テクノロジが一つまた一つと、メディアを利用するための鍵を大衆の手に渡してきた。放送用機器や大型印刷機など、プロフェッショナルな機械装置を持ち、世の中に影響力を及ぼす力をもった人たちが独占していた情報共有の方法が、今やスマートフォンでみんなのものになった。ジャーナリストやテレビタレントにしかできなかったことを、今では、それまで受け身な消費者でしかなかった人たちができる。
そういう進歩とともに、人びとは情報をトップダウンでコントロールしていた人たちの力を奪い取り、検閲や“情報の浄化”からも自由になっていった。新しいツールが出るたびにますます機会均等になり、誰もが、重要な情報や楽しいコンテンツを人びとに配布できるようになった。
必ずやってくる民主化
これまでの15年間で、まず、記録されて非同期で配布されるメディアが解放され、次いで、リアルタイムに近いメディアも解放された:
- テキストの公開・発行: Blogger、WordPress、Medium
- 写真: Flickr、Instagram
- 記録されたオーディオ: ポッドキャスト、SoundCloud
- 記録されたビデオ: YouTube、Vine、Snapchat
- リアルタイムに近いテキスト: Twitter
次は何だろう?
この、誰も止めることのできないメディアの民主化の、最後のステップが、ライブのビデオブロードキャストだ。
今がそのとき
ライブのビデオは、これまで徐々に、大衆化してきた。1996年という早い時期から、Marc Scarpaのような人たちが、彼らが、重要だからみんなに見せたいと思ったイベント、たとえばTibetan Freedom Concert(チベットに自由をコンサート)などを、ライブでストリーミングしていた。
Webでは、uStreamやLivestream、Justin.tv、Bambuserなどが、技術のない人でも簡単にリアルタイムのビデオストリーミングができるサービスを提供した。そしてKyteやYouTube Hangouts On Air、Twitch.tvなどがそれらをさらに磨いた。
しかしモバイルで状況は一変した。ライブ(==リアルタイム)のビデオをブロードキャストするテレビ放送車並のメディアが、本格的に民主化した。
- モバイル(==ポータブル)なので、スタジオなどの室内ではなく、現場で今起きてる多様な事象を撮影できる。
- HDの精細画像を撮影〜送信〜表示可能。
- カメラもディスプレイもどんどん良くなってる。
- ネット上ですでに友だちや仲間ができているのでオーディエンスの構築が早い。
ライブのビデオブロードキャストは、モバイルが主流になりつつある。そしてそれは、どんなビジネスになろうとしているのか。
ブロードキャストをめぐる競争
Meerkatの例
二週間前までは、ライブビデオを真剣に話題にする者は一人もいなかった。その二週間前には、Meerkatは存在しなかった。Twitterの関心グラフに乗っかる形のきわめてシンプルなインタフェイスを作ったMeerkatは、誰もが問題なくスムーズに使える初めてのモバイルライブストリーミングアプリだった。Twitterに乗っかるわけだから、ユーザはオーディエンスの構築や宣伝、コメントを調べる、などなどをいっさいする必要がない。
MeerkatのアプリにはSnapchatを思い出させるような、粗さがあった。バグのおかげでコメントが消えたり、プッシュ通知が届かず、ストリームは落ちる、ビデオは撮れない。ずっといつまでもあるツイートに比べると、ストリームは短いから、Twitter上のMeerkatのリンクは行き止まりの袋小路みたいになった。
しかしそれでも、Meerkatは成功した。Product Huntでは大好評、テク界隈のエリートたちが群をなしてユーザ登録、知的な議論もあれば、アートのギャラリーあり、ペットのビデオあり、夕日を撮ったのあり、一時間の超長編談話もぼくには楽しめた。
完全なプロダクトではないかもしれないが、このアプリの周辺には貴重なる臨界質量とネットワーク効果が形成されつつある。Meerkatという商標は、モバイルライブビデオブロードキャストの代名詞みたいになった。Kleenex(クリネックス)がティッシュの代名詞であるように。Xerox(ゼロックス)がコピー機の代名詞であるように。今後この市場に参入する連中はみな、Meerkatの影を意識しつつ、相当強烈でユニークは差別化を図らないかぎり、たぶん成功しない。
Periscopeの例
そう自覚したのがPeriscopeだ。作ったのはモバイル教育アプリTerribyCleverのチームだが、同社はBlackboardに買収された。Periscopeは洗練されたライブストリーミングアプリだが、まだステルスだ。ベータを経験した某氏曰く、“Meerkatよりずっと良い、これまで使ったモバイルアプリの中では、ベストだ”、だそうだ。
ぼくはMeerkatについて、“このライブストリーミングアプリはTwitterが作るべきだった”、と書いた。Twitterが内製するか、あるいはどっかを買収すべきだ。ライブでブロードキャストされるビデオは、情報を瞬時に、そして自由に共有する、というTwitterのミッションに合っている。
TwitPicは、写真の共有を民主化する外部サービスだった。例の、ハドソン川に不時着した旅客機の写真は、世界中に共有され、TwitPicの名を高めた。じっとしているべきではない、と気づいたTwitterは写真共有機能を遅まきながら作った。ライブストリーミングも、その轍になるべきだ。
というわけで、長い話の短い結論は、実際に今TwitterはPeriscopeの買収を交渉中である。1億ドル、という説もある。ライブストリーミングは、単独のアプリとして成り立つほど頻繁には使われないかもしれない。でもTwitterの一機能なら、たちまち、世界中のユーザの人気機能になるだろう。撮る方も、視る方も。
ライブがWebのメインになる日
内製か買収かという話よりも、もしもTwitterがこれをやらなかった場合がたいへんだから、とにかくPeriscopeでやる、という話の方がずっと重要だ。古参のLivestreamやuStreamも、モバイルをやるだろう。Twitchも、ゲームの実況以外のものに、手を広げてくるだろう。
今、一対一のビデオストリーミングのあるSnapchatも、スター級のクリエイターたちのコミュニティがSnapchat Storiesの上で大きくなっているから、ライブブロードキャストを検討せざるをえない。
でも、今圧倒的にメジャー化しつつあるのは、なんと言ってもMeerkatだ。FacebookがPokeで自覚したように、機能の真似をするのは簡単でも、コミュニティは真似では作れない。PeriscopeのようなMeerkatの競合プロダクトは、今後も独立で行くのなら、そのあたりの強化がぜひとも必要だ。
Twitterがライブストリーミング機能を作ったら、MeerkatもTwitPicと同じ、衰退の道を辿るかもしれない。でも、そんな話が現実になるまでは、Meerkatsを打ち負かすのは難しい。
ぼくがライブストリーミングについて、こんだけ騒ぐ理由は、あらゆるメディアの中でいちばん、リアルで迫力のある情報を提供できるからだ。難しい知的な話題でも、遠くにいる美人でも、特ダネニュースでも、あるいは陳腐なライフキャスティングですら、リアルタイムで見れば楽しみが大きいのだ。
あらゆる人が日常的にブロードキャストするわけではないけど、それはツイートでもブログでも同じだ。でも一方、テレビを見たり、IMしたりは、多くの人が毎日やる。ライブビデオのスター級の作者になる人はごくわずかでも、友だちにちょっとしたビデオを送りたい人はたくさんいるだろう。同じく、友だちの日常をビデオでちょっと見たい人も、多いよね。
そして誰もが、小さなコミュニティのスターになる。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)