアップの数が5社しかなく、そのうちの1社が5000万ドルの資金調達に成功したとする。厳密に言えば、その地域で設立された企業の20%が潤沢な資本を持つ企業ということになるが、母数が少なすぎるためこのデータは参考にならない。4匹の小魚しかいないプールの中でクジラを見つけても、私たちの目的からはズレてしまう。
そのため、ここでは2003年以降に少なくとも20社以上を輩出した地域を対象とした。こうすることで、ベイエリア外のたまたま10億ドル企業が誕生した地域ではなく、スタートアップエコシステムとしてある程度持続性を持った地域に目を向けることができるのだ。
こちらのインタラクティブマップからとった下のスクリーンショットには、各地域のスタートアップの総数に占める、資本が潤沢な企業の割合が示されている。リンク先の地図では、青い点の上にポインタをかざすと5000万ドル以上を調達した企業の数が表示されるようになっている。
すると、街としての規模は小さくとも、資本が潤沢な企業の割合が比較的高い地域が散見する。アイダホ州のボイシ(Boise)やヴァージニア州のアレクサンドリア(Alexandria)、フロリダ州の”スペースコースト”エリア、ノースカロライナ州のシャーロット(Charlotte)は、全てベイエリアやボストンといった巨大スタートアップハブよりも資本が潤沢な企業の割合が高い。ニューヨークやシカゴ、ソルトレイクシティなど、ひとつ前の指標で上位につけていた地域は逆にランクダウンしている。
まとめ
スタートアップを始めるのに最適な地域というのは存在しない。サンフランシスコやニューヨーク、ボストンといった主要地域は、これまでに誕生したプロダクトや企業という点では確かに活気に溢れているし、素晴らしい地域だと言える。その一方で、生活費は高く、次の10億ドル企業をつくるのは自分だと息巻いている起業家も当然たくさんいる。
対照的に、シャーロットやソルトレイクシティ、ヒューストンといった比較的規模の小さな地域は、主要地域に比べれば生活費も安く、ベイエリアやニューヨークに比べて”打率”も高い。しかし、企業数の多くない規模の小さな地域という事実に変わりはなく、巨大企業の存在は単なる偶然であることも多々ある。
誤解のないように伝えておくと、ユニコーン企業と資本が潤沢な企業の数だけで、スタートアップの拠点を決めるというのは賢明とは言えない。そういった企業は、豊かで勢いのあるエコシステムがあるからこそ生まれるのであって、その逆ではない。規模が大きく活気で溢れ、資金調達やコネクション作りがしやすいエコシステムを選ぶか、それとも自分たちがそのようなエコシステムを作っていくのかというのは起業家自身の選択なのだ。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)